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第1章 怪しげな依頼

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 芸能界の挨拶は、朝だろうが、昼だろうが、真夜中だろうが、いつでも「おはようございます」。

 〝歌舞伎界の風習をまねた〟とか、〝昼夜問わない仕事だから〟とか、由来には諸説あるらしいけど。

 わたしの名前は来栖くるすエリカ。

 お察しのとおり、これは芸名。
 本名は田中壱子いちこ
 本名と芸名のギャップがありすぎて、SNSで揶揄されそう?
 いや、その心配はまったくなし。

 何しろ、ほぼほぼ売れてない女優兼モデルなので。

 自分で言うのもなんだけど、学生時代は可愛いと言われることが多くて、けっこうモテた。

 そして、高校2年生のとき、友だちに勧められて応募した読モに選ばれてしまったのが、思えば間違いの始まりだった。

 大人にチヤホヤされるモデルの仕事は楽しかった。
 評判もまあそれなりに良かった。

 それで、もしかして天職じゃないか、と勘違いしてしまい、高校卒業後、この事務所に所属。以来、芽が出ないまま、早7年。今年もう、26歳になる。

 最初の2、3年は、オーディションに明け暮れる毎日を送っていたけど、不合格続き。

 いつしかその気力も萎え、今では、シーズン毎に定期的に依頼される通販ショップのカタログ・モデルと、雑誌の仕事がちらほらあるだけ。

 映像の仕事もあるにはあるけど、エキストラに毛が生えたような役しかこない。

 かろうじてエンドロールに名前は出るけど。
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