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第陸話 初夜
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室内に漂う緊張感――。
そんな空気の中、華小路は【青薔薇】男妓としての役目について話し始めた。
「私はね、お前がここに来て男妓として客を取る日が来るのを心待ちにしていた反面、……寂しくもあるんだよ」
「寂しい?」
「そう。……親離れしていくような、そんな寂しさかな」
ふと笑みを零す華小路の表情から寂しさは伺えるが、それよりも穏やかな表情をしていた。
「お前は、菊から何か聞いているか?」
「特に何も聞いていないよ」
「……そう。話してない……か」
――菊は敢えて言わなかったのかもしれないね。あの子なりの優しさなのか……。それとも……。
華小路は大きく深呼吸をし、伝えるべきことを伝えるために話し始めた。
「私からお前にいくつか伝えることがある。まず一つ目。今日来て下さるお客様には失礼がないように。そして二つ目。今日からお前には、これを首に着けてもらう」
華小路が差し出したのは、いつしか蘭が目にしたことのある、見覚えのある物だった。
「これって……」
――これと同じのを菊兄が着けてた……。……ん?つまりは俺もΩなのか!?
自身の性はβだと思い込んでいたため、蘭は内心焦っていた。
「お前には黙っておこうと思ったんだけど……そういう訳にはいかなくなったからね」
「俺……Ωなのか?」
「そうだよ」
「俺……ずっとβだと思ってたのに……今更Ωだなんて」
自身の生い立ちを思い出そうにも、蘭は思い出せないでいた。
【青薔薇】に来るまでの記憶はおろか、両親の顔さえ思い出せないでいた。ただ覚えているのは、雨に打たれながらここまで走ってきたことと、誰かに言われた『お前はβ』ということだけだった。
「いずれは話さないといけない、ってわかってたんだけど、あっという間にこの日が来てしまったんだ。こればかりは私の誤算……とでも言うしかないかな」
「……」
突然の事に驚きと戸惑いを隠せない蘭は、何も話せないでいた。
「お前にも心の準備が必要だとは思うから、この話はまた今度にしようか。……それよりも、この首輪について話していいかい?」
「……うん」
「お前も知っているとは思うけど、これはΩを守る役割も担っている。番でない者に首筋を嚙まれても意味はないんだけど、興味本位で噛みつい来る輩もいないとは言い切れない。だからこれを着けて欲しいんだ」
――そう言えば菊兄の肩に誰かの噛み痕があったな……。あれはつまり……興味本位で噛んだのか……。
「ただ厄介なのがね……。着けるのは簡単なんだけど、外すのが一筋縄ではいかないんだ」
「へ?」
「これには私の呪いをかけているんだ」
「……呪い」
「そう……。その解き方は、簡単なようで簡単じゃない」
「教えてくれるの?」
「う~ん……。今すぐには教えられない、かな。時が来れば教えてあげるよ」
華小路は表情を変えずに言った。
その表情から何を考えているのか蘭にはわからなかった。
――時が来れば……、か。
手渡された首輪を蘭が手に取ろうとすると、それは彼の手をするりとすり抜けた。そのままふわりと浮いたかと思うと、蘭の首元にするすると巻き付いたのだ。
「え、えぇっ!?」
「驚かしてしまったようだ……すまない」
「……いや……いいんだけど」
「苦しくないかい?」
蘭が首元に触れると、ぴったりと巻き付いた首輪の感触があった。
「苦しくない……けど、なんだか不思議な感じがする」
「まぁ、慣れるまでは違和感を感じるだろうね」
「……ふぅん」
「さて、私はそろそろ仕事に戻るね。下の子たちには、お前が今日初めて客を取ることは伝えてあるよ。もうじきお前の世話役になった麦が朝餉を持って来るはずだよ」
「俺の世話役、麦になったのか」
麦が【青薔薇】に来たのは今から五年前のこと――。
両親が俗に襲われ、行く当てがなく彷徨っていたところを華小路が見つけ保護した。来た当初は口数も少なく、下の子たちとも割が合わずどこか距離を取りがちだったが、最近では周りを見て行動ができるようにまでなっていた。
「蘭。……今夜はよろしゅうね」
「はい」
華小路は蘭に微笑みかけ、部屋を出て行った。
しばらくすると、華小路が言っていた通り麦が朝餉を運んで来た。
「蘭兄さん、今日から兄さんの世話役に仕りました麦です。よろしくお願いします」
「よろしく」
「朝餉をお持ちしました。終わられた頃にまた伺います」
「わかった」
一礼し、部屋を出て行く姿を見ていた蘭は、緊張している麦の姿に癒されていた。
――麦、世話役初めてなんだもんなぁ。めちゃくちゃ緊張してたし……。可愛い、なんて言ったらあいつ怒るかなぁ。
