230 / 238
変調②
しおりを挟む「……なちゃん。……ひなちゃん」
ん……?
わたしを呼ぶ声と肩をぽんぽんと叩かれる感覚に、目を開けると藤堂先生が。
ひな「藤堂……先生……?」
藤堂「ひなちゃん、病院行こうか」
ひな「ぇっ……?」
藤堂「ちょっとごめんね、掴まっててよ?」
そう言って、藤堂先生はわたしの身体を起こしながら、わたしの腕を自分の首にかけさせて、お姫様抱っこしようとする。
え……?
……あ、そうか。
わたし、実習サボって家にいるんだった。
寝ぼけてたけど、少しずつ状況を把握してきて、
ひな「ぁ……ぃやっ……待っ、……い"……っ」
お姫様抱っこを拒もうとすると、身体に痛みが走った。
藤堂「ひなちゃん、じっとしてて」
ひな「あの……病院、違うんです……。病院は行かなくていいです」
藤堂「うん、わかっ……たとは言ってあげられないけど、とりあえずソファーに行こう。ね?ずっと床で寝てたから身体が痛いんだよ」
そういえば、キッチンの床に座り込んだまま寝ちゃったんだった。
そりゃ、身体も痛くなるか。
うん、藤堂先生の言うとおりだ。
と、ここは妙に納得して、ひとまず藤堂先生に身を預けソファーに運んでもらう。
すると、そろそろ目が覚めて頭も冴えてきたのか、
あれ?でもどうして藤堂先生がうちに……。
と、不思議に思い、
ひな「藤堂先生、どうしてここに……?」
藤堂「神崎先生から聞いたよ。ひなちゃんから体調不良でお休みの連絡があったって。それで様子を見に来たの」
あぁ、そういうことか。
主治医だもん、そうなるよね。
……って、いやいや、待って違う。
わたし玄関の鍵閉め忘れてたかな?
だとしても、鍵無しにエレベーターでこの階に来ることは出来ないはずだけど……
ひな「あの、鍵は……」
藤堂「鍵?……あぁ、あれ?? そうか。ひなちゃん知らなかったかな。鍵は合鍵があるよ。ひなちゃんがここに住むより前に、悠仁からもらってたんだよ。よくこの部屋に来させてもらってたから。ごめんね、急に来てびっくりさせちゃったね」
って、まさか藤堂先生がうちの合鍵を持っているなんて……。
藤堂「それはそうと、ひなちゃん病院行こう。ね?」
藤堂先生が手首を掴んで脈を取りながら、おでこにも手を乗せる。
ひな「熱はないんです。身体がすごくだるいだけで、熱はなくて咳もなくて……。ただ、どうしても身体が動かなくて、1日だけ休んでみようと思って……ごめんなさい……」
実習を休んでしまったこと。
改めてその事実を言葉にしたからか、ポロポロと涙が落ちてくる。
藤堂「うん、大丈夫大丈夫。ひなちゃん? しんどいときは休んでいいんだよ。ちゃんと欠席連絡もしてくれたし、休む判断ができてえらかったんだよ。大丈夫大丈夫」
そう言って、藤堂先生は頭を撫でながら、涙が溢れる頬を拭ってくれた。
そして、少し落ち着いてから、
藤堂「熱はなくても、病院に行ってちゃんと診てみるよ。床で寝てしまうくらいしんどいのは見過ごせないし、水分も取れてないなら点滴一本はどの道しておかないと。検査して何もなければ、また帰って来ればいいんだから。ね?」
と、結局病院へ連れ出されてしまった……。
***
藤堂「ひなちゃん、チクッとするよ~」
外来の処置室のベッドの上。
藤堂先生は今日、朝から外来に入っていたらしく、それが終わってお昼休みの間に、わざわざわたしの家に来てくれたよう。
今はもう14時過ぎ。
午後の外来は予約患者だけなので、人はまばらにしかおらず、空いている処置室で採血される。
藤堂「もう終わるからね……よし、針抜くよ。今平気? 気分悪くない?」
ひな「大丈夫です」
藤堂「うん。次、反対の腕から点滴入れるね。ごめんね、もう1回チクッとするよ」
処置室には藤堂先生と2人きり。
採血も点滴も、藤堂先生が自らしてくれる。
藤堂「ひなちゃん、点滴終わるまで眠ってていいからね。点滴の間に血液検査しておくから、点滴終わったら一緒に確認しよう」
