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第四章 避暑地の別荘
三
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食事中、高志と父は昨今の世情について、しきりに意見を交わしていた。
桜子が会話に入る余地はない。
女子供は男同士の話に口をはさむなと、暗に言われているようだった。
「それで、この間の件は御異存なしということでよろしいですか」
唐突に、高志は父に向かって言った。
「ええ、もちろん。こちらとしても、願ってもないお話ですから。ぜひとも、お受けしたい」
母が父の言葉にうなずきながら、上機嫌な笑みを浮かべて桜子を見た。
「桜子。とても喜ばしいお話なのよ。細谷侯爵がぜひ、桜子を高志さんの嫁にとおっしゃってくださったの。こんな良縁、めったにありませんよ」
「細谷様が……」
悪い予感はとうとう現実のものとなった。
中島家で高志と出会ったときから、ひそかに恐れていたことだった。
ここにいる誰ひとり、桜子の気持ちを聞こうともしない。
もちろん、わかっている。
結婚、特に華族の結婚は家同士が結びつくもの。
当人の気持ちは二の次どころか、まったく考慮されないということは。
でも、嫁ぐのは誰でもない、このわたくしなのに。
「水菓子はテラスでいただきましょう。良いお天気ですし」
望んでいた結果が得られて安堵したのか、いつもより数段明るい声で母が言った。
それから、テーブルの上のベルを鳴らし、給仕を呼びつけた。
「お呼びでしょうか」
「テラスに水菓子とコーヒーを用意してちょうだい」
「かしこまりました」
扉に背を向けて座っていた桜子には、給仕の姿は見えなかった。
でも、すぐにわかった。
天音だ。
彼の声を聞き間違えるはずがない。
しばらくして、準備ができたと、呼びに来た。
テラスに行くと、天音が桜子の椅子を引いた。
「ありがとう」
そう、一言返すのがやっとだった。
でも心のなかで、桜子は叫んでいた。
天音、今すぐ、ここからわたくしを攫って、と。
桜子が会話に入る余地はない。
女子供は男同士の話に口をはさむなと、暗に言われているようだった。
「それで、この間の件は御異存なしということでよろしいですか」
唐突に、高志は父に向かって言った。
「ええ、もちろん。こちらとしても、願ってもないお話ですから。ぜひとも、お受けしたい」
母が父の言葉にうなずきながら、上機嫌な笑みを浮かべて桜子を見た。
「桜子。とても喜ばしいお話なのよ。細谷侯爵がぜひ、桜子を高志さんの嫁にとおっしゃってくださったの。こんな良縁、めったにありませんよ」
「細谷様が……」
悪い予感はとうとう現実のものとなった。
中島家で高志と出会ったときから、ひそかに恐れていたことだった。
ここにいる誰ひとり、桜子の気持ちを聞こうともしない。
もちろん、わかっている。
結婚、特に華族の結婚は家同士が結びつくもの。
当人の気持ちは二の次どころか、まったく考慮されないということは。
でも、嫁ぐのは誰でもない、このわたくしなのに。
「水菓子はテラスでいただきましょう。良いお天気ですし」
望んでいた結果が得られて安堵したのか、いつもより数段明るい声で母が言った。
それから、テーブルの上のベルを鳴らし、給仕を呼びつけた。
「お呼びでしょうか」
「テラスに水菓子とコーヒーを用意してちょうだい」
「かしこまりました」
扉に背を向けて座っていた桜子には、給仕の姿は見えなかった。
でも、すぐにわかった。
天音だ。
彼の声を聞き間違えるはずがない。
しばらくして、準備ができたと、呼びに来た。
テラスに行くと、天音が桜子の椅子を引いた。
「ありがとう」
そう、一言返すのがやっとだった。
でも心のなかで、桜子は叫んでいた。
天音、今すぐ、ここからわたくしを攫って、と。
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