伏線回収の夏

影山姫子

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 岡滝利奈、新山亜沙美にいやまあさみ須藤真利亜すどうまりあの女三人。
 
 十文字省吾、霧山優也、そして俺の男三人。

 六人は某大学芸術学部のクラスメイトだった。

 映画のようなドラマティックな出会いがあったわけではない。入学当初、偶然同じクラスに分けられ、偶然最初に座った席が、六人とも近くだったというだけの話だ。

 それでも全員が同じ沿線にアパート、マンションを借りていたという縁のめぐり合わせはあったかもしれない。

 学校の行き帰り、かならず電車は誰かと乗り合わせになった。一緒に遊ぶことが多くなった。授業が途中から、おたがいの専門のゼミに別れても、六人の交流は途切れなかった。
 
 そうこうしているうちに、利奈がやがて、この屋敷を相続したのだ。高速道路を車で飛ばせば、東京からでも二時間弱。週末や長期休暇の期間になると、俺たちはここに自然に入りびたるようになっていった。
 
 課題制作という名の宴会とバカ騒ぎ。
 
 グループのリーダー、それが岡滝利奈だった。アジトの提供だけが理由ではない。俺たちと歳はほぼ同じのはずなのに、大胆不敵で冷静沈着、きもの据わった学生だった。
 
 たとえばだ。大学の特別授業で、病院の遺体解剖の現場に立ち合う機会があった。

 芸術の表現者として人間の真の内面にも知見ちけんを得ること。学校側にはそんな意図があったのかもしれないが、下世話な好奇心を丸出しにした生徒達には関係ない。

 恐いもの見たさ、興味本位、面白半分。

 毎年希望者が殺到することで有名な恒例の特別授業だった。だが毎年あっという間に終了することでも有名な授業だった。

 多くの生徒がものの数分で解剖室から飛び出していくのだ。俺も優也も十文字もそうだった。身じろぎもせずに最後まで、その血と肉の聖なる儀式を見届けていたのは利奈だけだった。
 
 さらにグループの一人、新山亜沙美が車の事故に巻き込まれた時のことだ。亜沙美はハンドルとシートの間に体を挟まれ、腎臓破裂、骨盤骨折という大怪我を負った。

 俺たちは報せを聞いても、あたふたするばかりで、どうしたらいいのかわからない。利奈はとっくに一人で病院に着いて、型が適合している自分の血を、亜沙美の体に捧げていた。
 
 また豪胆なだけではない。俺がインフルエンザにかかった時だ。利奈は食材一式を買い込んで、一人暮らしの俺のアパートに、夜中だというのに駆けつけてくれた。あの時のおかゆの味が今も忘れられない。

 病気の時、喰うものがない時、グループの誰かが困っていれば、男も女もわけへだてなく、いつでも利奈はやってきてくれた。

 カレー、肉じゃが、親子丼、八宝菜。インスタントや冷凍食品ではない。玄人はだしの包丁さばきで、すべてを一から手作りしてくれるのだ。家庭的で世話好きで料理上手。そんな一面も利奈にはあった。
 
 モデルのようなスタイルと美貌。タレントとしても通用しそうな度胸と頭の回転の速さ。それでも、あくまで、彼女が目指していたのは女優だった。
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