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妖かしの夜(二)
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「幸右衛門さんに、煮るなり焼くなりどうぞご勝手に、とお許しをいただいておりますゆえ、泣いてもわめいても、誰も来やしないよ」
「お前の勝手にされるぐらいなら、舌を噛み切る」
「そうくると思って、ほら」と言って、太十は手拭を紫乃の目の前にちらつかせた。
そして、愚鈍を体現したようなこの男にしては、驚くほど素早い動きを見せ、紫乃にさるぐつわを噛ませた。
普段であれば、太十ごときにあっけなくやられることなどあるはずもなかったが、空腹と不眠でふらふらの状態ではいかんともしがたかった。
「これじゃ、口が吸えないか。でも、死んじまったら、元も子もないからねえー」
「うっ……」紫乃は必死に足をばたつかせて抵抗した。
が、逆効果になってしまったようで、太十の好色な目が、紫乃の白いふくらはぎに注がれる。
紫乃は屈辱に見舞われ、吐き気を覚えた。
「いいねえ、その、屈辱に耐えられないといった歪んだ顔。ああ、苛めがいがあるねぇ。どうせ、あの、源之丞とかいう役者の前で帯紐解いたんだろう? おぼこじゃあないのが残念だが、まあ、仕方ないねえ。わしは心が広いから、不義だのと騒いだりはしないよ」と言いながら、紫乃の袴の裾に手をかけた。
「さあ、たっぷり可愛がってやろうか」
もう、だめだ。
紫乃はきつく目を閉じた。
「お前の勝手にされるぐらいなら、舌を噛み切る」
「そうくると思って、ほら」と言って、太十は手拭を紫乃の目の前にちらつかせた。
そして、愚鈍を体現したようなこの男にしては、驚くほど素早い動きを見せ、紫乃にさるぐつわを噛ませた。
普段であれば、太十ごときにあっけなくやられることなどあるはずもなかったが、空腹と不眠でふらふらの状態ではいかんともしがたかった。
「これじゃ、口が吸えないか。でも、死んじまったら、元も子もないからねえー」
「うっ……」紫乃は必死に足をばたつかせて抵抗した。
が、逆効果になってしまったようで、太十の好色な目が、紫乃の白いふくらはぎに注がれる。
紫乃は屈辱に見舞われ、吐き気を覚えた。
「いいねえ、その、屈辱に耐えられないといった歪んだ顔。ああ、苛めがいがあるねぇ。どうせ、あの、源之丞とかいう役者の前で帯紐解いたんだろう? おぼこじゃあないのが残念だが、まあ、仕方ないねえ。わしは心が広いから、不義だのと騒いだりはしないよ」と言いながら、紫乃の袴の裾に手をかけた。
「さあ、たっぷり可愛がってやろうか」
もう、だめだ。
紫乃はきつく目を閉じた。
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