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2章 同盟
引き返せない部下
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上空から見下ろすだだっ広い草原、そこに並ぶ一帖程の広さの鉄板、その上に置かれた鉄の太い柱、そして柱の上に物干し竿みたいな馬鹿でかい矢が何本もセットされた弩弓が載っていた。
“重強弩か、冗談で言ってるのかと思ったが本当に作っちまうとはな”
一基の重強弩が矢を発射するのが見えた。十数本の矢は山なりの軌道を描き、二百メートル程離れた木製の標的に次々と突き刺さる。
“銃が無いこの世界、これが量産化されたら結構な脅威になるだろうな”
そう思いつつジョディの座る重強弩のところへ移動する。
強弩を支える柱の横の椅子に座ったまま、ジョディはメガホンみたいなスコープを覗き込んでいた。
「八十パーセント命中。目標をBー2に切り替える」
柱から伸びるシャフトを両手で回すジョディ。巨大な重強弩はガキガキと耳障りな音を上げ向きを変え始めた。
俺はジョディの後頭部に手を当てた。
『姉貴……、今度だけ、これで終わりにするから金を貸してくれよ』
『いつもすまないねジョディ、この工場が潰れないのもお前のおかげだよ』
『もっと勉強する! お姉ちゃんのおかげだよ、ありがとう』
『今度の演習中に……事故を装って……わかるな? 成功したあかつきには残りの報酬を渡す』
これだ、こんな状況になっているジョディにお前は何ぬるいこと言ってんだ? ジャンヌ。
ガキンという音共にシャフトを止めるジョディ、そしてこんな声が聞こえた。
(謗りを受けようが、私はもう……引き返せないのだ)
兵達が重強弩に弓をセットし終わった。
「これを発射後、試作用の弓も試す。持って来い」
「はっ!」
弓をセットした兵達が走り出す。
「予備の手袋も持って来い」
「はっ!」
残ってた一人の兵も走り出した。
大きな溜息を吐き、ジョディは再びシャフトを回し始めた。
重強弩は更に大きく向きを変え、ガキンと止まる。そしてシャフトの隣にある小さなハンドルを回すと今度は重強弩の角度が変わり始めた。
スコープを覗きながらジョディはハンドルを回す手を止める。
ジョディの後頭部に指を突っ込んだまま俺は目を閉じた。
覗き込んだスコープの映像が見える。ジョディが調整リングを回したのだろう、更に拡大された映像になる。ジャンヌがボウガン片手に周囲の兵へ何か喋っている。あの表情からして叱っているのだろう。
「ジャンヌ、ジョディが今お前を狙っているぞ」
俺は独り言のように声を出した。
不思議な事だが、どれだけ離れていても俺の声はジャンヌの耳に届くのだ。
逆に俺の耳は、遠くのジャンヌの声を聞く事が出来ない。
俺の声が聞こえたらしく、ジャンヌの顔色が変わった。そして――――
こちらに顔を向けた。ジョディが配置された方向がわかるとはいえ、それはあまりにもドンピシャな目線だった。それも、悲しいような悔しいような、何とも言えない表情でだ。
ジョディも驚いたのであろう、呻くような声を上げる。
“撃つのを止めるか!?”
そんな俺の期待も空しく、トリガーを踏む音が聞こえた。
重強弩から太く、鈍い、大きな音が響く。
そして張り詰めたケーブルが切れるようなビシンッ! という音が続く。
セットされた十数本の弓が真上に飛び上がり、重強弩が真ん中から破裂した。
とっさに俺は上へ飛んだ。
見下ろすと重強弩はくの字になっており、折れ曲がった先からワイヤーや黒い鉄棒が飛び出している。
そしてジョディ、彼女はその側に仰向けで倒れていた。
吹き飛んだシャフトや歯車、粉々になった木材の破片が全身に突き刺さった状態で。
俺はそれから目を背けると、逃げるようにその場から飛び去った。
つづく
“重強弩か、冗談で言ってるのかと思ったが本当に作っちまうとはな”
一基の重強弩が矢を発射するのが見えた。十数本の矢は山なりの軌道を描き、二百メートル程離れた木製の標的に次々と突き刺さる。
“銃が無いこの世界、これが量産化されたら結構な脅威になるだろうな”
そう思いつつジョディの座る重強弩のところへ移動する。
強弩を支える柱の横の椅子に座ったまま、ジョディはメガホンみたいなスコープを覗き込んでいた。
「八十パーセント命中。目標をBー2に切り替える」
柱から伸びるシャフトを両手で回すジョディ。巨大な重強弩はガキガキと耳障りな音を上げ向きを変え始めた。
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これだ、こんな状況になっているジョディにお前は何ぬるいこと言ってんだ? ジャンヌ。
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兵達が重強弩に弓をセットし終わった。
「これを発射後、試作用の弓も試す。持って来い」
「はっ!」
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「予備の手袋も持って来い」
「はっ!」
残ってた一人の兵も走り出した。
大きな溜息を吐き、ジョディは再びシャフトを回し始めた。
重強弩は更に大きく向きを変え、ガキンと止まる。そしてシャフトの隣にある小さなハンドルを回すと今度は重強弩の角度が変わり始めた。
スコープを覗きながらジョディはハンドルを回す手を止める。
ジョディの後頭部に指を突っ込んだまま俺は目を閉じた。
覗き込んだスコープの映像が見える。ジョディが調整リングを回したのだろう、更に拡大された映像になる。ジャンヌがボウガン片手に周囲の兵へ何か喋っている。あの表情からして叱っているのだろう。
「ジャンヌ、ジョディが今お前を狙っているぞ」
俺は独り言のように声を出した。
不思議な事だが、どれだけ離れていても俺の声はジャンヌの耳に届くのだ。
逆に俺の耳は、遠くのジャンヌの声を聞く事が出来ない。
俺の声が聞こえたらしく、ジャンヌの顔色が変わった。そして――――
こちらに顔を向けた。ジョディが配置された方向がわかるとはいえ、それはあまりにもドンピシャな目線だった。それも、悲しいような悔しいような、何とも言えない表情でだ。
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“撃つのを止めるか!?”
そんな俺の期待も空しく、トリガーを踏む音が聞こえた。
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そして張り詰めたケーブルが切れるようなビシンッ! という音が続く。
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とっさに俺は上へ飛んだ。
見下ろすと重強弩はくの字になっており、折れ曲がった先からワイヤーや黒い鉄棒が飛び出している。
そしてジョディ、彼女はその側に仰向けで倒れていた。
吹き飛んだシャフトや歯車、粉々になった木材の破片が全身に突き刺さった状態で。
俺はそれから目を背けると、逃げるようにその場から飛び去った。
つづく
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