ひなとDoctors 〜柱と呼ばれる医師たち〜

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「……なちゃん。……ひなちゃん」





ん……?





わたしを呼ぶ声と肩をぽんぽんと叩かれる感覚に、目を開けると藤堂先生が。





ひな「藤堂……先生……?」


藤堂「ひなちゃん、病院行こうか」


ひな「ぇっ……?」


藤堂「ちょっとごめんね、掴まっててよ?」





そう言って、藤堂先生はわたしの身体を起こしながら、わたしの腕を自分の首にかけさせて、お姫様抱っこしようとする。





え……?

……あ、そうか。

わたし、実習サボって家にいるんだった。





寝ぼけてたけど、少しずつ状況を把握してきて、





ひな「ぁ……ぃやっ……待っ、……い"……っ」





お姫様抱っこを拒もうとすると、身体に痛みが走った。





藤堂「ひなちゃん、じっとしてて」


ひな「あの……病院、違うんです……。病院は行かなくていいです」


藤堂「うん、わかっ……たとは言ってあげられないけど、とりあえずソファーに行こう。ね?ずっと床で寝てたから身体が痛いんだよ」





そういえば、キッチンの床に座り込んだまま寝ちゃったんだった。

そりゃ、身体も痛くなるか。

うん、藤堂先生の言うとおりだ。





と、ここは妙に納得して、ひとまず藤堂先生に身を預けソファーに運んでもらう。



すると、そろそろ目が覚めて頭も冴えてきたのか、

あれ?でもどうして藤堂先生がうちに……。

と、不思議に思い、





ひな「藤堂先生、どうしてここに……?」


藤堂「神崎先生から聞いたよ。ひなちゃんから体調不良でお休みの連絡があったって。それで様子を見に来たの」





あぁ、そういうことか。

主治医だもん、そうなるよね。



……って、いやいや、待って違う。

わたし玄関の鍵閉め忘れてたかな?

だとしても、鍵無しにエレベーターでこの階に来ることは出来ないはずだけど……





ひな「あの、鍵は……」


藤堂「鍵?……あぁ、あれ?? そうか。ひなちゃん知らなかったかな。鍵は合鍵があるよ。ひなちゃんがここに住むより前に、悠仁からもらってたんだよ。よくこの部屋に来させてもらってたから。ごめんね、急に来てびっくりさせちゃったね」





って、まさか藤堂先生がうちの合鍵を持っているなんて……。





藤堂「それはそうと、ひなちゃん病院行こう。ね?」





藤堂先生が手首を掴んで脈を取りながら、おでこにも手を乗せる。





ひな「熱はないんです。身体がすごくだるいだけで、熱はなくて咳もなくて……。ただ、どうしても身体が動かなくて、1日だけ休んでみようと思って……ごめんなさい……」





実習を休んでしまったこと。

改めてその事実を言葉にしたからか、ポロポロと涙が落ちてくる。





藤堂「うん、大丈夫大丈夫。ひなちゃん? しんどいときは休んでいいんだよ。ちゃんと欠席連絡もしてくれたし、休む判断ができてえらかったんだよ。大丈夫大丈夫」





そう言って、藤堂先生は頭を撫でながら、涙が溢れる頬を拭ってくれた。



そして、少し落ち着いてから、





藤堂「熱はなくても、病院に行ってちゃんと診てみるよ。床で寝てしまうくらいしんどいのは見過ごせないし、水分も取れてないなら点滴一本はどの道しておかないと。検査して何もなければ、また帰って来ればいいんだから。ね?」





