初恋の呪縛

泉南佳那

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3・出会い

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 カフェの前で別れてすぐ、ふと都築のほうに目をやると、ちょうど背の低い女の子が走り寄ってくるところだった。

 ペアリング、ビンゴだ……

 背中の真ん中あたりまで伸びた、長い薄茶色の髪が風になびき、優しげなパステルカラーのスカートもふわふわとゆれている。

 わたしとは正反対の、子犬みたいに小さくて可愛らしい子だった。

 ふーん、意外。
 都築の彼女なら、きっとモデルみたいにスタイル抜群の美女だろうと勝手に想像していた。

「ねえ、匡ちゃん……」
 風に乗って、彼女の声がかすかに聞こえてくる。
 都築の腕を引っ張って、何か一生懸命語りかけている。

 彼も柔らかい表情を浮かべて彼女を見つめていて……

 うわ、どう見てもラブラブカップルじゃん。

 まあ、でも、都築と出会ってすぐに、ふたりの仲睦まじい姿を見ることができてよかった。

 わたしが都築に、本格的にハマってしまう前に。

 教室の扉を開けた瞬間、「来た!」と女子のひとりが大声で言い、すぐに女子全員に取り囲まれた。

「ねえ、ちょっと、どういうこと? 朱利、いつ都築くんと知り合ったの?」

 カフェにいるところを誰かに見られていたらしい。
「いや、あっちから誘われて、コンペで組むことになって」

 ひえーと、悲鳴に近い叫びが上がった。
 教室の隅で話していた男子たちが、怪訝な顔で一斉にこっちを見てる。

「そんな抜け駆け、ずる過ぎるってー」

「しっかし、よりによって朱利とはねえ」
  クラスで一番の仲良しの角田がずけずけと言った。

「朱利、女要素、限りなくゼロなのにね~」
「うるさいなー」

 そりゃ、わたしは背が高くて常にセンター・パートのショート・ヘアで、ひらひらキラキラした服は苦手で、シンプルでベーシックな服しか着ないし、よく言えばスレンダー、はっきり言えば、女性らしい曲線がまるでない体型だから、しょっちゅう男に間違えられてはいるけど。

「別に付き合ってくれって言われたわけじゃなし」

「えー、でも共同制作しようなんて、気があるんじゃない? 普通」

「それはない。彼女いるし、都築くん」

「へえ、そうなんだ。まあ確かに、あんたと都築氏が並んでても、彼カノって言うよりBLだけどね。朱利、デカいから」
「悪かったね」

 そんなこんなで周囲の注目を浴びながら、制作に忙殺される日々は幕を開けた。

 試作に試作を重ね、これで行こうと決まったのはデッドライン3週間前。
 それから大急ぎで縫製し、縫い上がったのが1週間前。

 けれどまだ、衣装と帽子に恐るべき数のビーズやスパンコールを刺繍するという地獄の作業が待っていた。

「これ、ぜったい間に合わないって。ちょっと数、減らそうよ」

 そのわたしの言葉に、都築は露骨にいやな顔をした。

「何言ってんの? 刺繍の緻密さがこの作品の出来不出来を左右するんだぜ。絶対減らせないって」

 頭ごなしに否定されたことで、わたしの負けず嫌いな性格に火がついた。
「わかった。やればいいんでしょ」

 都築はニヤっと笑った。
「そう来なくちゃ」

 ん? 何その顔。
 すでに負けず嫌いのこの性格、読まれてるってこと?
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