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第4章 〈レッスン1〉 ハグの効用
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玲伊さんが連れていってくれたのは、歩いて10分ほどのところにあるおしゃれな店構えの焼き肉店だった。
店は地下にあり、狭い階段を降りてドアを開けると、すでにほぼ満席。
平日でこれほど混んでいるのだから、よっぽどの人気店なのだろう。
レジ近くにいた店員さんに玲伊さんが「香坂です」と名乗ると、彼は申し訳なさそうな顔をした。
「ああ、香坂さん。すいません、いつもの個室、取れなくて」
「いえ、ぜんぜん構わないよ。急にお願いしたのはこっちだし」
店員さんは、わたしたちを入り口近くの席に案内した。
打ちっぱなしの天井を太いダクトが縦横に走り、そこから黒い集煙器が各テーブルのロースターのすぐ上に伸びている。
グラスや皿が触れ合う音、歓談する人たちの声、BGMが混ざり合って、店内は賑やかだ。
「さて。思いっきり食べろよ。しばらく禁欲生活してもらわないといけないからね」
「なんだか最後の晩餐みたいですね」
「ははっ、確かに。でも三カ月って結構長いよ」
「お肉はぜんぜん食べられないんですか?」
「そんなことはないけど。タンパク質はきちんと取らないといけないから。ただ、鶏ムネやささみ、それから魚中心になるかな。カルビみたいなこってりした肉は控えてもらうよ。脂肪の取りすぎは体重に響くだけじゃなくて、肌にもよくないし」
先に頼んだビールを飲みながら、店員さんにお肉の注文をしつつ、玲伊さんはわたしに視線を向けた。
「あと、甘い物、スナック菓子、そこらへんもダメだよ」
「あー、甘い物も食べられないんですね。それが一番つらいかも」
「あんまり我慢するのもストレスになってよくないから、うちのカフェで出してるようなスイーツならOK。でも、生クリームやアイスクリームは厳禁だ」
う、アイスも食べられないのか……
甘い物、特に生クリーム系に目がないんだけど。
ふーっと大きなため息をついて、わたしはしみじみ言った。
「綺麗になるのって、やっぱ努力が必要なんですね」
「そうだね。でも、無茶なダイエットをするわけでもないし、エクササイズも欠かさないわけだから、きっと、今までで一番、健康になると思うよ。心も身体もね」
「そうですね。はい、頑張ります」
わたしがその言葉に頷いたとき、店の扉が開き、男性二人と女性一人のグループが入ってきた。
三人ともとてもファッショナブルで、わたしは思わずそちらに目を向けた。
このあたりのアパレル会社にお勤めの人たちかな?
「あら、玲伊じゃない?」
その女性がわたしたちの席に近づいてきた。
親しげな笑みを浮かべている。
美しい人だった。
黒のサマーニットのタイトなワンピースを着こなし、長い亜麻色の髪を無造作にサイドに寄せている。
まるでファッション雑誌から抜け出してきたような佇まいだった。
店は地下にあり、狭い階段を降りてドアを開けると、すでにほぼ満席。
平日でこれほど混んでいるのだから、よっぽどの人気店なのだろう。
レジ近くにいた店員さんに玲伊さんが「香坂です」と名乗ると、彼は申し訳なさそうな顔をした。
「ああ、香坂さん。すいません、いつもの個室、取れなくて」
「いえ、ぜんぜん構わないよ。急にお願いしたのはこっちだし」
店員さんは、わたしたちを入り口近くの席に案内した。
打ちっぱなしの天井を太いダクトが縦横に走り、そこから黒い集煙器が各テーブルのロースターのすぐ上に伸びている。
グラスや皿が触れ合う音、歓談する人たちの声、BGMが混ざり合って、店内は賑やかだ。
「さて。思いっきり食べろよ。しばらく禁欲生活してもらわないといけないからね」
「なんだか最後の晩餐みたいですね」
「ははっ、確かに。でも三カ月って結構長いよ」
「お肉はぜんぜん食べられないんですか?」
「そんなことはないけど。タンパク質はきちんと取らないといけないから。ただ、鶏ムネやささみ、それから魚中心になるかな。カルビみたいなこってりした肉は控えてもらうよ。脂肪の取りすぎは体重に響くだけじゃなくて、肌にもよくないし」
先に頼んだビールを飲みながら、店員さんにお肉の注文をしつつ、玲伊さんはわたしに視線を向けた。
「あと、甘い物、スナック菓子、そこらへんもダメだよ」
「あー、甘い物も食べられないんですね。それが一番つらいかも」
「あんまり我慢するのもストレスになってよくないから、うちのカフェで出してるようなスイーツならOK。でも、生クリームやアイスクリームは厳禁だ」
う、アイスも食べられないのか……
甘い物、特に生クリーム系に目がないんだけど。
ふーっと大きなため息をついて、わたしはしみじみ言った。
「綺麗になるのって、やっぱ努力が必要なんですね」
「そうだね。でも、無茶なダイエットをするわけでもないし、エクササイズも欠かさないわけだから、きっと、今までで一番、健康になると思うよ。心も身体もね」
「そうですね。はい、頑張ります」
わたしがその言葉に頷いたとき、店の扉が開き、男性二人と女性一人のグループが入ってきた。
三人ともとてもファッショナブルで、わたしは思わずそちらに目を向けた。
このあたりのアパレル会社にお勤めの人たちかな?
「あら、玲伊じゃない?」
その女性がわたしたちの席に近づいてきた。
親しげな笑みを浮かべている。
美しい人だった。
黒のサマーニットのタイトなワンピースを着こなし、長い亜麻色の髪を無造作にサイドに寄せている。
まるでファッション雑誌から抜け出してきたような佇まいだった。
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