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エピローグ
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【8年後】
「優お姉さん、あ、違った。香坂店長。今日からよろしくお願いします」
そう言っているのは、いつも高木書店に来ていた鳴海ちゃんだ。
あのとき、小学5年生だった彼女も、今では大学1年生。
今日から、うちの本屋でアルバイトをしてくれることになっていた。
と言っても、ここはかつての高木書店ではない。
計画されていた再開発事業は順調に進み、当初の予定通り、3年前の5月に着工。
来月早々に、新しい商業施設が完成する運びとなっていた。
やはり計画通り、その商業施設には大型書店が入ることになり、高木書店は80年余りの歴史を終えることとなった。
結局、祖母は権利を争うことをやめ、閉店する道を選んだ。
土地を売った資金で熱海にマンションを買い、現在は悠々自適の生活を謳歌している。
けれど、高木書店が完全になくなったわけではなかった。
なぜなら、玲伊さんのおかげで、この土地で書店を営むという曽祖父や祖父母の意志を受け継いだ新店舗を出すことができたから。
わたしたちが今いるのは、その新店舗。
絵本専門店と顧客専用の託児施設を兼ねた店舗〈Tall Tree Books〉。
2年前〈リインカネーション〉の1階を改装し、開業した、わたしの店だ。
「鳴海ちゃん、こちらこそよろしく。じゃあ、そこのエプロンをつけてくれる? 仕事については少しずつ説明していくね。まず、そこに出ているおもちゃを片付けてくれるかな」
「はい。店長は座っていてくださいね。わからないことがあれば聞きますから」
「うん、ありがとう。でも大丈夫だよ。体調が悪いときはちゃんと言うからね」
成長した今でも、鳴海ちゃんは気配りのできる、とても優しい心の持ち主だ。
それは8年前、小さい子たちの世話をしてくれていたときから、まったく変わっていなかった。
気心が知れた彼女にバイトに来てもらえることになって、本当に良かった。
保育士は3名雇っていたけれど、書店は今まで、わたしひとりで切り盛りしていた。
けれどそろそろ、そうも言っていられなくなってきたから。
現在、妊娠7ヶ月の、お腹が目立ってきた妊婦なのだから。
結婚7年目にして、ようやく授かった待望の赤ちゃんだった。
「優紀。疲れてないか?」
で、玲伊さんは予約の合間を縫って、しょっちゅう顔を出す。
「もう、オーナーがそんなにしょっちゅう事務所を抜けてきたら、他の社員に示しがつかないんじゃない?」
「その心配は無用だよ。かえって『奥さんの様子、見てきたらどうです?』と勧められるぐらい。俺がイライラしているほうが、みんな気が散るんだって」
もう、本当に玲伊さんは。
「あっ」
「どうした?」
「今、動いた。お腹蹴ってる」
玲伊さんは嬉しそうに言う。
「俺が来たのに気付いたのかな」
「いや、さすがにそれはないと思うけど」
と言う、わたしの言葉を無視して、にこにこ顔でわたしの大きなお腹を撫でている玲伊さん。
子煩悩を超えて、とてつもない親バカになるんじゃないかと、わたしはひそかに確信していた。
でも……
そんな玲伊さんが、好きで好きでたまらないわたしも、まったく人のことは言えないのだけれど……
「玲伊さん」
「ん?」
「あのぉ」
あやうくキスしかけたわたしたちに、鳴海ちゃんが遠慮がちに声をかけてきた。
「……お客さんが見えましたけど」と。
〈The Happy End!〉
*お読みいただきまして、どうもありがとうございましたm(_ _"m)
「優お姉さん、あ、違った。香坂店長。今日からよろしくお願いします」
そう言っているのは、いつも高木書店に来ていた鳴海ちゃんだ。
あのとき、小学5年生だった彼女も、今では大学1年生。
今日から、うちの本屋でアルバイトをしてくれることになっていた。
と言っても、ここはかつての高木書店ではない。
計画されていた再開発事業は順調に進み、当初の予定通り、3年前の5月に着工。