一人になった蘭は、麦のことを考えながら朝餉を済ませた。
❖❖❖
迎えた夜――。
見世の灯りが一斉に点き始め、華山一帯は艶やかな雰囲気が漂い始めた。
「ようこそお越しくださいました。今宵は我が見世の者をご指名いただき光栄です」
「あぁ」
「お部屋までのご案内は、この麦が致します」
「麦でふ。お部屋までご案内致しましゅ」
初めてのことで慣れない中、まさかの案内までするとは思っていなかった麦は、緊張のあまり言葉を噛んでしまった。そのことを恥ずかしく思ったのか、思わず麦は俯いてしまった。
「くくく……麦と言ったか。そんなに緊張しなくてもいいんだぞ。誰にだって間違うことはあるんだ。だから気にするな」
麦と目線を合わせるように屈んだ男は、彼の頭を撫でながら笑顔で答えた。
「はい!」
「お、いい返事だな」
麦の頭をわしゃわしゃと撫でる男の様子を見ていた華小路は、少し呆れながら男へ声をかけた。
「お気遣いいただき、ありがとうございます」
「おぅ」
「麦、お客様のご案内を」
「はい!どうぞこちらに」
麦に連れられて男は部屋へと向かった。
その後ろ姿を見ていた華小路は、そのまま蘭のいる部屋を見上げた。
トントントン――。
柱を叩く音が聞こえた後、緊張した様子の麦の声が聞こえて来た。
「お客様をお連れしました」
蘭は大きく深呼吸をし、意を決したように声を出した。
「どうぞ」
襖が開くのと同時に、蘭は頭を下げ客人を招き入れた。
「今宵はお越しいただき、ありがとうございます」
「その着物、よく似合っているな」
――ん?どこかで聞いたような……。いやいや……、俺の聞き間違いだ……。多分……。
蘭は目の前にいる人物を確認しようと、恐る恐る顔を上げた。
「なっ!?」
蘭の目の前には見覚えのある男の顔があった。
「よぉ、久しいな」
「……なんでコイツが」
「おい、聞こえてるぞ」
「……」
「そんなに睨んでも仕方ねぇぞ」
そう言いながら男は、蘭の目の前で胡坐をかいて座った。
「こうして面と向かって話すのは……あの時以来だな」
――コイツが言うあの時って、俺が発情してた時……。人が忘れようとしていた事を!……だめだ、落ち着くんだ俺。感情的になってはいけない、と陽兄に言われただろ……。
「あの時は大変お世話になりました」
「……なんだ、もっと怒るかと思ったんだが。反応がつまらん」
「ぐっ……」
「そうそう、そうやって威嚇する姿の方が似合ってるし、その方が俺は好きだぞ」
「あんたっ……、ゴホン……。失礼しました。貴方様のお名前を伺っても」
また感情的になりそうになった蘭は、慌てて落ち着きを取り戻すように身を引き締めた。
「そう言えば名乗っていなかったな。私の名は月影叶夜だ。俺の前では畏まる必要はない。お前らしく振舞ってくれ」
「……月影様」
「はぁ……まぁいいや。そのうち慣れてくれるだろうよ。んで、お前の名は?」
「蘭」
「それは知っている。本当の名だ」
「はっ?」
「蘭、という名はここでの名だろ。お前の真の名を聞いている」
「そんなこと教える訳ねぇじゃん!」
叶夜の言う通り、遊郭で働く際には楼主により名を与えられる。その名は、自身の名を元にしている場合もあれば、全く違う名を与えられることもあるとか――。
真の名を名乗ることは固く禁じられているが、心を許した者には名乗っても良い、という暗黙の決まりがあるのもまた事実――。
「……そうか。まぁ気が変わったら教えてくれ」
そう言うと、叶夜は立ち上がり蘭の目と鼻の先まで近づいて来た。
「……っ!」
「蘭、今夜は俺がたっぷりと可愛がってやる」
悪戯っぽく笑いかけながら耳元で囁く叶夜に、蘭の胸の鼓動は速くなっていた。
そんな空気の中、華小路は【青薔薇】男妓としての役目について話し始めた。
「私はね、お前がここに来て男妓として客を取る日が来るのを心待ちにしていた反面、……寂しくもあるんだよ」
「寂しい?」
「そう。……親離れしていくような、そんな寂しさかな」
ふと笑みを零す華小路の表情から寂しさは伺えるが、それよりも穏やかな表情をしていた。
「お前は、菊から何か聞いているか?」
「特に何も聞いていないよ」
「……そう。話してない……か」
――菊は敢えて言わなかったのかもしれないね。あの子なりの優しさなのか……。それとも……。
華小路は大きく深呼吸をし、伝えるべきことを伝えるために話し始めた。
「私からお前にいくつか伝えることがある。まず一つ目。今日来て下さるお客様には失礼がないように。そして二つ目。今日からお前には、これを首に着けてもらう」
華小路が差し出したのは、いつしか蘭が目にしたことのある、見覚えのある物だった。
「これって……」
――これと同じのを菊兄が着けてた……。……ん?つまりは俺もΩなのか!?
