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第8章 覚めてしまった夢

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 テーブルの上のスマホが鳴りだし、スポットライトを浴びたように、その場だけ明るくなった。

『エリカ、大丈夫か! 母さんからさっき電話をもらって』
 スピーカーを通して聞こえる、愛しい宗太さんの声。

 膝から力がぬけていき、その場にくずおれそうになる。
 泣き言を言いそうになる自分を必死で抑えた。

『宗太さんがお帰りになってから、もう一度話し合いの場を設けることになりました。お母様が取りなしてくださったので』

『出張を切り上げて、すぐ帰るよ』

『だめです。わたしは大丈夫ですから、お仕事はちゃんとなさってください。でないと、叔父様に言い訳が立ちません』

 今すぐ、飛行機のチケットを予約するという宗太さんをなんとかなだめて、電話を切った。
 
 彼の声を聞き、ようやく頭が回りだした。

 宗太さんはきっと、結婚を反対されれば家を捨てると言い出すだろう。

 だめだ。わたしのせいで、彼から仕事を奪うなんて。
 あんなにやりがいを感じている仕事を、そして将来を棒に振らせるなんて、あってはいけない。

 最初からわかっていた。
 覚めない夢なんて、この世には存在しないと。

 わたしと彼が結婚するなんて、やっぱりありえないことだったのだ。
 シンデレラの魔法が午前0時で解けたように、わたしの魔法ももう解けてしまった。

 それだけのことだ。
 ここを出なければ。
 彼に会ってしまえば、決心が鈍るに決まっている。
 
 
 荷造りはすぐに終わった。
 わたしが持ってきたものは、ほんのわずかしかなかったから。

 婚約指輪を収めた臙脂色のケースを引き出しから取り出す。
『さようなら。お世話になりました』
 そう一言だけメモに書き、その上に指輪のケースを置いた。

 だけど……
 ガーネットのチョーカーだけはどうしても手放せなかった。
 未練がましいことは分かっているけれど。
 これだけは、どうしても手元に持っておきたかった。

 石の効力の話はただの迷信だったけれど。
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