初恋の呪縛

泉南佳那

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3・出会い

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 でも、寝不足の頭はあまりにも無防備で、そんなバリケードはあっけなく崩壊してしまった。

 わたしは寝返りを打ち、改めてぎゅっと目を閉じた。
 これ以上見ていたら、衝動的にその背に顔を埋めてしまいそうだった。

 そんな悶々とした気持ちを抱えて眠れるはずがないと思っていた。

 でも、連日の寝不足は限界まで来ていたらしく、知らないうちにわたしは眠りについていた。

 目覚めたとき、もうすでに外は明るかった。

 なんか、狭い……
 目を開けると、真横に無精ひげが生えた都築の寝顔が。
 
 へっ?
「うわっ」

 あわてて跳ね起きて、都築の頭を思い切りどつきそうになった。
 ベッドが大きく揺れ、熟睡していた都築も目を覚ました。

「うーん、おはよう……」
「な、なんでそんなとこにいるの」

「なんでって、ベッドひとつしかないし……お前、細いからふたりでも平気だと思って」

「だ、だって」
 たしかにここは都築の部屋だから文句を言う筋合いはない。

 でも、都築への気持ちを意識してしまった今、この状況にはとても耐えられない。

 わたしは慌ててベッドから降りた。

「も、もう、帰んなきゃ。学校に行く前にシャワー浴びたいし」

 そそくさとコートを着て、カバンを手にして、ドアに向かおうとすると、都築に引き止められた。

「ちょっと待てよ。ドレス、完成したとこ、見たくねーのかよ?」

「あっ」
  彼は肘枕の姿勢のまま、窓際に置かれたトルソーを指さした。

「すご……」
 思わず声が漏れた。
 ここ数日の苦労の結晶、ビーズやスパンコールが朝の日差しを受けて、神々しく煌めいている。

 波のように光がうねって、作品の完成度が何十倍にも増幅していた。

「いけるんじゃね? グランプリ」
「う、うん」

 都築はよいしょと声をあげて起きあがると、そばに来て、右手を差しだし、笑った。

「サンキュ。久保がいなかったら、絶対完成できなかった」

 握りしめた都築の手は大きくて暖かくて……

 このまま、ずっと繋いでいられたら。

 その想いに、その切なさに、胃がせりあがってきて嗚咽を漏らしそうになるのを、わたしは必死に耐えた。
 
 
***

 コンペの結果は奨励賞だった。

 短い制作期間や1年生であるハンデを考えると、それだけでも充分な評価だったが、グランプリ一択狙いだった都築は落ち込んだ。

「来年、絶対リベンジしてやる」
「えー、来年もやる気?」
「何、言ってんだよ。来年もお前と組んで、今度こそグランプリだ」
「勘弁して。ひとりでやってよ。もう無理」
「いや、俺1人より、お前と一緒のほうが何倍もすごいもんができる気がするし。なんかさ……」

 都築のまなざしはとても真剣で、口調もいつもの軽いものとは一線を画していた。

「他の人間と組むなんて考えられない。久保と仕事すんの、スゲー楽なんだよな。痒いとこに手が届くっていうか、くどくど説明しなくても、お前、俺の意図わかってくれるから」

 都築の唇から発されたその言葉。

 泣き出してしまいそうなほど嬉しかった。
 でも、同時に叫び出してしまいそうなほど苦しかった。

 あと1年半も、友人のふりを続けるのは拷問に等しいと。

 でも……
 最後には彼の望み通り、首を縦に振ってしまうこともわかっていた。


 たとえ、胸が張り裂けるほど苦しくても、彼のそばにいたかったから。
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