自身の性はβだと思い込んでいたため、蘭は内心焦っていた。
「お前には黙っておこうと思ったんだけど……そういう訳にはいかなくなったからね」
「俺……Ωなのか?」
「そうだよ」
「俺……ずっとβだと思ってたのに……今更Ωだなんて」
自身の生い立ちを思い出そうにも、蘭は思い出せないでいた。
【青薔薇】に来るまでの記憶はおろか、両親の顔さえ思い出せないでいた。ただ覚えているのは、雨に打たれながらここまで走ってきたことと、誰かに言われた『お前はβ』ということだけだった。
「いずれは話さないといけない、ってわかってたんだけど、あっという間にこの日が来てしまったんだ。こればかりは私の誤算……とでも言うしかないかな」
「……」
突然の事に驚きと戸惑いを隠せない蘭は、何も話せないでいた。
「お前にも心の準備が必要だとは思うから、この話はまた今度にしようか。……それよりも、この首輪について話していいかい?」
「……うん」
「お前も知っているとは思うけど、これはΩを守る役割も担っている。番でない者に首筋を嚙まれても意味はないんだけど、興味本位で噛みつい来る輩もいないとは言い切れない。だからこれを着けて欲しいんだ」
――そう言えば菊兄の肩に誰かの噛み痕があったな……。あれはつまり……興味本位で噛んだのか……。
「ただ厄介なのがね……。着けるのは簡単なんだけど、外すのが一筋縄ではいかないんだ」
「へ?」
「これには私の呪いをかけているんだ」
「……呪い」
「そう……。その解き方は、簡単なようで簡単じゃない」
「教えてくれるの?」
「う~ん……。今すぐには教えられない、かな。時が来れば教えてあげるよ」
華小路は表情を変えずに言った。
その表情から何を考えているのか蘭にはわからなかった。
――時が来れば……、か。
手渡された首輪を蘭が手に取ろうとすると、それは彼の手をするりとすり抜けた。そのままふわりと浮いたかと思うと、蘭の首元にするすると巻き付いたのだ。
「え、えぇっ!?」
「驚かしてしまったようだ……すまない」
「……いや……いいんだけど」
「苦しくないかい?」
蘭が首元に触れると、ぴったりと巻き付いた首輪の感触があった。
「苦しくない……けど、なんだか不思議な感じがする」
「まぁ、慣れるまでは違和感を感じるだろうね」
「……ふぅん」
「さて、私はそろそろ仕事に戻るね。下の子たちには、お前が今日初めて客を取ることは伝えてあるよ。もうじきお前の世話役になった麦が朝餉を持って来るはずだよ」
「俺の世話役、麦になったのか」
麦が【青薔薇】に来たのは今から五年前のこと――。
両親が俗に襲われ、行く当てがなく彷徨っていたところを華小路が見つけ保護した。来た当初は口数も少なく、下の子たちとも割が合わずどこか距離を取りがちだったが、最近では周りを見て行動ができるようにまでなっていた。
「蘭。……今夜はよろしゅうね」
「はい」
華小路は蘭に微笑みかけ、部屋を出て行った。
しばらくすると、華小路が言っていた通り麦が朝餉を運んで来た。
「蘭兄さん、今日から兄さんの世話役に仕りました麦です。よろしくお願いします」
「よろしく」
「朝餉をお持ちしました。終わられた頃にまた伺います」
「わかった」
一礼し、部屋を出て行く姿を見ていた蘭は、緊張している麦の姿に癒されていた。
――麦、世話役初めてなんだもんなぁ。めちゃくちゃ緊張してたし……。可愛い、なんて言ったらあいつ怒るかなぁ。
一人になった蘭は、麦のことを考えながら朝餉を済ませた。
❖❖❖
迎えた夜――。
見世の灯りが一斉に点き始め、華山一帯は艶やかな雰囲気が漂い始めた。
