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第5章 最高に幸せで切ない休日

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「最近、困っていることはない? 平日、あまり話を聞いてあげられないから気にはなっていたんだけど」

「あの、ひとつだけいいですか?」
「何なりと」
「ビデオカメラが欲しいんですが」

「ビデオ? 何を撮るの?」
「レッスンの様子です。いままでテーブルにスマホを立ててたんですけど、なかなかうまく撮れなくて。やっぱりビデオカメラと三脚があったほうがいいなと思って」

「なるほど。相変わらず熱心だね。じゃあ、今日、買いに行こうか。実は、一緒に出かけたいなと思ってたんだ。毎日のおいしい朝食のお礼に、ランチをご馳走するよ」

「えっ、本当ですか?」
 わたしは思わず、身を乗り出した。

「ああ、仕事がひと段落して、ぼくもちょっと息抜きしたいから」
「わたしで良ければ、ぜひお共させてください」
「じゃあ、1時間後に出かけよう。それで支度できる?」
「はい」

 芹澤さんが誘ってくれるなんて思ってもみなかった。
 だから、深く考える前に、反射的に「はい」と答えていた。

 あとで余計に辛くなるだろうな。
 彼と一緒に出かけたりしたら。

 それは分かっていたけれど、〝芹澤さんと過ごす休日〟という最高に魅力的なコンテンツにはとてもじゃないけど
抗えない。

 こんなこと、もうこの先ないだろうし……

 それに、この1カ月ほど、スーパーに買い物に行く以外、ずっと家にこもりっきりだったので、実はかなりストレスが溜まっていた。

 残りの日々のための英気を養う機会だと思って、今日は何も考えずに楽しもう。
 後のことは、またそのとき考えることにして。


 化粧をすませ、ワードローブのなかで一番のお気に入りになった、藤色のワンピースに袖を通す。

 ようやくおしゃれする機会ができて、さらに気分が上がる。

 せっかく素敵な服を揃えてもらっても、着ていくところがなければ意味がないのに、と常々思っていたから。

 まだ肌寒い季節なので、薄桃色のカーディガンをはおり、スプリングコートを重ね、部屋を出た。
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