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第四章 避暑地の別荘

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 食事中、高志と父は昨今の世情について、しきりに意見を交わしていた。

 桜子が会話に入る余地はない。

 女子供は男同士の話に口をはさむなと、暗に言われているようだった。
 
「それで、この間の件は御異存なしということでよろしいですか」

 唐突に、高志は父に向かって言った。

「ええ、もちろん。こちらとしても、願ってもないお話ですから。ぜひとも、お受けしたい」

 母が父の言葉にうなずきながら、上機嫌な笑みを浮かべて桜子を見た。

「桜子。とても喜ばしいお話なのよ。細谷侯爵がぜひ、桜子を高志さんの嫁にとおっしゃってくださったの。こんな良縁、めったにありませんよ」

「細谷様が……」
 

 悪い予感はとうとう現実のものとなった。
 中島家で高志と出会ったときから、ひそかに恐れていたことだった。

 ここにいる誰ひとり、桜子の気持ちを聞こうともしない。

 もちろん、わかっている。

 結婚、特に華族の結婚は家同士が結びつくもの。
 当人の気持ちは二の次どころか、まったく考慮されないということは。

 でも、嫁ぐのは誰でもない、このわたくしなのに。


「水菓子はテラスでいただきましょう。良いお天気ですし」

 望んでいた結果が得られて安堵したのか、いつもより数段明るい声で母が言った。

 それから、テーブルの上のベルを鳴らし、給仕を呼びつけた。

「お呼びでしょうか」
「テラスに水菓子とコーヒーを用意してちょうだい」
「かしこまりました」

 扉に背を向けて座っていた桜子には、給仕の姿は見えなかった。

 でも、すぐにわかった。

 天音だ。
 彼の声を聞き間違えるはずがない。

 しばらくして、準備ができたと、呼びに来た。

 テラスに行くと、天音が桜子の椅子を引いた。
「ありがとう」

 そう、一言返すのがやっとだった。

 でも心のなかで、桜子は叫んでいた。

 天音、今すぐ、ここからわたくしを攫って、と。
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