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第5章 〈レッスン2〉 アフタヌーン・キス
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これが今日限りじゃなくてしばらく続くなんて知られたら、世間に数多存在する、玲伊さんファンの恨みを買いそうだ。
ドライヤーで乾かし終わると、玲伊さんはわたしの髪を手に取って、ちょっと眉をしかめた。
「うーん、やっぱり一日おきにトリートメントや頭皮マッサージをする必要があるし、週一でオイルパックもしないと。ヘア専門のパーツモデルができるクオリティまで持っていきたいからね。ちょっと大変だけど頼むよ。中途半端な施術はしたくないから」
「わかりました」
玲伊さんはわたしのケープを外してくれた。
「でも思ったよりもすぐに良い結果が出せそうだ。優ちゃんは性格だけじゃなくて髪も素直で助かるよ」
「髪はわかりませんが……性格はぜんぜん素直じゃないです」
「いや、そんなことはない。素直で正直で真面目だよ、優ちゃんは」
そう言って、玲伊さんはにっこり微笑んだ。
セット椅子から降り、わたしは「ありがとうございました」と頭を下げた。
「どういたしまして。さてと、これからすぐ、海外とのリモート会議があってね」
サロンを出ると、玲伊さんは先に立って歩き、エレベーターホールまで送ってくれた。
「店まで送っていけなくてごめんな」
「そんな……大丈夫です。まだそんな遅くないし、目と鼻の先ですから」
「でも、夜には違いないんだから、気をつけて帰れよ」
じゃあ、またな、とハグしようとしてきた玲伊さんを、わたしは慌てて手を前に出して制した。
「ん?」
「あの……できればハグはなしで」
わたしは頭を下げてお願いした。
顔を上げると、玲伊さんはちょっと眉を寄せている。
「俺にハグされるのは嫌?」
そんなストレートに聞かれると困るんだけど。
わたしは首を振った。
「嫌じゃないんですけど」
「けど?」
そんな風に見つめないでほしい。
「この間のお話で、ハグに効用があるのはわかりました。でも、わたし……男の人にハグされたの初めてで、ドキドキしすぎて、夜、よく眠れなくなっちゃって」
玲伊さんは一瞬、目を丸くして、それから、痛みをこらえるときのように額に手を当て、そのまましばらくじっとしていた。
「玲伊さん?」
「優ちゃん……可愛すぎるって。それ、ちょっと反則」
玲伊さんはぼそぼそっと呟いた。
「えっ?」
わたしが首をかしげて聞き返すと、今度は普通の声で言った。
「わかったよ。じゃあハグはなしにする。また寝不足になっても困るしな」
それから、わたしの頭に手をのせて、ぽんぽんと軽く叩いた。
「じゃあな。おやすみ」
「はい。おやすみなさい」
玲伊さん、ハグを嫌がったりして、気を悪くしたかな。
でも、もうしたくなかったから。
大好きな人と挨拶だけのハグなんて。
それに……
玲伊さんには彼女がいるのに。
ドライヤーで乾かし終わると、玲伊さんはわたしの髪を手に取って、ちょっと眉をしかめた。
「うーん、やっぱり一日おきにトリートメントや頭皮マッサージをする必要があるし、週一でオイルパックもしないと。ヘア専門のパーツモデルができるクオリティまで持っていきたいからね。ちょっと大変だけど頼むよ。中途半端な施術はしたくないから」
「わかりました」
玲伊さんはわたしのケープを外してくれた。
「でも思ったよりもすぐに良い結果が出せそうだ。優ちゃんは性格だけじゃなくて髪も素直で助かるよ」
「髪はわかりませんが……性格はぜんぜん素直じゃないです」
「いや、そんなことはない。素直で正直で真面目だよ、優ちゃんは」
そう言って、玲伊さんはにっこり微笑んだ。
セット椅子から降り、わたしは「ありがとうございました」と頭を下げた。
「どういたしまして。さてと、これからすぐ、海外とのリモート会議があってね」
サロンを出ると、玲伊さんは先に立って歩き、エレベーターホールまで送ってくれた。
「店まで送っていけなくてごめんな」
「そんな……大丈夫です。まだそんな遅くないし、目と鼻の先ですから」
「でも、夜には違いないんだから、気をつけて帰れよ」
じゃあ、またな、とハグしようとしてきた玲伊さんを、わたしは慌てて手を前に出して制した。
「ん?」
「あの……できればハグはなしで」
わたしは頭を下げてお願いした。
顔を上げると、玲伊さんはちょっと眉を寄せている。
「俺にハグされるのは嫌?」
そんなストレートに聞かれると困るんだけど。
わたしは首を振った。
「嫌じゃないんですけど」
「けど?」
そんな風に見つめないでほしい。
「この間のお話で、ハグに効用があるのはわかりました。でも、わたし……男の人にハグされたの初めてで、ドキドキしすぎて、夜、よく眠れなくなっちゃって」
玲伊さんは一瞬、目を丸くして、それから、痛みをこらえるときのように額に手を当て、そのまましばらくじっとしていた。
「玲伊さん?」
「優ちゃん……可愛すぎるって。それ、ちょっと反則」
玲伊さんはぼそぼそっと呟いた。
「えっ?」
わたしが首をかしげて聞き返すと、今度は普通の声で言った。
「わかったよ。じゃあハグはなしにする。また寝不足になっても困るしな」
それから、わたしの頭に手をのせて、ぽんぽんと軽く叩いた。
「じゃあな。おやすみ」
「はい。おやすみなさい」
玲伊さん、ハグを嫌がったりして、気を悪くしたかな。
でも、もうしたくなかったから。
大好きな人と挨拶だけのハグなんて。
それに……
玲伊さんには彼女がいるのに。
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