12 / 30
3・出会い
4
しおりを挟む
その日から3日、授業を休んでほぼ1日中スパンコールやビーズと格闘した。
服飾の専門に入ったぐらいだから、細かい作業は好きなほうだったけど、好きとか嫌いとか、そんな生優しいもんじゃなかった。
どれだけ縫いつけても、ケースの中のビーズやスパンコールは、まったく減る気配を見せない。
食べても食べても減らないふやけたラーメンみたいに。
土日も昼夜問わず格闘し、さすがにふたりともダウン寸前。
それで、コンペ前日は、作業の途中で寝てしまわないようにお互いを監視するため、都築の部屋で一緒に作業することになった。
都築の下宿は、わたしの家から、電車で一駅で意外に近かった。
男子の部屋にふたりきり、というシチュエーションは生まれてはじめてだったし、彼女に悪いんじゃないかなと、チラッと頭をよぎったけれど。
でも、とにかく、翌日までに作品を完成させなければという焦りで、そこらへんのことに構っている余裕はなかった。
だいぶ減ったとはいえ、明日までにまだこれまでの4分の1ぐらいの数を縫い付けなければならない。
駅で待ち合わせて、案内された都築の下宿の部屋に入って荷物を置くと、すぐさま作業を開始した。
2時間ほど黙々とこなしたあと、ちょっと休憩しようと、都築がコーヒーを入れてくれた。
「だいぶ目途が立ったな」
「でもまだまだあるよ。間に合うかな」
都築はわたしのおでこをつんとつついた。
「間に合うかな、じゃなくて、間に合わせるの」
「へいへい」
短い休憩ののち、ふたりでまたちくちくを再開した。
夕飯はカップ麺。
ものの10分で食事終了。
食後もひたすらちくちく。
「あー、もう無理」
日付が変わるころ、わたしは限界に見舞われた。
「ちょっと寝ろよ。ベッド使ってもいいぞ」
「ごめん、悪いけどそうさせて」
本当にダウン寸前だった。
好意に甘えてベッドに横たわり、目を閉じる前に何の気なしに都築のほうを向いた。
ほのぐらい灯りに浮かび上がる、都築の背中をぼーっとした頭で眺めているうちに、心がざわついてきた。
こんなに肩幅広いんだ、都築って……
彼が男であることを強烈に意識してしまい、慌てて目を閉じた。
まるで気泡がはじけるように、胸の奥底に閉じ込めていた想いが一気にはじけた瞬間だった。
――あの筋張った太い腕で抱きしめられたい。
身体の底から沸きあがってきたのは、そんな、生まれてはじめて感じた、息がつまるほどの欲望。
そう。
ただ、自分の気持ちを誤魔化していただけで、わたしは、もうとっくに、どうしようもないほど、都築が好きになっていた。
コンペでグランプリを取るという目標を共有し、日夜、必死で作業をするうちに、都築とわたしのあいだには、急速に同志的な友情が生まれていた。
でもそれはあくまで友情。
恋愛感情までは、遥かに遠い。
第一、都築には最愛の彼女がいる。
今もデスクの前に貼られたツーショット写真のなかで、彼女は屈託のない顔で幸せそうに笑っている。
いくら好きになっても無駄だとわかり切っていたから、今まで、都築を男性として意識しないように必死に自分を抑えていた。
服飾の専門に入ったぐらいだから、細かい作業は好きなほうだったけど、好きとか嫌いとか、そんな生優しいもんじゃなかった。
どれだけ縫いつけても、ケースの中のビーズやスパンコールは、まったく減る気配を見せない。
食べても食べても減らないふやけたラーメンみたいに。
土日も昼夜問わず格闘し、さすがにふたりともダウン寸前。
それで、コンペ前日は、作業の途中で寝てしまわないようにお互いを監視するため、都築の部屋で一緒に作業することになった。
都築の下宿は、わたしの家から、電車で一駅で意外に近かった。
男子の部屋にふたりきり、というシチュエーションは生まれてはじめてだったし、彼女に悪いんじゃないかなと、チラッと頭をよぎったけれど。
でも、とにかく、翌日までに作品を完成させなければという焦りで、そこらへんのことに構っている余裕はなかった。
だいぶ減ったとはいえ、明日までにまだこれまでの4分の1ぐらいの数を縫い付けなければならない。
駅で待ち合わせて、案内された都築の下宿の部屋に入って荷物を置くと、すぐさま作業を開始した。
