狐松明妖夜 ~きつねのたいまつあやかしのよる~

泉南佳那

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芝居小屋の賑わい(一)

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 神社の境内は万来の賑わいだった。
 芝居見物の客だけではなく、出店目当ての客も大勢詰めかけていた。
 
 近隣の村からも続々と人がやってきて、参道を歩くにも肩と肩がぶつかるほどの混雑ぶりだった。


 三尺ほどしか高さのない鼠木戸をくぐると、そこは別世界だ。

 紫乃と伯母の座る桟敷から見下ろせば、平土間には立錐の余地もなく人が詰めかけている。

 この辺りによくもこれだけの人がいたものだと、改めて驚く。


 舞台上ではすでに、忠臣蔵三段目の『喧嘩場』が始まっていた。
 高師直が塩冶判官に悪口雑言言いたい放題。

 観客も師直の、誇張された滑稽な動きに盛り上がっている。
 平土間ではすでに酒がだいぶ回っている客もいて、ヤジを飛ばしている。

 はじめて芝居を観た紫乃は、こんなに騒がしいものだとは思っていなかった。
 騒々しくて、華やかで、熱気に満ちあふれた空間。
 その空気にあてられ、のぼせてしまいそうだ。

 村衆が口々に〝芝居、芝居〟と騒ぐのもわかる気がした。

 演者の一挙手一投足を見逃すまいと、じっと目をこらす者。
 舞台の上の絵空事よりもこっちのほうがいいと、ひたすら酒を飲む者。
 この役者はここがいいの、だめだのと、知ったかぶりで講釈をたれる者。
 いろいろな人間がいるが、どの顔も皆、輝いている。

 芝居がこれほど心躍るものだとは。
 喧嘩と同じように血が騒ぐ。

 紫乃は舞台に立ち、観客を魅了する役者連がうらやましくなった。

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