と、結局病院へ連れ出されてしまった……。










***



藤堂「ひなちゃん、チクッとするよ~」





外来の処置室のベッドの上。

藤堂先生は今日、朝から外来に入っていたらしく、それが終わってお昼休みの間に、わざわざわたしの家に来てくれたよう。



今はもう14時過ぎ。

午後の外来は予約患者だけなので、人はまばらにしかおらず、空いている処置室で採血される。





藤堂「もう終わるからね……よし、針抜くよ。今平気? 気分悪くない?」


ひな「大丈夫です」


藤堂「うん。次、反対の腕から点滴入れるね。ごめんね、もう1回チクッとするよ」





処置室には藤堂先生と2人きり。

採血も点滴も、藤堂先生が自らしてくれる。





藤堂「ひなちゃん、点滴終わるまで眠ってていいからね。点滴の間に血液検査しておくから、点滴終わったら一緒に確認しよう」





さっきまで床で寝ていたせいか、病院のベッドが心地良く感じて。

藤堂先生が血液を検査に出しに部屋を出ると、わたしはすぐ眠りについた。










***



~医局~





藤堂「宇髄先生、これ見てもらっていいですか?」





そう言って、藤堂は血液検査の結果を宇髄に渡す。





宇髄「ん、ひなちゃんのか?」


藤堂「はい」





資料を受け取った宇髄は、上から下にサッと目を通して眉を顰めた。





藤堂「本人は身体の怠さを訴えるだけですが、かなりまずいなと……」


宇髄「いつ熱出てもおかしくないぞ。いつからこんな状態で過ごしてたんだ……。それにこの数値……」


藤堂「宇髄先生。一度、ひなちゃん診ていただけますか?」


宇髄「あぁ。ただこれからオペで……早くて19時になるんだが、今ひなちゃんは?」


藤堂「外来で点滴入れて休ませてます」


宇髄「待たせられるか?」


藤堂「はい。この後ひなちゃんと話をするので、なんとかしておきます」


宇髄「ん。でも無理はせんでいいぞ。厳しそうなら、落ち着いてからにしよう。今日はメンタル優先させた方がいい。とりあえず、オペが終わり次第連絡する」


藤堂「わかりました。よろしくお願いします」










***



~診察室~





藤堂「ひなちゃん、お話いい?」





点滴が終わり、外来の診察室へ移動して、藤堂先生と向かい合う。





藤堂「まず、結論から言うね。実習はドクターストップで停止にします。少し入院して、治療に専念してほしい」


ひな「えっ……」





ドクターストップというひと言が、ズドーンと雷に打たれたように、わたしの身体を突き抜ける。





ひな「なんで……」


藤堂「はっきり言うと、どの数値も正直かなり悪かった。ひどい貧血状態になってるし、免疫力も落ちてる。このまま放っておくと、危険だと判断したよ」





結果が悪かったんだろうということは、藤堂先生が話す前からなんとなく。

でも、まさかドクターストップがかかるとは思わなかった。





ひな「なんとか、なりませんか……? 毎日診察にも、治療にも通いますから。いつも通り注射して、薬も飲むので、クリクラ続けられませんか?」


藤堂「気持ちはわかる。できることなら、先生もそうしてあげたい。だから、この前は診察だけの判断で、実習を止めなかったでしょ?でも、今回はそうさせてあげられない。身体が怠い程度で済んでるのが、信じられない状態なの」


ひな「でも、本当に怠さ以外は何もなくて、貧血がひどいくらいなら、これまでもそうで……」


藤堂「さっきも言ったけど、いつもの貧血や喘息だけじゃないんだよ。ひなちゃん、生理はきちんと来てる……?」


ひな「えっ……?」





生理……



そういえば、クリクラに必死で意識してなかった。

わたし最後に生理きたの、いつだっけ……。





ひな「生理は、最後にあったのは…………すみません、しばらくなかったです……」


藤堂「そうだよね」


ひな「でも症状はなくて、それは本当にありません。お腹が張るとかどうとかはないです、本当に……」


藤堂「ひなちゃんを疑っているわけではないよ。ただ、検査結果が良くなかったの。それが数値として出ている以上、今なんともなくても対処しないといけない。わかるよね」


ひな「……わかります」


藤堂「だから、少し入院して、治療を受けてほしい」


ひな「……はい」










それからは、





ひな「入院の準備をしに、一度家に帰らせてください……」





と言ったら、





藤堂「うん、わかった。そしたら一緒に行くから、少し待っててくれる? ちょっと病棟の患者さんを診ないといけないから……30分だけ。ごめんね」


ひな「いえ、お忙しいのに申し訳ないです。大丈夫です、ひとりで帰ります」


藤堂「いいや。今の状態で野放しにはできないから。車で送るから、少し待ってて」





と、藤堂先生が車で送ってくれて、家の中までついてきて、また車で病院に戻ってきた。

病院に戻ってくる前、





藤堂「ひなちゃん、何か食べるものと水分も買っていこうか。今日は病院食が出ないから、何か食べたいものある?」





聞かれたけど、





ひな「お腹すいてません……」





そう返事をして、





藤堂「朝から何も食べてないでしょ。本当に食べられないなら、戻ってすぐにまた点滴するよ」


ひな「それでいいです……」





というやり取りをしたのだけれど。

病室に入って少しすると、





藤堂「ひなちゃん、お腹が空いてなくても、食べられるなら少しでも食べて。ごはんが食べづらかったら、甘いものでも構わないから」





って、わたしが好きなおにぎりに、ゼリーやプリン、アイスクリーム、お水とお茶も何本か買ってきてくれて、





藤堂「19時頃になると思うけど、宇髄先生に診察してもらうからね。それまでに少し食べて、休んでて」





ぽんぽん……





と、部屋を出て行った。



検査の結果を話す時、藤堂先生の物言いがいつもと違ってはっきりだった。

患者としてはもちろんだけど、半分は実習生として、話をしたんだと思う。

だから、わたしもどこかちゃんとしてなきゃと、それほど感情的にならなかった。

でも、今の藤堂先生は100パーセント、いつもの優しい主治医の先生。





おにぎり……。





せっかく買ってきてくれたのに、食べずにダメにするわけにはいかない。





パクッ……





ひとりになった病室で、そっとおにぎりにかぶりついた。


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