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第9章 ふたつの恋の結末
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「もう離してってば。無理なものは無理なんだから」
言い争うわたしたちのそばに一台の車が近づき、路肩で停まった。
運転席に坐っているのは湊さん。
宗太さんはわたしの手をつかみ、強引に車に乗せようとした。
「一緒に来て」
「だって、わたし。これから店に出ないと」
「もうぼくが断りを入れてあるから」
「でも、わたしはもう宗太さんとは……」
押し問答をしているうちに、道行く人が、私たちの様子がおかしいことに気づいて、遠巻きに眺め出した。
カバンやポケットからスマホを取り出す人もいる。
「話は車のなかでしよう。早く乗って」
わたしはしぶしぶ、車に乗った。
「シンガポールから帰ってすぐ、エリカを迎えに行こうと思ったんだよ。でも、その日、祖父が危篤だとお医者さんに言われたんだ。それで動きが取れなくなってしまって」
ご家族の皆さんは、一時期、喜一郎氏とのお別れを覚悟されたそうだ。
でも奇跡的に持ち直されて、一昨日、集中治療室から一般病室に移られた。
「それで祖父がすぐにエリカを連れてこいって」
「何故?」
「ごめん。今は言えないんだ。祖父から固く口留めされてて。直接エリカに言いたいって」
何それ。
孫をたぶらかした女に直接文句を言いたいということだろうか。
そのためにバイトを休まされて、無理やり連れて行かれるなんて。
なんか腑に落ちない。
わたしは困惑した気持ちを抱えたまま、病院のドアをくぐった。
喜一郎氏が入院されているのは最上階の個室。
病室というよりホテルのスイートルームと言ったほうがふさわしい、豪華な部屋だった。
すでに、叔父さん夫妻、宗太さんのお母さん、それにはじめてお会いする背広を着た中年の男性が集まっていた。
もうこうなったら、大財閥に君臨する会長だろうがなんだろうが、言いたいことははっきり言ってやる。
そんな気構えで、病室に入っていった。
言い争うわたしたちのそばに一台の車が近づき、路肩で停まった。
運転席に坐っているのは湊さん。
宗太さんはわたしの手をつかみ、強引に車に乗せようとした。
「一緒に来て」
「だって、わたし。これから店に出ないと」
「もうぼくが断りを入れてあるから」
「でも、わたしはもう宗太さんとは……」
押し問答をしているうちに、道行く人が、私たちの様子がおかしいことに気づいて、遠巻きに眺め出した。
カバンやポケットからスマホを取り出す人もいる。
「話は車のなかでしよう。早く乗って」
わたしはしぶしぶ、車に乗った。
「シンガポールから帰ってすぐ、エリカを迎えに行こうと思ったんだよ。でも、その日、祖父が危篤だとお医者さんに言われたんだ。それで動きが取れなくなってしまって」
ご家族の皆さんは、一時期、喜一郎氏とのお別れを覚悟されたそうだ。
でも奇跡的に持ち直されて、一昨日、集中治療室から一般病室に移られた。
「それで祖父がすぐにエリカを連れてこいって」
「何故?」
「ごめん。今は言えないんだ。祖父から固く口留めされてて。直接エリカに言いたいって」
何それ。
孫をたぶらかした女に直接文句を言いたいということだろうか。
そのためにバイトを休まされて、無理やり連れて行かれるなんて。
なんか腑に落ちない。
わたしは困惑した気持ちを抱えたまま、病院のドアをくぐった。
喜一郎氏が入院されているのは最上階の個室。
病室というよりホテルのスイートルームと言ったほうがふさわしい、豪華な部屋だった。
すでに、叔父さん夫妻、宗太さんのお母さん、それにはじめてお会いする背広を着た中年の男性が集まっていた。
もうこうなったら、大財閥に君臨する会長だろうがなんだろうが、言いたいことははっきり言ってやる。
そんな気構えで、病室に入っていった。
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