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しおりを挟む「お待たせ」
アトリエの扉が開いた。利奈と一緒に、瑞々しい桃の香りが流れ込んできた。
「そういえば、果物ナイフがどこかにいっちゃって。買い直しておくのを忘れちゃったわ。やっぱり普通の包丁だとむきにくくて、嫌になっちゃった。小まわりが利かないんですもの」
いい訳をしながら利奈はお盆ごと、不格好な桃が載った皿をテーブルに置いた。かたちは悪くても山盛り。十四、五切れはあるだろうか。二人分には多すぎる量だった。
「どう、何かわかった?」
利奈はXの形にめくれ上がったカーペットのキズを、スリッパで押さえるようにして立った。
「何かどころじゃないかもな」
「え? なぞが解けたの?」
「ああ、たぶん」
「さすがはミステリー作家の先生ね」
「俺も自分でビビってる」
「聞かせて。やっぱり十文字くんはトリックか何かを使ったの?」
「いや事故だ」
ストレートに俺は応えた。
「うん、もう、そうじゃないっていってるじゃない、何度も何度も……」
利奈は不満げに唇をへし曲げた。
「違う。事故が起きた場所が違うんだ。崖の坂道じゃない。事故はこの部屋で起きたのさ」
「どういうこと?」
利奈は怪訝に顔をしかめた。
「私がいっているのは優也のことよ?」
「ああ、そうだ。優也はここで、このアトリエで、自分で事故を起こしたんだ」
「何をいっているのか、さっぱりわからないわ」
当然だろう。俺も驚いている。利奈に推理を聞かせるのは、自分自身を納得させるためでもあった。
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