甘やかしてあげたい、傷ついたきみを。 〜真実の恋は強引で優しいハイスペックな彼との一夜の過ちからはじまった〜

第一章

差し伸べられた手 ３

――別れてくれないか……

　恋人からつきつけられた刃やいばのような言葉。
　あれからもうすぐひと月が経とうとしている。
　でもあの日から、わたしのなかの時間は止まってしまった気がする。

　７年間付き合った彼の名前は、友田裕樹ともだゆうき。
　某教育大の同級生。
　在学中から教師に向いていないと気づき、一般企業に就職したわたしと違って、彼は初志貫徹。
　採用試験に合格し、今は出身中学で英語を教えている。

　お互いの両親も公認の仲で、もう結婚まで秒読みだと思っていた。
　別れることになるなんて、考えたこともなかった。

「なんで？」
「この前から言おうとはしていたんだ……」
　彼は思い詰めた顔をして、わたしの目を見ずにその理由を告げた。
「好きな人が……できた、こんな気持ちのまま、奈月と付き合い続けられない」
　
　怒りより驚きが先にきた。

　だって、他の女性の影なんてまったく感じたことがなかったから。
　本当に、誠実を絵に描いたような人なのだ。　
　
「二股……かけてたってこと？」
　意外なほど冷静な声が出て、自分でも驚く。

　彼はようやく顔を上げ、わたしの目を見て、そして首を振った。
「違うよ。まだ、その人に想いも告げてない」