2時間ほど黙々とこなしたあと、ちょっと休憩しようと、都築がコーヒーを入れてくれた。
「だいぶ目途が立ったな」
「でもまだまだあるよ。間に合うかな」
都築はわたしのおでこをつんとつついた。
「間に合うかな、じゃなくて、間に合わせるの」
「へいへい」
短い休憩ののち、ふたりでまたちくちくを再開した。
夕飯はカップ麺。
ものの10分で食事終了。
食後もひたすらちくちく。
「あー、もう無理」
日付が変わるころ、わたしは限界に見舞われた。
「ちょっと寝ろよ。ベッド使ってもいいぞ」
「ごめん、悪いけどそうさせて」
本当にダウン寸前だった。
好意に甘えてベッドに横たわり、目を閉じる前に何の気なしに都築のほうを向いた。
ほのぐらい灯りに浮かび上がる、都築の背中をぼーっとした頭で眺めているうちに、心がざわついてきた。
こんなに肩幅広いんだ、都築って……
彼が男であることを強烈に意識してしまい、慌てて目を閉じた。
まるで気泡がはじけるように、胸の奥底に閉じ込めていた想いが一気にはじけた瞬間だった。
――あの筋張った太い腕で抱きしめられたい。
身体の底から沸きあがってきたのは、そんな、生まれてはじめて感じた、息がつまるほどの欲望。
そう。
ただ、自分の気持ちを誤魔化していただけで、わたしは、もうとっくに、どうしようもないほど、都築が好きになっていた。
コンペでグランプリを取るという目標を共有し、日夜、必死で作業をするうちに、都築とわたしのあいだには、急速に同志的な友情が生まれていた。
でもそれはあくまで友情。
恋愛感情までは、遥かに遠い。
第一、都築には最愛の彼女がいる。
今もデスクの前に貼られたツーショット写真のなかで、彼女は屈託のない顔で幸せそうに笑っている。
いくら好きになっても無駄だとわかり切っていたから、今まで、都築を男性として意識しないように必死に自分を抑えていた。
1
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
可愛がってあげたい、強がりなきみを。 ~国民的イケメン俳優に出会った直後から全身全霊で溺愛されてます~
泉南佳那
恋愛
※『甘やかしてあげたい、傷ついたきみを』
のヒーロー、島内亮介の兄の話です!
(亮介も登場します(*^^*))
ただ、内容は独立していますので
この作品のみでもお楽しみいただけます。
******
橋本郁美 コンサルタント 29歳
✖️
榊原宗介 国民的イケメン俳優 29歳
芸能界に興味のなかった郁美の前に
突然現れた、ブレイク俳優の榊原宗介。
宗介は郁美に一目惚れをし、猛アタックを開始。
「絶対、からかわれている」
そう思っていたが郁美だったが、宗介の変わらない態度や飾らない人柄に惹かれていく。
でも、相手は人気絶頂の芸能人。
そう思って、二の足を踏む郁美だったけれど……
******
大人な、
でもピュアなふたりの恋の行方、
どうぞお楽しみください(*^o^*)
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~
泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の
元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳
×
敏腕だけど冷徹と噂されている
俺様部長 木沢彰吾34歳
ある朝、花梨が出社すると
異動の辞令が張り出されていた。
異動先は木沢部長率いる
〝ブランディング戦略部〟
なんでこんな時期に……
あまりの〝異例〟の辞令に
戸惑いを隠せない花梨。
しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!
花梨の前途多難な日々が、今始まる……
***
元気いっぱい、はりきりガール花梨と
ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。
ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました
瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる