伏線回収の夏

影山姫子

文字の大きさ
上 下
5 / 25

しおりを挟む
 白煙が風で揺らめいて、利奈の方へと流れていく。

「おたがいけたわね」
 
 煙を手で追い払ながら、利奈は静かに俺を見ている。

「きみは変わらない」
 本心を口にしたつもりだったが、いった直後に気がついた。
「髪の分け目を変えたかい?」
 顔の左半分を隠すようにして、右から左に流れる黒髪。

「気づいてくれたのね。でもオシャレじゃないの。時の流れには逆らえないわ。真ん中分けだと薄毛が目立つようになっちゃって」

無双むそうのきみから、まさかハゲの悩みを聞くとはね」

「嫌だ、まだハゲてはいないわよ」
 
 たがいの表情が少しだけほぐれた。
 
 彼女の額を汗がつたう。

「暑いのに大変だな」

「いらなくなったキャンバスや家具を少しずつ処分しているの。思い出がいっぱい詰まった品物でしょ? せめて自分の手で始末したくて。過去の思い出と一緒にね。なんて……。じつは町のゴミステーションへ持っていくのが面倒なだけ。リサイクルだなんだと最近はゴミの分別のルールがうるさくて。自分で焼いた方が楽なのよ。暑いけどね」
 
 利奈は右手にぶら下げていたL字の木片を穴に放った。ボッと火力の上がる音がして、透明な火炎が揺らめきを増した。

 利奈の背後で何かが動いた。濃いブラウンの毛に埋もれた黒目がぼんやりと開く。犬だ。ゴールデンレトリーバーだった。

「きみが動物を飼うなんてめずらしいな。優也のリクエスト?」

「ううん。私が飼い始めたの。一人で寂しくなっちゃったから。精神科にも通ってるの。眠れなくて……。睡眠剤を処方してもらっているのよ」
 
 誰にも弱みを見せることのなかった、あの岡滝利奈が……。

「今はこの子に癒してもらっているわ」
 
 俺は、火の立つ穴をまわり込んで、犬のかたわらにしゃがみ込んだ。体は大きいがまだ子犬だ。頭をゆっくり撫でてやると、また気持ちよさそうに目を閉じた。首輪にかかった監察札の日付けは三か月前。すっかり利奈に馴染んでいるようだ。

「男の子よ。名前はプロセ……、いえ、プロフェッサーっていうの」

「へえ、教授さまか。頭いいんだ?」

「全然。大飯喰らいで寝てばかり。番犬にもなりゃしないわ。しかも贅沢。ドッグフードなんか見向きもしないで、私の手料理しか食べようとしないのよ」

「買い出しも大変だな。ここは町から遠い」

「あら忘れたの? あなたもお世話になったでしょ? キッチンに業務用の大きな冷蔵庫があるのよ。みんなでここに寝泊まりしても、一週間は買い出しにいかなくても平気だったじゃない。この子と私の食事くらい、ひと月は楽に買い貯めておけるわ。それに覚えてる? あの例の仮装大会?」
 
 そうだ。そんなことがあったっけ。俺にとっては苦笑と共に脳裏を流れる記憶だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日月神示を読み解く

あつしじゅん
ミステリー
 神からの預言書、日月神示を読み解く

不良がまさかの修学旅行でおねしょ

カルラ アンジェリ
大衆娯楽
高校1の不良の女子高生が修学旅行でおねしょしてしまう

夜の染みとミステリー

カルラ アンジェリ
ミステリー
中学の修学旅行 女子6人が泊まる部屋で見つかる誰かは不明のおねしょシーツとショーツ。 犯人捜しの捜査が始まる

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

恥ずかしすぎる教室おねしょ

カルラ アンジェリ
大衆娯楽
女子中学生の松本彩花(まつもと あやか)は授業中に居眠りしておねしょしてしまう そのことに混乱した彼女とフォローする友人のストーリー

処理中です...