狐松明妖夜 ~きつねのたいまつあやかしのよる~

泉南佳那

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妖かしの夜(十)

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 あの夜、狐火が消滅した後も幸右衛門はそのまま道に倒れていた。
 一刻ほど過ぎてから、奉公人が見つけて家に連れ帰った。

 幸右衛門はそれから高熱を出して寝込んだ。
 村人たちは、やはり狐の祟りだと、まことしやかにささやきあった。

 その後も幸右衛門の体調は芳しくなく、急遽、長男の常太郎を呼び戻し、家督を譲ることとなった。

 常太郎は名を喜左衛門と改め、若いながらも高木家六代目の重責を継いだ。

 そのころ、陣屋から再三、村の不正を正すようにとのお触れが出ていた。
 幸右衛門時代はしがらみも多く、改革はなかなか思うように進まなかったが、喜左衛門は、若さゆえの潔癖さから不正追放に厳しく取り組んだ。

 そうして、博徒と組んで村の賭場を裏で一切仕切り、借金で首が回らなくなった者に高利で金を貸し、私財を肥やしていた与兵衛親子の悪事を見事に白日のもとにさらした。

 その後は芋づる式に与兵衛親子の悪行の数々が次々と暴かれていった。

 無宿者が白状したところによると、幸右衛門の次男、権次は、与兵衛の仕切る賭場のいかさまに気づき、文句を言いたてたところ、逆に袋叩きにあい、殺されて裏山に埋められたということだった。

 権次の借金も、刃傷沙汰の件もすべて与兵衛の仕組んだ狂言だったのだ。
 兄は図らずも弟の敵を討つことができた。

 村人たちは、若き庄屋の働きに目を見張った。

 喜左衛門は一気に村人の信任を勝ち得て、立派な六代目として認められた。

 村に平穏が訪れた。
 いつの日からか村人たちは、あのとき、お狐様が現れたことで悪人追放がかなったのだ、そう考えるようになっていった。

 皆は前にも増して狐を畏れ、敬うようになった。
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