狐松明妖夜 ~きつねのたいまつあやかしのよる~

泉南佳那

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縁談(一)

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 与兵衛が来た翌日、幸右衛門は紫乃を自室に呼んだ。

「紫乃、わたしとの約束は覚えているか」
「はい」

「あと、ふた月もすれば、お前も十六だ。もう、そのようなみっともない恰好はよしにしないといけないよ」

「承知しております。伯父上」
 紫乃は下を向いたまま答えた。

「今まで、親がないのを不憫に思い、好きにさせてきたけれど、これからは家のことを第一に考えてもらわないと――」
 伯父にはめずらしく奥歯に物が挟まったような口ぶりだったので、紫乃は不審に思い、尋ねた。

「お話はそれだけでしょうか」

「いや、実は、お前に縁談があってね」

 幸右衛門は一晩まんじりともせず、あれこれ考えた。

 お世辞にも良縁とは言えないが、さりとて他に良い手が見当たらない。
 もし、この高木家に何か害が及ぶようなことになれば、そのときはそのときで、紫乃との縁を断てばいい。

 紫乃の表情が一瞬にして曇る。
 さっと立ちあがると、幸右衛門に鋭い視線を投げた。

「お約束通り、男の恰好はやめます。だが、まだ嫁には行きたくありません」
 部屋から出ていこうとする紫乃を伯父は制した。

「あの川向うの与兵衛に、ある事情で二百両もの借金をしてしまったのだ。お前が与兵衛の息子の太十のところに嫁に行ってくれれば丸く収まる。もし断れば、何せあの与兵衛のこと、どんな手段で害を及ぼすかわからない。この高木家のためを思って、承知してくれ」
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