可愛がってあげたい、強がりなきみを。 ～国民的イケメン俳優に出会った直後から全身全霊で溺愛されてます～

第５章 隠れ家温泉宿での一夜

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　宿は駅からタクシーで15分ほど。
　賑わいを見せている温泉街のメインストリートから少し離れた、いわゆる“奥座敷”に位置していた。

　竹林をすぎると、築地塀に囲まれた一軒宿が現れた。
　車を降りて、門にかかる暖簾をくぐる。

　旅館のことはもちろん、事前にホームページでチェックしていた。

　広大な敷地に離れが5棟のみ。
　部屋にはもちろん、露天風呂が付いていて、さらに各戸専用の庭もある。
　完全にプライバシーが守られる、芸能人に最適な宿、といったところか。

　外観は決して仰々しいものではなかった。
　知らなければ通り過ぎてしまいそうなほど、ひっそりとしている。
　装飾といえば、きれいに掃き清められた玄関脇の、大輪の白菊の鉢のみ。
　
　とはいえ、隅々まで手入れが行き届いている。
　静謐な佇まいの庭には、一枚の枯葉も落ちていない。
　敷砂の部分には砂紋が描かれており、まるで寺院のよう。
　高級旅館の名に恥じない、品格の高さが随所に感じられた。

「ごめんください」と母屋の引き戸を開けて訪うと、帳場から「まあまあ、ようこそ」と女将が現れた。

「あの、橋本と言いますが」

「はい、伺っております。どうぞそこにお掛けになって少しお待ちください」
　女将は仲居さんを呼んだ。
　彼女はわたしのスーツケースを受け取ると、母屋の裏手に案内した。