狐松明妖夜 ~きつねのたいまつあやかしのよる~

泉南佳那

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失踪(五)

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 そろそろ、終【しま】いにしようと思ったそのとき、がたっ、と床下で不審な音がした。

 源之丞は手燭を持ち、奈落へと続く階段を覗きこみ、言った。「誰だ」

「源之丞殿」奥から聞き覚えのある女の声がした。
 紫乃だった。
  

 源之丞の声を聞きつけ、舞台に上がろうとしている。

「紫乃殿か」
 照らした蝋燭【ろうそく】の明かりのなかにぼんやりとその姿を認めた。

「こんなところにおられたのか。先ほど、楓殿が探しに来られたが」
 源之丞は紫乃に手を貸して、舞台に上がらせた。

「ひとまずわたしの楽屋へ」
 紫乃はうなずいた。
  
「して、なにゆえ奈落なんぞにおられたのですか?」

 紫乃は伯父から言われた話をかいつまんで源之丞に聞かせた。
「なるほど嫁入りせねばならぬと。その太十……とは、川向こうの与兵衛殿の息子の?」

「源之丞殿、ご存じか?」

「ええ、宴席に呼ばれましたので――」
 嫌なことを思いだしたようだ。
 源之丞は顔をしかめた。
 
「太十のところに嫁に行くぐらいなら、いっそ死んだほうがましだ。だが、あんな奴のために死ぬのも悔しい。どうか、おれを一緒に連れて行ってはくださらぬか。下働きでもなんでもする。もう、この村には居られない」

 そう懇願する紫乃に、源之丞は眉をしかめた。
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