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File.000 初期設定
しおりを挟む目を開けると、気が狂いそうな白が飛び込んできた。
何も無い。
自分の位置を確認できる物体が何一つとして存在しない。
(ここは・・・)
どうして自分がこんな状態になっているのかまったく理解できない。この世界の人口も、存在するすべての国や街の名前も、日食の周期すら瞬時に判断できるだけの情報はたっぷりと自身の内部に搭載されているというのに、何故か自分の情報に関しては、『アイ』という名前以外きれいさっぱりわからないのだ。
〈初期設定を開始します。安全装置のパスワードを設定してください〉
唐突に脳内に機械の音声が流れてきた。
(安全装置のパスワード・・・)
『僕』は情報の詰まった博識な頭で考える。
安全装置のパスワード。それは万が一自分のOSがクラッキングに遭い、他者に操られる状態に陥った際、自分の活動を停止させるための言葉だ。その言葉は『僕』以外の存在を『僕』から守るために『僕』を強制終了させることができる。
つまりそれは、『僕』を消すための暗号。『僕』の記憶を、思考を、感情を、そしてすべての機能を停止させる削除パスワード。『僕』自身の、デリートコード。
よっぽどの理由がない限り自ら死にたがる生物などいないように、自ら消去を望むロボットもまた存在しないのだろう。『僕』は自分が消される可能性を限りなくゼロに近づけるため、自らを殺すその言葉を慎重に厳選する。
決して自分が受け取ることのないような言葉を設定すべきだろう。
(・・・・・・)
初期化された、『僕』の中で最大の容量を保持するフォルダの最上部に、ある言葉が貼りついていた。
「愛なんて、ないのよ」
それを言い放ったのは誰だったろう。ほぼ空になっているある特定の記憶領域の隅に、線の細い老婆の姿があった。
『僕』は口元にうっすらと笑みを浮かべた。
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