「ようこそお越しくださいました。今宵は我が見世の者をご指名いただき光栄です」
「あぁ」
「お部屋までのご案内は、この麦が致します」
「麦でふ。お部屋までご案内致しましゅ」
初めてのことで慣れない中、まさかの案内までするとは思っていなかった麦は、緊張のあまり言葉を噛んでしまった。そのことを恥ずかしく思ったのか、思わず麦は俯いてしまった。
「くくく……麦と言ったか。そんなに緊張しなくてもいいんだぞ。誰にだって間違うことはあるんだ。だから気にするな」
麦と目線を合わせるように屈んだ男は、彼の頭を撫でながら笑顔で答えた。
「はい!」
「お、いい返事だな」
麦の頭をわしゃわしゃと撫でる男の様子を見ていた華小路は、少し呆れながら男へ声をかけた。
「お気遣いいただき、ありがとうございます」
「おぅ」
「麦、お客様のご案内を」
「はい!どうぞこちらに」
麦に連れられて男は部屋へと向かった。
その後ろ姿を見ていた華小路は、そのまま蘭のいる部屋を見上げた。
トントントン――。
柱を叩く音が聞こえた後、緊張した様子の麦の声が聞こえて来た。
「お客様をお連れしました」
蘭は大きく深呼吸をし、意を決したように声を出した。
「どうぞ」
襖が開くのと同時に、蘭は頭を下げ客人を招き入れた。
「今宵はお越しいただき、ありがとうございます」
「その着物、よく似合っているな」
――ん?どこかで聞いたような……。いやいや……、俺の聞き間違いだ……。多分……。
蘭は目の前にいる人物を確認しようと、恐る恐る顔を上げた。
「なっ!?」
蘭の目の前には見覚えのある男の顔があった。
「よぉ、久しいな」
「……なんでコイツが」
「おい、聞こえてるぞ」
「……」
「そんなに睨んでも仕方ねぇぞ」
そう言いながら男は、蘭の目の前で胡坐をかいて座った。
「こうして面と向かって話すのは……あの時以来だな」
――コイツが言うあの時って、俺が発情してた時……。人が忘れようとしていた事を!……だめだ、落ち着くんだ俺。感情的になってはいけない、と陽兄に言われただろ……。
「あの時は大変お世話になりました」
「……なんだ、もっと怒るかと思ったんだが。反応がつまらん」
「ぐっ……」
「そうそう、そうやって威嚇する姿の方が似合ってるし、その方が俺は好きだぞ」
「あんたっ……、ゴホン……。失礼しました。貴方様のお名前を伺っても」
また感情的になりそうになった蘭は、慌てて落ち着きを取り戻すように身を引き締めた。
「そう言えば名乗っていなかったな。私の名は月影叶夜だ。俺の前では畏まる必要はない。お前らしく振舞ってくれ」
「……月影様」
「はぁ……まぁいいや。そのうち慣れてくれるだろうよ。んで、お前の名は?」
「蘭」
「それは知っている。本当の名だ」
「はっ?」
「蘭、という名はここでの名だろ。お前の真の名を聞いている」
「そんなこと教える訳ねぇじゃん!」
叶夜の言う通り、遊郭で働く際には楼主により名を与えられる。その名は、自身の名を元にしている場合もあれば、全く違う名を与えられることもあるとか――。
真の名を名乗ることは固く禁じられているが、心を許した者には名乗っても良い、という暗黙の決まりがあるのもまた事実――。
「……そうか。まぁ気が変わったら教えてくれ」
そう言うと、叶夜は立ち上がり蘭の目と鼻の先まで近づいて来た。
「……っ!」
「蘭、今夜は俺がたっぷりと可愛がってやる」
悪戯っぽく笑いかけながら耳元で囁く叶夜に、蘭の胸の鼓動は速くなっていた。
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