さっきまで床で寝ていたせいか、病院のベッドが心地良く感じて。
藤堂先生が血液を検査に出しに部屋を出ると、わたしはすぐ眠りについた。
***
~医局~
藤堂「宇髄先生、これ見てもらっていいですか?」
そう言って、藤堂は血液検査の結果を宇髄に渡す。
宇髄「ん、ひなちゃんのか?」
藤堂「はい」
資料を受け取った宇髄は、上から下にサッと目を通して眉を顰めた。
藤堂「本人は身体の怠さを訴えるだけですが、かなりまずいなと……」
宇髄「いつ熱出てもおかしくないぞ。いつからこんな状態で過ごしてたんだ……。それにこの数値……」
藤堂「宇髄先生。一度、ひなちゃん診ていただけますか?」
宇髄「あぁ。ただこれからオペで……早くて19時になるんだが、今ひなちゃんは?」
藤堂「外来で点滴入れて休ませてます」
宇髄「待たせられるか?」
藤堂「はい。この後ひなちゃんと話をするので、なんとかしておきます」
宇髄「ん。でも無理はせんでいいぞ。厳しそうなら、落ち着いてからにしよう。今日はメンタル優先させた方がいい。とりあえず、オペが終わり次第連絡する」
藤堂「わかりました。よろしくお願いします」
***
~診察室~
藤堂「ひなちゃん、お話いい?」
点滴が終わり、外来の診察室へ移動して、藤堂先生と向かい合う。
藤堂「まず、結論から言うね。実習はドクターストップで停止にします。少し入院して、治療に専念してほしい」
ひな「えっ……」
ドクターストップというひと言が、ズドーンと雷に打たれたように、わたしの身体を突き抜ける。
ひな「なんで……」
藤堂「はっきり言うと、どの数値も正直かなり悪かった。ひどい貧血状態になってるし、免疫力も落ちてる。このまま放っておくと、危険だと判断したよ」
結果が悪かったんだろうということは、藤堂先生が話す前からなんとなく。
でも、まさかドクターストップがかかるとは思わなかった。
ひな「なんとか、なりませんか……? 毎日診察にも、治療にも通いますから。いつも通り注射して、薬も飲むので、クリクラ続けられませんか?」
藤堂「気持ちはわかる。できることなら、先生もそうしてあげたい。だから、この前は診察だけの判断で、実習を止めなかったでしょ?でも、今回はそうさせてあげられない。身体が怠い程度で済んでるのが、信じられない状態なの」
ひな「でも、本当に怠さ以外は何もなくて、貧血がひどいくらいなら、これまでもそうで……」
藤堂「さっきも言ったけど、いつもの貧血や喘息だけじゃないんだよ。ひなちゃん、生理はきちんと来てる……?」
ひな「えっ……?」
生理……
そういえば、クリクラに必死で意識してなかった。
わたし最後に生理きたの、いつだっけ……。
ひな「生理は、最後にあったのは…………すみません、しばらくなかったです……」
藤堂「そうだよね」
ひな「でも症状はなくて、それは本当にありません。お腹が張るとかどうとかはないです、本当に……」
藤堂「ひなちゃんを疑っているわけではないよ。ただ、検査結果が良くなかったの。それが数値として出ている以上、今なんともなくても対処しないといけない。わかるよね」
ひな「……わかります」
藤堂「だから、少し入院して、治療を受けてほしい」
ひな「……はい」
それからは、
ひな「入院の準備をしに、一度家に帰らせてください……」
と言ったら、
藤堂「うん、わかった。そしたら一緒に行くから、少し待っててくれる? ちょっと病棟の患者さんを診ないといけないから……30分だけ。ごめんね」
ひな「いえ、お忙しいのに申し訳ないです。大丈夫です、ひとりで帰ります」
藤堂「いいや。今の状態で野放しにはできないから。車で送るから、少し待ってて」
と、藤堂先生が車で送ってくれて、家の中までついてきて、また車で病院に戻ってきた。
病院に戻ってくる前、
藤堂「ひなちゃん、何か食べるものと水分も買っていこうか。今日は病院食が出ないから、何か食べたいものある?」
聞かれたけど、
