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3章 決闘
イカサマ対イカサマ
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「簡単にルールを説明します。三つのサイコロを投げ、蓋をし……サイコロの合計数字を予想するゲームです。合計数次が③から⑩までなら小、⑪から⑱までなら大。また、サイコロの出目を予想することもできます。サイコロ一つの出目を当てるより、サイコロ三つの出目を当てる方が高配当になります。ただ出目予想が一つでも外れるとペナルティとしてチップ十枚頂きます」
オペラ座の怪人みたいなアイマスクをしたディーラーは、説明を終えるとジャンヌと男爵の前にチップ十枚を置いた。
「このチップを元手に、先に五百枚増やした方が勝ちよォ。それと当然先にチップ無く
しても負けねェ」
それに頷くジャンヌ。
「それでは」
ディーラーが三つのサイコロを柄のついた金カップに放り投げ、頭上で数回回した後、テーブルに被せる形で金カップを置いた。
「予想を……どうぞ」
「ブフォ! 小に五枚」
指で顎を撫でながらジャンヌが次の予想を口にした。
「小に五枚」
「ブフォ!! フォフォ!」
男爵がいかにも小バカにした様子で笑う。
「説明するよォ! お互い同じ予想するとねェ、具体的な予想数字を紙に書いて同時に出すのよォ。でェ、実際の数字に近い方が、勝ちィ!」
男爵が置いた紙には九、ジャンヌが置いた紙には十の数字。
カップが持ち上がったテーブルには⑥、②、②のサイコロ三つ。
「⑩! 五枚のチップを賭けたレディに十枚のチップを差し上げます」
ディーラーの手によって十枚のチップがジャンヌの前に置かれる。
「ブフォ、運がいいねェ」
(くそがァ……なに⑩なんか予想してやがんだよォ)
男爵がタバコに火をつけた。
「さァて、次はどォするかねェ」
俺は男爵の思考を読み、ジャンヌに向けこう言った。
「ディーラーにサイコロ二つ、同じ出目を出させる合図だ」
「ブフォフォフォフォ」
タバコを吐き出す男爵。
「数字は④、早速イカサマを使い出したな。付き合ってらんねー、早く決めようぜジャンヌ」
ディーラーが頭上で振ったカップをテーブルに置く。
(ブフォフォ……、あのディーラーは二つのサイコロの目を自在に出せるのよねェ。つまりィ、私の指示次第で二つの同じ出目のサイコロ出せちゃうのよォ。私ったらイケないよねェ、ズルよねェ、ブフォフォフォ!!)
「予想を……どうぞ」
「サイコロ二つの出目予想でェ、④の目が二つゥ!! にチップ五枚」
ニヤけたカバ口を開け、テンション高く叫ぶ男爵。
(ブフォー!! 三十の倍率でチップ百五十枚ゲットォォォ)
それとは対照的に、退屈そうに顎をぽりぽり掻きながらジャンヌが言う。
「全てのチップ、十五枚を賭ける、サイコロ三つの出目予想で」
ニヤけたカバ口を開けたまま男爵が硬直した。
(ブフォ? 三つの出目予想だと?! あ、当たれば五十の倍率で七百五十枚! で、でも外れたら左手の指全部取られるのよォ?! こ、こいつ頭おかしいんじゃ……)
“もう勝負は決まったな”
俺は男爵の頭から指を抜いた。
「出目予想は④、④、①だ。早くしろ、こちとら用事がある」
ジャンヌの言葉に、固まっていたディーラーがカップを持ち上げた。
三つのサイコロの出目は④、④、①。
おずおずと男爵に目をやるディーラー、それにも気付かずポカンとしている男爵。
退屈な授業が終わったかのようにアクビをしながらジャンヌは言った。
「ふぁーあ! ということで、パスカードを渡していただこうか。カバガエル」
「…サ……イ……カ……」
全身のぜい肉を震わせ男爵が何やらぶつぶつ言っている。
そして次の瞬間、叫びだした。
「イカサマよォォォ! 初心者言ってて出目全部当てるなんて出来るわけないじゃないー! イカサマ、イカサマ、イカサマー!!」
怒り心頭の男爵はテーブルを叩きながらホールに響き渡る声でイカサマを連呼した。
ホール中の客が奇異な視線を投げかける。
俺は両手を上に向け、ため息をついた。
「イカサマ……ゼー!……イカサマ……ゼー!」
ひとしきり喚き、疲れ果てたのか荒い息の男爵。
「終わったか、ならさっさとパスカードをよこせ」
組んだ両腕をテーブルに置いたジャンヌが面倒くさそうに言い放つ。
「…………」
口元から涎をポタポタ垂らしながら男爵が物凄い目つきでジャンヌを睨む。
“こりゃヤベーな”
俺は再び男爵のデカ頭に指を突っ込んだ。
「テメーはイカサマをしたァ、イカサマをした奴にはキッチリお仕置きをしなきゃねェ、ブフォフォー! だと」
男爵の思考を読み上げると、ジャンヌは不敵な笑みを浮かべ自らのこめかみに指を当て
る。
(三人は事態を察してるか?)
「ん、合図を待ってるぜ」
切れ長の目を俺に向けるジャンヌ。上出来だ、とその目は言っていた。
パチン!
