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第4章 〈レッスン1〉 ハグの効用
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「あの店なら、行きたい……です」
もうなんにも食べられないと言った手前、ちょっと恥ずかしかったけれど、そう答えた。
すると彼は少しいたずらっぽい目でこっちを見て言った。
「あれ、『もう無理』じゃなかったの?」
「えーと、甘いものは完璧に別腹なので。大丈夫。詰込みます」
玲伊さんはぷっと吹き出す。
「優ちゃん、本当に好きなんだな、スイーツが」
「はい。毎回食べるたびに感謝してます。こんなにおいしいものを作ってくれてありがとうって」
「誰に?」
「うーん。神様かな」
「そういえば、お菓子の神様が祀られてる神社があるの、知ってる?」
「えー、そんなのがあるんですか?」
「うん。俺も行ったことはないけど。人に聞いただけで」
「じゃあ、いつかその神様に感謝を捧げに行かなきゃ。ググったらわかりますよね」
「たぶんね。お祭りのときにはスイーツの屋台がずらっと並ぶって話だけど」
「うわー、なんですか。その、夢のようなお祭り!」
わたしの言葉に、玲伊さんはくすくす笑っている。
玲伊さんと一緒にいると、どうしてこんなに心が弾んでしまうんだろう。
でも、いつでも浮かれた気持ちに切ない気持ちが忍びよってくる。
あの、くろいうさぎのように。
うさぎの心配は杞憂だった。
でも、わたしの場合は……
心配しなくても、ちゃんとわかってる。
玲伊さんが決して手の届かない人だってことは。
わたしは心の中で警告を発してくるもう一人の自分にそう告げた。
幸い、店内はそれほど混んでおらず、並ばずにすぐに座ることができた。
「よかったな、席が空いてて」
玲伊さん、ここでもやっぱり注目の的だ。
他のお客さんからも店員さんからも熱い視線を感じる。
それからみんな、不思議そうにわたしを見る。
えー、なんでこの人がこんな子を連れてるの?
そんな心の声が聞こえてくるようだ。
「どうかした?」
「いえ、なんでもないです」
玲伊さんは少し首を傾げながらも、メニューを開いた。
「どれにする?」
彼は少し身を乗り出してくる。
ただでさえ小さなテーブルなので、そうしていると頭が触れ合いそうになる。
そのことと、そして、あまりにもおいしそうなメニュー写真に夢中になって、回りの視線は気にならなくなった。
「やっぱりマンゴーかな……でも、桃も美味しそうだし。チョコバナナも捨てがたいなあ」
パフェはその3種類。
散々迷った結果、わたしはマンゴーパフェを選んだ。
玲伊さんはラ・フランスのソルベをチョイス。
「お待たせしました」
店員さんの声とともに、満艦飾と形容したくなるほどフルーツや生クリームたっぷりのぜいたくなパフェが目の前に置かれた。
「わー、すごい」
わたしが目を輝かせてつぶやくと、玲伊さんは「そっか」と何かに気づいたように一言もらした。
「何……ですか?」
「今、わかった。確実に優ちゃんの機嫌を治す方法」
「?」
「目の前に甘いお菓子を並べればいいんだ、ってことがね」
そう言って、わたしのほうを見てにこにこしている。
「玲伊さん、わたしをどれだけ食いしん坊だって思ってるんですか」
少し口を尖らせてみたけれど、豪奢なパフェを目の前にしてしまうと顔は自然にほころぶ。
「あ、ほんとだ。おいしいものを前にすると顔がゆるんじゃいますね、たしかに」
もうなんにも食べられないと言った手前、ちょっと恥ずかしかったけれど、そう答えた。
すると彼は少しいたずらっぽい目でこっちを見て言った。
「あれ、『もう無理』じゃなかったの?」
「えーと、甘いものは完璧に別腹なので。大丈夫。詰込みます」
玲伊さんはぷっと吹き出す。
「優ちゃん、本当に好きなんだな、スイーツが」
「はい。毎回食べるたびに感謝してます。こんなにおいしいものを作ってくれてありがとうって」
「誰に?」
「うーん。神様かな」
「そういえば、お菓子の神様が祀られてる神社があるの、知ってる?」
「えー、そんなのがあるんですか?」
「うん。俺も行ったことはないけど。人に聞いただけで」
「じゃあ、いつかその神様に感謝を捧げに行かなきゃ。ググったらわかりますよね」
「たぶんね。お祭りのときにはスイーツの屋台がずらっと並ぶって話だけど」
「うわー、なんですか。その、夢のようなお祭り!」
わたしの言葉に、玲伊さんはくすくす笑っている。
玲伊さんと一緒にいると、どうしてこんなに心が弾んでしまうんだろう。
でも、いつでも浮かれた気持ちに切ない気持ちが忍びよってくる。
あの、くろいうさぎのように。
うさぎの心配は杞憂だった。
でも、わたしの場合は……
心配しなくても、ちゃんとわかってる。
玲伊さんが決して手の届かない人だってことは。
わたしは心の中で警告を発してくるもう一人の自分にそう告げた。
幸い、店内はそれほど混んでおらず、並ばずにすぐに座ることができた。
「よかったな、席が空いてて」
玲伊さん、ここでもやっぱり注目の的だ。
他のお客さんからも店員さんからも熱い視線を感じる。
それからみんな、不思議そうにわたしを見る。
えー、なんでこの人がこんな子を連れてるの?
そんな心の声が聞こえてくるようだ。
「どうかした?」
「いえ、なんでもないです」
玲伊さんは少し首を傾げながらも、メニューを開いた。
「どれにする?」
彼は少し身を乗り出してくる。
ただでさえ小さなテーブルなので、そうしていると頭が触れ合いそうになる。
そのことと、そして、あまりにもおいしそうなメニュー写真に夢中になって、回りの視線は気にならなくなった。
「やっぱりマンゴーかな……でも、桃も美味しそうだし。チョコバナナも捨てがたいなあ」
パフェはその3種類。
散々迷った結果、わたしはマンゴーパフェを選んだ。
玲伊さんはラ・フランスのソルベをチョイス。
「お待たせしました」
店員さんの声とともに、満艦飾と形容したくなるほどフルーツや生クリームたっぷりのぜいたくなパフェが目の前に置かれた。
「わー、すごい」
わたしが目を輝かせてつぶやくと、玲伊さんは「そっか」と何かに気づいたように一言もらした。
「何……ですか?」
「今、わかった。確実に優ちゃんの機嫌を治す方法」
「?」
「目の前に甘いお菓子を並べればいいんだ、ってことがね」
そう言って、わたしのほうを見てにこにこしている。
「玲伊さん、わたしをどれだけ食いしん坊だって思ってるんですか」
少し口を尖らせてみたけれど、豪奢なパフェを目の前にしてしまうと顔は自然にほころぶ。
「あ、ほんとだ。おいしいものを前にすると顔がゆるんじゃいますね、たしかに」
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