狐松明妖夜 ~きつねのたいまつあやかしのよる~

泉南佳那

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引き離されて(二)

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「もう、このような馬鹿な真似はやめなさい」
 部屋に呼び出した紫乃に幸右衛門は言った。

「……太十のところに嫁に行くのは、死んでも嫌です。それぐらいなら自害するまで」

「前にも言ったであろう。断ることなどできぬ。お前もこの家の人間であろう。家の一大事を見過ごそうというのか」

 紫乃は幸右衛門を睨みつけると、不敵な笑みを浮かべ言い放った。

「もう、嫁にはいけません」
「何じゃと?」
「源之丞様と契りました。他の男に嫁ぐことなどなりません」

「この、あばずれが!」
 幸右衛門の平手が紫乃の頬に飛んだ。
 あまりの勢いに紫乃はその場に倒れこんだ。

「まったく、油断も隙もあったものではない。また逃げ出されたら……。このたわけを蔵に閉じ込めておけ!」
 幸右衛門は男衆に命じて、部屋を後にした。

 紫乃の気性を知っている家の者たちは、用心のため、紫乃の手を縛り、庭にある蔵へ連れて行った。
「紫乃様。申し訳ありません。旦那様のご命令ですので」
 男衆のひとりが気の毒そうな顔をした。

 力ずくで逃げようと思えば、逃げられる。
 だが、自分のせいで源之丞に害が及ぶやも知れない。
 そう思うと、おとなしく従わざるをえなかった。

 冷静になって、この状況を打開するすべを見つけなければ。
 蔵のなかでひとり、座禅を組んで思案した。

 だが、名案など何も浮かんでこない。
 唯一の味方の楓も当てにはならない。

 この期に及んで、紫乃は今までいかに楓を頼りにしていたか気づいた。
 どんなに困ったときでも、これまでは楓が助けてくれた。

 いまさらながら自分の無力を思い知り、ほぞをかんだ。
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