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心の迷い(三)
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障子の隙間から源之丞が垣間見える。
燦燦と陽光が降り注いている庭とは対照的に、座敷のなかは薄暗く、起きているのか、寝ているのかよくわからなかった。
濡縁に手をついて部屋をのぞき、周囲に人がいないことを確かめ、紫乃は小声で話しかけた。
「もう、具合はいいのか?」
源之丞はまぶしそうに眼を細めて、その声のほうを向いた。
少し目が慣れてきた紫乃は、まだ病みつかれ、幾分青い顔をしているが、生来の美貌を損ねるほどではなくなっている源之丞から目がそらせなくなった。
「えーと、紫乃……殿。なかなかお目にかかれませんでしたね」
紫乃は、これまでの自分の心の逡巡をおくびにも出さず、見舞いが遅れてすまない、とだけ詫びた。
「本当に命が助かって良かった。あの雲助どもにはこの近隣、みんな手を焼いていた。運のよいお人じゃ」
その言葉を聞き、源之丞は半身を起こし、寝乱れた髪に手をやりながら、紫乃をまっすぐ見つめた。
「あの時、紫乃殿にお会いしていなかったら、今頃どうなっていたことやら。本当にありがたいことでした」
その目つきに、なんともいえぬ艶がある。
役者とは普段からこうも人を惹きつけるものなのか。
まるで魔力でも備わっているようだ。
長くそばにいたら、魂を吸い取られてしまいそうな……
迷いから覚めるはずだとの思惑は大きくはずれ、胸のつかえはより激しく、より甘やかに紫乃を苦しめた。
燦燦と陽光が降り注いている庭とは対照的に、座敷のなかは薄暗く、起きているのか、寝ているのかよくわからなかった。
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その目つきに、なんともいえぬ艶がある。
役者とは普段からこうも人を惹きつけるものなのか。
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長くそばにいたら、魂を吸い取られてしまいそうな……
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