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第5章 差し入れは甘く、切なく

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「うーん。だいたい情報は出そろったかな。あとは文章だね。説得力を持たせないと」

 あれから、宮沢さんに企画書指南を受ける毎日は続いていた。

 今日でだめ出し3回目。
 ようやく形になってきた。

「できたら今日中に完成させたいな。そろそろプレゼンの練習もしたいし。今日、残業できる?」

「はい。大丈夫です」

 企画書はなんとか先が見えてきたけど、宮沢さんに「プレゼンも高橋さんがしてね」と言われ、結局それも引き受けることになった。

「悪いけど、今日、6時半から本社で打ち合わせの予定があって、一緒にいてあげられないんだけど」

「あっ、一人で大丈夫です。マネージャーの企画書を参考にしてやっておきます」

 宮沢さんは嬉しそうにうなずくと
「高橋さんは飲み込みが早いから助かるよ。やっぱりあのとき、無茶ぶりしてよかった」

「えーっ。やっぱり無茶ぶりだったんですか」

 宮沢さんは目を細め、片方だけ口の端を上げて、にやっと笑った。

 なんだか、いたずらが成功した男の子みたいな顔してる。
 こんな表情もするんだ。
 なんか、可愛い。

「まあね。でも、俺が見込んだ通りっていうか、それ以上の仕事をしてくれてるよ」

 いろいろ悩んだ末に、半ば開き直って、とにかく仕事に集中することにした。

 恋愛感情は封印して、部下として宮沢さんの役に立つことだけを考えることにした。
 そう考えはじめたら、企画を練ること自体が楽しくなってきた。

 いい企画にしよう。
 今はそれだけを考えていた。

「明日までに完成するように頑張ります」
 そのとき、向こうの席から「マネージャー、電話でーす」と声がかかった。

「じゃあ、よろしくね」と、彼は慌ただしく席に戻っていった。
 
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