指を鳴らすジャンヌ。
「パスカードはねェ、馬車にあるのよォ。はら、そこにいる黒服の部下たちが案内してあげるからさっさと行きなさいな、もう!」
気味の悪い猫撫で声の男爵。
「黒服? 何のことだ?」
ポカンとした表情で男爵がテーブルの脇に目をやった。
それと同時に、黒いタキシード姿の男四人が音もなく床に崩れ落ちる。
倒れた男達の後ろにはジョン、エリック、アナベルの三人が立っていた。
「ブッ!……ブフッ!……あ、あんた何者ォ!?」
つづく
オペラ座の怪人みたいなアイマスクをしたディーラーは、説明を終えるとジャンヌと男爵の前にチップ十枚を置いた。
「このチップを元手に、先に五百枚増やした方が勝ちよォ。それと当然先にチップ無く
しても負けねェ」
それに頷くジャンヌ。
「それでは」
ディーラーが三つのサイコロを柄のついた金カップに放り投げ、頭上で数回回した後、テーブルに被せる形で金カップを置いた。
「予想を……どうぞ」
「ブフォ! 小に五枚」
指で顎を撫でながらジャンヌが次の予想を口にした。
「小に五枚」
「ブフォ!! フォフォ!」
男爵がいかにも小バカにした様子で笑う。
「説明するよォ! お互い同じ予想するとねェ、具体的な予想数字を紙に書いて同時に出すのよォ。でェ、実際の数字に近い方が、勝ちィ!」
男爵が置いた紙には九、ジャンヌが置いた紙には十の数字。
カップが持ち上がったテーブルには⑥、②、②のサイコロ三つ。
「⑩! 五枚のチップを賭けたレディに十枚のチップを差し上げます」
ディーラーの手によって十枚のチップがジャンヌの前に置かれる。
「ブフォ、運がいいねェ」
(くそがァ……なに⑩なんか予想してやがんだよォ)
男爵がタバコに火をつけた。
「さァて、次はどォするかねェ」
俺は男爵の思考を読み、ジャンヌに向けこう言った。
「ディーラーにサイコロ二つ、同じ出目を出させる合図だ」
「ブフォフォフォフォ」
タバコを吐き出す男爵。
「数字は④、早速イカサマを使い出したな。付き合ってらんねー、早く決めようぜジャンヌ」
ディーラーが頭上で振ったカップをテーブルに置く。
(ブフォフォ……、あのディーラーは二つのサイコロの目を自在に出せるのよねェ。つまりィ、私の指示次第で二つの同じ出目のサイコロ出せちゃうのよォ。私ったらイケないよねェ、ズルよねェ、ブフォフォフォ!!)
「予想を……どうぞ」
「サイコロ二つの出目予想でェ、④の目が二つゥ!! にチップ五枚」
ニヤけたカバ口を開け、テンション高く叫ぶ男爵。
(ブフォー!! 三十の倍率でチップ百五十枚ゲットォォォ)
それとは対照的に、退屈そうに顎をぽりぽり掻きながらジャンヌが言う。
「全てのチップ、十五枚を賭ける、サイコロ三つの出目予想で」
ニヤけたカバ口を開けたまま男爵が硬直した。
(ブフォ? 三つの出目予想だと?! あ、当たれば五十の倍率で七百五十枚! で、でも外れたら左手の指全部取られるのよォ?! こ、こいつ頭おかしいんじゃ……)
“もう勝負は決まったな”
俺は男爵の頭から指を抜いた。
「出目予想は④、④、①だ。早くしろ、こちとら用事がある」
ジャンヌの言葉に、固まっていたディーラーがカップを持ち上げた。
三つのサイコロの出目は④、④、①。
おずおずと男爵に目をやるディーラー、それにも気付かずポカンとしている男爵。
退屈な授業が終わったかのようにアクビをしながらジャンヌは言った。
「ふぁーあ! ということで、パスカードを渡していただこうか。カバガエル」
「…サ……イ……カ……」
全身のぜい肉を震わせ男爵が何やらぶつぶつ言っている。
そして次の瞬間、叫びだした。
「イカサマよォォォ! 初心者言ってて出目全部当てるなんて出来るわけないじゃないー! イカサマ、イカサマ、イカサマー!!」
怒り心頭の男爵はテーブルを叩きながらホールに響き渡る声でイカサマを連呼した。
ホール中の客が奇異な視線を投げかける。
俺は両手を上に向け、ため息をついた。
「イカサマ……ゼー!……イカサマ……ゼー!」
ひとしきり喚き、疲れ果てたのか荒い息の男爵。
「終わったか、ならさっさとパスカードをよこせ」
組んだ両腕をテーブルに置いたジャンヌが面倒くさそうに言い放つ。
「…………」
口元から涎をポタポタ垂らしながら男爵が物凄い目つきでジャンヌを睨む。
“こりゃヤベーな”
俺は再び男爵のデカ頭に指を突っ込んだ。
「テメーはイカサマをしたァ、イカサマをした奴にはキッチリお仕置きをしなきゃねェ、ブフォフォー! だと」
男爵の思考を読み上げると、ジャンヌは不敵な笑みを浮かべ自らのこめかみに指を当て
る。
(三人は事態を察してるか?)
「ん、合図を待ってるぜ」
切れ長の目を俺に向けるジャンヌ。上出来だ、とその目は言っていた。
パチン!
指を鳴らすジャンヌ。
「パスカードはねェ、馬車にあるのよォ。はら、そこにいる黒服の部下たちが案内してあげるからさっさと行きなさいな、もう!」
気味の悪い猫撫で声の男爵。
「黒服? 何のことだ?」
ポカンとした表情で男爵がテーブルの脇に目をやった。
それと同時に、黒いタキシード姿の男四人が音もなく床に崩れ落ちる。
倒れた男達の後ろにはジョン、エリック、アナベルの三人が立っていた。
「ブッ!……ブフッ!……あ、あんた何者ォ!?」
つづく
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