初恋の呪縛

泉南佳那

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1・秘めた想い

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 住宅街の一角に忽然と現れる真っ白な外壁が眩しい4階建てのビル。 
 中堅アパレルメーカー『Change the living』の本社ビルだ。

 運動不足解消のため、階段で4階へ。
 廊下の窓から臨む公園のイチョウの葉が、だいぶ色づいてきた。

 冬はすぐそこまで来ている。
 つい、この間までは暑い暑いってふーふー言ってたのに。
 時の経つスピードがほんとに早すぎる。

 そんなことを思いながらプランナー室へと急ぐ。

 そこがわたし、久保朱利あかりの職場。
 専門学校を卒業して、3年間販売で揉まれ、念願のプランナーになって4年。今、27歳だ。

 先週まで再来年に向けた新ブランド立ち上げで、連日バタバタの大忙しだったが、ようやくめどが立って今週は小休止。
 オフィスも先週までの殺伐とした空気が一変して、いつになく穏やかだった。

「おはよう」
「あっ、朱利先輩。おはようございます」

 返事をしたのは、隣の席の、3年後輩の島崎麻央。
 この4月にプランナー室配属になったばかりの新米である。


「相変わらず朝から元気だね」
「はい! それだけが取り柄なんで」

 彼女は後輩のなかで一番わたしに懐いている。
 麻央に限らず、これまでの人生、男子より女子から熱い眼差しを向けられることが多かった。

 すでに身長が168cmあった中学時代、その身長のせいで半ば強制的にバスケ部に入部。

 でも始めてみたら、バスケは性に合っていたのか、すぐにハマり、関係があるかはわからないが、身長もすくすくと172cmまで伸びた。

 高校生になってからも部活を続け、2年からキャプテンを任されることになり、その頃から、モテ始めた……女子たちに。

 バレンタインともなれば、友チョコではなく、本命チョコを渡されること多数。

「可愛い女子はお前に全部持っていかれる」と男子から文句を言われつづけ、いざ、自分がチョコを渡したい相手ができても、自分はそんな柄じゃないという気持ちが先に立って渡せずじまいに終わり……中高合わせて、お付き合いした男子は皆無。

 思えばまったく彩りに欠ける青春時代だった。

 

 もっとも、男兄弟しかいなくて、小さいころから兄たちに混じって泥まみれで遊んでいたので、男っぽくなったのは、たぶん体型だけの問題ではないのだろうけれど。

 当時は兄のおさがりしか着たことがなく、初めてはいたスカートは中学校の制服だったし。
 
 でもその反動で芽生えたお洒落への渇望が、今こうして、天職だと思える服飾の仕事に就くきっかけとなったのだから、まあ、それはよしとしよう。


「ああ、久保、ちょっと」

 コーヒーを入れようと給湯室に向かう途中、他の社員と打ち合わせしていた佐藤室長に手招きされた。

「昨日の企画書、赤入れておいたから、後で直しといて」
「了解です」

 書類を受け取り、軽く頭を下げて席に戻ろうとすると、室長は、まだ何か言いたげな顔をしている。

「他にも何かありますか」

「うん、えーと、今晩、なんか予定ある?」
 室長は首の後ろに手をやって、妙に歯切れの悪い口調で言った。

「いえ、特には」
「あのさ、仕事、退けてから、ちょっと付き合って欲しいんだけど」
「はい。構わないですよ」

 店舗回りかな。

「場所は後でメールしておくから」
「了解です」


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