来月早々に、新しい商業施設が完成する運びとなっていた。
やはり計画通り、その商業施設には大型書店が入ることになり、高木書店は80年余りの歴史を終えることとなった。
結局、祖母は権利を争うことをやめ、閉店する道を選んだ。
土地を売った資金で熱海にマンションを買い、現在は悠々自適の生活を謳歌している。
けれど、高木書店が完全になくなったわけではなかった。
なぜなら、玲伊さんのおかげで、この土地で書店を営むという曽祖父や祖父母の意志を受け継いだ新店舗を出すことができたから。
わたしたちが今いるのは、その新店舗。
絵本専門店と顧客専用の託児施設を兼ねた店舗〈Tall Tree Books〉。
2年前〈リインカネーション〉の1階を改装し、開業した、わたしの店だ。
「鳴海ちゃん、こちらこそよろしく。じゃあ、そこのエプロンをつけてくれる? 仕事については少しずつ説明していくね。まず、そこに出ているおもちゃを片付けてくれるかな」
「はい。店長は座っていてくださいね。わからないことがあれば聞きますから」
「うん、ありがとう。でも大丈夫だよ。体調が悪いときはちゃんと言うからね」
成長した今でも、鳴海ちゃんは気配りのできる、とても優しい心の持ち主だ。
それは8年前、小さい子たちの世話をしてくれていたときから、まったく変わっていなかった。
気心が知れた彼女にバイトに来てもらえることになって、本当に良かった。
保育士は3名雇っていたけれど、書店は今まで、わたしひとりで切り盛りしていた。
けれどそろそろ、そうも言っていられなくなってきたから。
現在、妊娠7ヶ月の、お腹が目立ってきた妊婦なのだから。
結婚7年目にして、ようやく授かった待望の赤ちゃんだった。
「優紀。疲れてないか?」
で、玲伊さんは予約の合間を縫って、しょっちゅう顔を出す。
「もう、オーナーがそんなにしょっちゅう事務所を抜けてきたら、他の社員に示しがつかないんじゃない?」
「その心配は無用だよ。かえって『奥さんの様子、見てきたらどうです?』と勧められるぐらい。俺がイライラしているほうが、みんな気が散るんだって」
もう、本当に玲伊さんは。
「あっ」
「どうした?」
「今、動いた。お腹蹴ってる」
玲伊さんは嬉しそうに言う。
「俺が来たのに気付いたのかな」
「いや、さすがにそれはないと思うけど」
と言う、わたしの言葉を無視して、にこにこ顔でわたしの大きなお腹を撫でている玲伊さん。
子煩悩を超えて、とてつもない親バカになるんじゃないかと、わたしはひそかに確信していた。
でも……
そんな玲伊さんが、好きで好きでたまらないわたしも、まったく人のことは言えないのだけれど……
「玲伊さん」
「ん?」
「あのぉ」
あやうくキスしかけたわたしたちに、鳴海ちゃんが遠慮がちに声をかけてきた。
「……お客さんが見えましたけど」と。
〈The Happy End!〉
*お読みいただきまして、どうもありがとうございましたm(_ _"m)
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完結おめでとうございます!!!
玲伊さん達からの愛情を受けながら、新しい自分を手に入れ、美しくも強さを兼ね備えた優紀ちゃん✨
結婚発表の時に元同僚に言った言葉に新しい優紀ちゃんの今を現していたと思います🥹
もちろん玲伊さんの甘々にもキュンキュン🥰
また次の作品も楽しみに、過去作も読まさせていただきたいと思います❣️
らびぽろさま
完結までお付き合いいただき、本当にありがとうございました😊
登場人物に寄り添ったご感想が、大変嬉しかったです🥹💕
らびぽろ様
毎回、ステキなご感想どうもありがとうございます😭💕
ようやくラストまで漕ぎ着けられそうです。完結までお楽しみいただけますように🙏💕
うわ〜😱やっとのこの時に…
でも大丈夫‼️なにがあっても玲伊さんが全身全霊で守ってくれるから。
尻尾を巻いて逃げ出すよ💨
またまたのご感想、どうもありがとうございます🙇♀️💕
続きもお楽しみいただけますように🥰