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第4章 〈レッスン1〉 ハグの効用
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「室内なのに、とっても明るいんですね」
うんうん、そうなんですよ、と頷きながら、岩崎さんはなめらかな口調で説明しはじめた。
「〈リインカネーション〉のコンセプトは、お客様に究極の癒しをご提供することでして。太陽の光を浴びると理屈抜きで気持ちがいいですよね。だから、設計の際に自然光の採光には細心の注意を払った、と聞いています。天気が悪くて暗いときには、太陽光に近いライトも使うんですよ。あ、でも加藤さんの施術はVIPサロンでされるそうなので、こちらを使うことはないですけれど」
大きなガラス窓に面してずらりとならんだセット椅子。
明るい色調のフローリングに乳白色の石材を用いた壁面。
エントランスやロビーと同じく、とてもナチュラルで開放的な雰囲気だ。
パキラ、モンステラ、サンスベリアなどの大鉢やポトスやアイビーのハンギングの緑も目に優しい。
かすかに漂うアロマの香りも柑橘系の爽やかなものだ。
たしかにここで施術してもらったら、心の底からリラックスできそう。
次に案内してもらったのは2階のフレンチレストラン〈ルメイユール・プラ〉。
フランス語で「最高の一皿」という意味だそうだ。
「こちらが、当日パーティー会場になるレストランです」
「うわー、素敵ですね」
あまりにも豪華な内装で、思わず大きな声が出てしまった。
こちらは1階のナチュラルな雰囲気とはまったく異なり、重厚な真紅のベルベット・カーテンが良く似合う贅を尽くした空間だった。
前にセットとメイクをしてもらったVIPサロンのヨーロピアンテイストの内装に近い。
天井にはシャンデリア、床は寄せ木のモザイク、柱は大理石、壁面には天使がフレスコで描かれていて、それらを金の繊細な装飾が彩っている。
西洋の城の大広間そのもので、ここなら舞踏会も開けそう。
会社に勤めていたとき、300名を超すゲストを招いた親会社の周年パーティーを手伝ったことがあったけれど、それぐらいの規模なら充分対応できる広さがある。
「加藤さん、ここでお食事されたことは?」
わたしはかぶりを振った。
「ないです、ないです。だってランチでも2万円からですよね、たしか」
「そうですね。たしかにめったなことでは来られないですよね。かく言うわたしも、こちらに勤めていながら一度も食べたことないですけど」と岩崎さんはちょっとおどけて言った。
わたしもつられて笑っていた。
担当してくれるのが、ほがらかな岩崎さんで良かった。
会社でのことがあって以来、同年代の女性に苦手意識があったけれど、岩崎さんには気詰まりをまったく感じない。
会話を深読みする必要がなく、素直に返事を返すことができる。
「ディナーパーティーには、おそらく出席されるでしょうから、どうぞこちらのお食事もご堪能くださいね」
「楽しみです。わたし、とっても食いしん坊なので」
「わー、同じです。わたしも食べることが大好き。美味しい物を食べる幸せに勝ることってないですよね」
にこにことわたしを見る彼女に頷き返した。
うんうん、そうなんですよ、と頷きながら、岩崎さんはなめらかな口調で説明しはじめた。
「〈リインカネーション〉のコンセプトは、お客様に究極の癒しをご提供することでして。太陽の光を浴びると理屈抜きで気持ちがいいですよね。だから、設計の際に自然光の採光には細心の注意を払った、と聞いています。天気が悪くて暗いときには、太陽光に近いライトも使うんですよ。あ、でも加藤さんの施術はVIPサロンでされるそうなので、こちらを使うことはないですけれど」
大きなガラス窓に面してずらりとならんだセット椅子。
明るい色調のフローリングに乳白色の石材を用いた壁面。
エントランスやロビーと同じく、とてもナチュラルで開放的な雰囲気だ。
パキラ、モンステラ、サンスベリアなどの大鉢やポトスやアイビーのハンギングの緑も目に優しい。
かすかに漂うアロマの香りも柑橘系の爽やかなものだ。
たしかにここで施術してもらったら、心の底からリラックスできそう。
次に案内してもらったのは2階のフレンチレストラン〈ルメイユール・プラ〉。
フランス語で「最高の一皿」という意味だそうだ。
「こちらが、当日パーティー会場になるレストランです」
「うわー、素敵ですね」
あまりにも豪華な内装で、思わず大きな声が出てしまった。
こちらは1階のナチュラルな雰囲気とはまったく異なり、重厚な真紅のベルベット・カーテンが良く似合う贅を尽くした空間だった。
前にセットとメイクをしてもらったVIPサロンのヨーロピアンテイストの内装に近い。
天井にはシャンデリア、床は寄せ木のモザイク、柱は大理石、壁面には天使がフレスコで描かれていて、それらを金の繊細な装飾が彩っている。
西洋の城の大広間そのもので、ここなら舞踏会も開けそう。
会社に勤めていたとき、300名を超すゲストを招いた親会社の周年パーティーを手伝ったことがあったけれど、それぐらいの規模なら充分対応できる広さがある。
「加藤さん、ここでお食事されたことは?」
わたしはかぶりを振った。
「ないです、ないです。だってランチでも2万円からですよね、たしか」
「そうですね。たしかにめったなことでは来られないですよね。かく言うわたしも、こちらに勤めていながら一度も食べたことないですけど」と岩崎さんはちょっとおどけて言った。
わたしもつられて笑っていた。
担当してくれるのが、ほがらかな岩崎さんで良かった。
会社でのことがあって以来、同年代の女性に苦手意識があったけれど、岩崎さんには気詰まりをまったく感じない。
会話を深読みする必要がなく、素直に返事を返すことができる。
「ディナーパーティーには、おそらく出席されるでしょうから、どうぞこちらのお食事もご堪能くださいね」
「楽しみです。わたし、とっても食いしん坊なので」
「わー、同じです。わたしも食べることが大好き。美味しい物を食べる幸せに勝ることってないですよね」
にこにことわたしを見る彼女に頷き返した。
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