上 下
15 / 47
3章 決闘

イカサマ対イカサマ

しおりを挟む
「簡単にルールを説明します。三つのサイコロを投げ、蓋をし……サイコロの合計数字を予想するゲームです。合計数次が③から⑩までなら小、⑪から⑱までなら大。また、サイコロの出目を予想することもできます。サイコロ一つの出目を当てるより、サイコロ三つの出目を当てる方が高配当になります。ただ出目予想が一つでも外れるとペナルティとしてチップ十枚頂きます」
 
 オペラ座の怪人みたいなアイマスクをしたディーラーは、説明を終えるとジャンヌと男爵の前にチップ十枚を置いた。

 「このチップを元手に、先に五百枚増やした方が勝ちよォ。それと当然先にチップ無く
しても負けねェ」

 それに頷くジャンヌ。

 「それでは」

 ディーラーが三つのサイコロを柄のついた金カップに放り投げ、頭上で数回回した後、テーブルに被せる形で金カップを置いた。

 「予想を……どうぞ」
 「ブフォ! 小に五枚」

 指で顎を撫でながらジャンヌが次の予想を口にした。

 「小に五枚」
 「ブフォ!! フォフォ!」

 男爵がいかにも小バカにした様子で笑う。

 「説明するよォ! お互い同じ予想するとねェ、具体的な予想数字を紙に書いて同時に出すのよォ。でェ、実際の数字に近い方が、勝ちィ!」

 男爵が置いた紙には九、ジャンヌが置いた紙には十の数字。
 カップが持ち上がったテーブルには⑥、②、②のサイコロ三つ。

 「⑩! 五枚のチップを賭けたレディに十枚のチップを差し上げます」

 ディーラーの手によって十枚のチップがジャンヌの前に置かれる。

 「ブフォ、運がいいねェ」
 (くそがァ……なに⑩なんか予想してやがんだよォ)

 男爵がタバコに火をつけた。

 「さァて、次はどォするかねェ」

 俺は男爵の思考を読み、ジャンヌに向けこう言った。

 「ディーラーにサイコロ二つ、同じ出目を出させる合図だ」
 「ブフォフォフォフォ」

 タバコを吐き出す男爵。
 「数字は④、早速イカサマを使い出したな。付き合ってらんねー、早く決めようぜジャンヌ」

 ディーラーが頭上で振ったカップをテーブルに置く。

 (ブフォフォ……、あのディーラーは二つのサイコロの目を自在に出せるのよねェ。つまりィ、私の指示次第で二つの同じ出目のサイコロ出せちゃうのよォ。私ったらイケないよねェ、ズルよねェ、ブフォフォフォ!!)

 「予想を……どうぞ」
 「サイコロ二つの出目予想でェ、④の目が二つゥ!! にチップ五枚」

 ニヤけたカバ口を開け、テンション高く叫ぶ男爵。

 (ブフォー!! 三十の倍率でチップ百五十枚ゲットォォォ)

 それとは対照的に、退屈そうに顎をぽりぽり掻きながらジャンヌが言う。

 「全てのチップ、十五枚を賭ける、サイコロ三つの出目予想で」

 ニヤけたカバ口を開けたまま男爵が硬直した。

 (ブフォ? 三つの出目予想だと?! あ、当たれば五十の倍率で七百五十枚! で、でも外れたら左手の指全部取られるのよォ?! こ、こいつ頭おかしいんじゃ……)

 “もう勝負は決まったな”

 俺は男爵の頭から指を抜いた。

 「出目予想は④、④、①だ。早くしろ、こちとら用事がある」

 ジャンヌの言葉に、固まっていたディーラーがカップを持ち上げた。

 三つのサイコロの出目は④、④、①。

 おずおずと男爵に目をやるディーラー、それにも気付かずポカンとしている男爵。
 退屈な授業が終わったかのようにアクビをしながらジャンヌは言った。

 「ふぁーあ! ということで、パスカードを渡していただこうか。カバガエル」
 「…サ……イ……カ……」

 全身のぜい肉を震わせ男爵が何やらぶつぶつ言っている。
 そして次の瞬間、叫びだした。

 「イカサマよォォォ! 初心者言ってて出目全部当てるなんて出来るわけないじゃないー! イカサマ、イカサマ、イカサマー!!」

 怒り心頭の男爵はテーブルを叩きながらホールに響き渡る声でイカサマを連呼した。
 ホール中の客が奇異な視線を投げかける。
 俺は両手を上に向け、ため息をついた。

 「イカサマ……ゼー!……イカサマ……ゼー!」

 ひとしきり喚き、疲れ果てたのか荒い息の男爵。

 「終わったか、ならさっさとパスカードをよこせ」

 組んだ両腕をテーブルに置いたジャンヌが面倒くさそうに言い放つ。

 「…………」

 口元から涎をポタポタ垂らしながら男爵が物凄い目つきでジャンヌを睨む。

 “こりゃヤベーな”

 俺は再び男爵のデカ頭に指を突っ込んだ。

 「テメーはイカサマをしたァ、イカサマをした奴にはキッチリお仕置きをしなきゃねェ、ブフォフォー! だと」

 男爵の思考を読み上げると、ジャンヌは不敵な笑みを浮かべ自らのこめかみに指を当て
る。

 (三人は事態を察してるか?)
 「ん、合図を待ってるぜ」

 切れ長の目を俺に向けるジャンヌ。上出来だ、とその目は言っていた。

 パチン!

 指を鳴らすジャンヌ。
 「パスカードはねェ、馬車にあるのよォ。はら、そこにいる黒服の部下たちが案内してあげるからさっさと行きなさいな、もう!」

 気味の悪い猫撫で声の男爵。

 「黒服? 何のことだ?」

 ポカンとした表情で男爵がテーブルの脇に目をやった。
 それと同時に、黒いタキシード姿の男四人が音もなく床に崩れ落ちる。
 倒れた男達の後ろにはジョン、エリック、アナベルの三人が立っていた。 

 「ブッ!……ブフッ!……あ、あんた何者ォ!?」 


 つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。 「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」 王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。 背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。 受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ! そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた! すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!? ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。 ※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。 ※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...