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第一章

差し伸べられた手 9

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「えっ、マジ? いっつも秒速で断られるからダメもとで誘ったんだけど」

 わたしが頷くと彼は嬉しそうに微笑み、通りに出て、ちょうどいいタイミングでやってきたタクシーをつかまえた。

「いや、帰るって言われてもタクシーに乗せてたかもな。ほっとけない感じ。今日の植田さん」

 いつもなら困惑してしまう、そんな言葉も、今のわたしにはとてもありがたかった。

 本当は、家に帰りたくなかった。
 ひとりきりでいるのはつらかった。
 裕樹を責め、自分を責めるいつもの堂々巡りから、一刻いっときでいいから逃げたかった。


 同じ会社に勤めてはいるけれど、彼、島内亮介さんは営業で、わたしは総務。日常的な接点はない。

 なのに前から、こうして出退勤の途中や会社の廊下ですれ違ったときに、二言三言、言葉を交わす間柄だった。 

 きっかけは何だっけ?

 ああ、そういえば、4年前、彼が入社してすぐのころ。
 ロッカーの鍵を失くしたから合い鍵を作ってほしいと、総務に連絡してきたんだ。
 わたしが応対して顔見知りになった。

 そのときから、なぜか、仕事の行きかえりで偶然出会ったりするたびに、声をかけてくれるようになって……
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