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幕開き(三)
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紫乃は思案にくれた。
楓に頼らずにひとりでなんとかしなければ。
柱にもたれかかり、考えを巡らせ、そうしてひとつの結論に達し、伯父の部屋を目指した。
「伯父上」
紫乃は神妙な顔つきで幸右衛門に声をかけた。
「紫乃、どうした」
「このまえの縁談のお話しですが、……お受けいたしたいと存じます」
「なに!承知してくれるか」伯父は相好を崩し、紫乃のほうへ歩み寄った。
「はい……」
「いや、良かった。おい、八重」
呼ばれた伯母が隣の部屋からやってきた。
「紫乃が、縁談を承知してくれた」
「まあ、それは良かったこと」
伯母もほっとした様子だった。
「で、ひとつだけお願いがございます」
紫乃はしおらしく首を垂れた。
「どうか芝居に行くことをお許しいただけませんでしょうか」
いつもの、どちらかといえば傲慢な態度は引っ込め、紫乃は殊勝な顔でかしこまった。
「嫁入りともなれば、もう芝居に出入りすることもかないますまい。これが最後の機会かと存じます。どうかお願い申し上げます」と頭を下げた。
幸右衛門と八重は顔を見合わせた。
「うーむ、母上には紫乃を芝居に行かせないようにときつく言われているが……まあ、よい。わしが許そう。八重、お前が一緒に行ってくれ。あと、着替えを手伝わんとな。例のものを」
「はいはい、紫乃さん、こちらへ」
楓に頼らずにひとりでなんとかしなければ。
柱にもたれかかり、考えを巡らせ、そうしてひとつの結論に達し、伯父の部屋を目指した。
「伯父上」
紫乃は神妙な顔つきで幸右衛門に声をかけた。
「紫乃、どうした」
「このまえの縁談のお話しですが、……お受けいたしたいと存じます」
「なに!承知してくれるか」伯父は相好を崩し、紫乃のほうへ歩み寄った。
「はい……」
「いや、良かった。おい、八重」
呼ばれた伯母が隣の部屋からやってきた。
「紫乃が、縁談を承知してくれた」
「まあ、それは良かったこと」
伯母もほっとした様子だった。
「で、ひとつだけお願いがございます」
紫乃はしおらしく首を垂れた。
「どうか芝居に行くことをお許しいただけませんでしょうか」
いつもの、どちらかといえば傲慢な態度は引っ込め、紫乃は殊勝な顔でかしこまった。
「嫁入りともなれば、もう芝居に出入りすることもかないますまい。これが最後の機会かと存じます。どうかお願い申し上げます」と頭を下げた。
幸右衛門と八重は顔を見合わせた。
「うーむ、母上には紫乃を芝居に行かせないようにときつく言われているが……まあ、よい。わしが許そう。八重、お前が一緒に行ってくれ。あと、着替えを手伝わんとな。例のものを」
「はいはい、紫乃さん、こちらへ」
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