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 唇を合わせながら、彼の部屋に導かれる。
 カットソーをたくし上げて首から抜かれ、スカートのファスナーも下ろされて足元にすべり落ちてゆく。

 「好きだ、茉衣さん」
 「浅野……くん」
 「ねえ、一樹って呼んで」
 「か……ずき」

 彼は満足そうに微笑み、キスをする。
 そのまま胸のふくらみに手を這わせ、揉みしだく。

 「あ……ん」
 首筋を唇が這いはじめると、わたしは身体をびくつかせて、言葉とも吐息ともつかないものを、唇からこぼしてしまう。

 口づけを繰り返しながら、彼の手はゆっくりと身体の脇を下がってゆき、やがて、わたしの一番密やかな場所に到達した。
 「あ……」
 淫らな声が漏れそうになり、わたしは唇を噛む。
 「もっと……声が聞きたい」

 欲を孕んだかすれ声でそういうと、彼の指がわたしの狭間に分け入ってきた。
 敏感な部分を余さず責められて、彼の思惑どおり声が抑えられなくなった。

 「あん、っや、かず……だ……め、ああん」
 
 そんな繊細な、それでいて容赦のない彼の愛撫に、わたしは身も心も溺れた。

 身体の奥から欲望がとどめなくあふれ出してくるのが、自分でもわかった。

 「ねえ……もう」と淫らに腰をうごめかせてしまうわたしにキスの雨を降らせながら、彼も切羽詰まった声を漏らす。
 「今すぐ……あげるから」

 彼は一度身体を離し、そして、自身に覆いを被せ、一気にわたしを貫き……

 想像以上の快楽に、わたしは背をしならせて応えつづけた。

 ***
 
 嵐のようなひとときが過ぎ去り、彼の胸に寄り添い、髪を撫でられながら、わたしはぼんやりと天井を眺めていた。

 「怒ってる?」
 一樹は甘やかな、でも少し不安をにじませた声でわたしに話しかけてきた。
 
 「ずるいよね、俺。親切づらして、茉衣さんを家に住まわせて……今日だって酒に酔わせてさ」

 わたしは起き上がり、上から彼の顔を覗き込む。
 「ううん、ずるいのはわたしのほう。浅野くんの善意につけこんでいたんだから」

 彼はくすっと笑う。
 「浅野くん?」
 「もうわかったでしょう。善意じゃなくて、純然たる下心だって」
 「純然たるって……」
 
 いいようもなく幸せだった。
 でも同時に、一抹の不安が水に落とされた墨汁の一滴みたいに、わたしの中で急速に広がった。

「どうしたの。急にそんな顔して」
 彼はわたしを見上げた。

「あ、ごめん」
「やっぱり怒ってる? それとも俺、良くなかった?」
 いたずらっぽく目を輝かせて、一樹が言う。

「ち、違うよ。そうじゃなくて、宣人のことが急に心配になって」
「大丈夫。心配ないよ」
「でも、執念深いんだよ、本当に」

 わたしの言葉に、一樹は不機嫌そうに眉を寄せた。
「よくわかってる口ぶりだね。伊川さんのこと。なんか……」

 彼は寝そべったまま、両腕を伸ばし、わたしの首の後ろで交差させた。

「ものすごく妬ける」
「もう、真面目に言ってるんだけど」
「怒った顔も可愛い」
「もう……」

 引き寄せられるまま、わたしは唇を重ねた。

 彼の手が覆いかぶさるわたしの背中に下りてくる。
 そして、わたしを抱きしめたまま身体を反転させ、組み敷いた。

「愛してる……俺の茉衣」

 頬を寄せ、耳に甘い言葉を注ぎ込み、それから首筋に唇を這わせてゆく。
 わたしの身体の奥でくすぶっていた劣情が、また熱を帯び始める。

「あ……」
 声を漏らすと彼はわたしの手をそっと自分の昂ぶりに導いた。
「ほら、そんな声、聞かされたらまた欲しくなってきたよ」

 そして、彼の指が、まださっきの余韻を残しているわたしの狭間をさまよいはじめ、ふたたびふたりで激情の渦に身を投じていった。






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