ひな「お腹すいてません……」
そう返事をして、
藤堂「朝から何も食べてないでしょ。本当に食べられないなら、戻ってすぐにまた点滴するよ」
ひな「それでいいです……」
というやり取りをしたのだけれど。
病室に入って少しすると、
藤堂「ひなちゃん、お腹が空いてなくても、食べられるなら少しでも食べて。ごはんが食べづらかったら、甘いものでも構わないから」
って、わたしが好きなおにぎりに、ゼリーやプリン、アイスクリーム、お水とお茶も何本か買ってきてくれて、
藤堂「19時頃になると思うけど、宇髄先生に診察してもらうからね。それまでに少し食べて、休んでて」
ぽんぽん……
と、部屋を出て行った。
検査の結果を話す時、藤堂先生の物言いがいつもと違ってはっきりだった。
患者としてはもちろんだけど、半分は実習生として、話をしたんだと思う。
だから、わたしもどこかちゃんとしてなきゃと、それほど感情的にならなかった。
でも、今の藤堂先生は100パーセント、いつもの優しい主治医の先生。
おにぎり……。
せっかく買ってきてくれたのに、食べずにダメにするわけにはいかない。
パクッ……
ひとりになった病室で、そっとおにぎりにかぶりついた。
19
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

好きだった幼馴染に出会ったらイケメンドクターだった!?
すず。
恋愛
体調を崩してしまった私
社会人 26歳 佐藤鈴音(すずね)
診察室にいた医師は2つ年上の
幼馴染だった!?
診察室に居た医師(鈴音と幼馴染)
内科医 28歳 桐生慶太(けいた)
※お話に出てくるものは全て空想です
現実世界とは何も関係ないです
※治療法、病気知識ほぼなく書かせて頂きます

大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪


だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
春
ma.chaaaa
恋愛
病弱な女の子美雪の日常のお話です。
ーーーーー
生まれつき病弱体質であり、病院が苦手な主人公 月城美雪(ツキシロ ミユキ) 中学2年生の13歳。喘息と心臓病を患ってい、病院にはかなりお世話になっているが病院はとても苦手。
美雪の双子の兄 月城葵 (ツキシロアオイ)
月城家の長男。クールでいつでも冷静沈着。とてもしっかりしてい、ダメなことはダメと厳しくよく美雪とバトっている。優秀な小児外科医兼小児救急医であるためとても多忙であり、家にいることが少ない。
双子の弟 月城宏(ツキシロヒロ)
月城家の次男。葵同様に医師免許は持っているが、医師は辞めて教員になった。美雪が通う中高一貫の数学の教師である。とても優しく、フレンドリーであり、美雪にとても甘いためお願いは体調に関すること以外はなんでも聞く。お母さんのような。
双子は2人とも勉強面でもとても優秀、スポーツ万能、イケメンのスタイル抜群なので狙っている人もとても多い。
父は医療機器メーカー月城グループの代表兼社長であり、海外を飛び回っている。母は、ドイツの元モデルでありとても美人で美雪の憧れの人である。
四宮 遥斗(シノミヤ ハルト)
美雪の担当医。とても優しく子ども達に限らず、保護者、看護師からとても人気。美雪の兄達と同級生であり、小児外科医をしている。美雪にはとても手をやかされている…
橘 咲(タチバナ サキ)
美雪と同級生の女の子。美雪の親友。とても可愛く、スタイルが良いためとてもモテるが、少し気の強い女の子。双子の姉。
橘 透(タチバナ トオル)
美雪と同級生の男の子。咲の弟。美雪とは幼なじみ。美雪に対して密かに恋心を抱いている。サッカーがとても好きな不器用男子。こちらもかなりモテる
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる