228 / 238
神崎先生
しおりを挟む神崎「ひなちゃん、よろしくねっ!」
五条先生がアメリカに渡った数日後。
今日からクリクラがスタート。
こうなるだろうと予想はしていたけれど、わたしの指導医は神崎先生になった。
***
~小児科医局~
神崎「ひなちゃん」
ひな「はい」
神崎「一昨日渡した論文はもう読んだ?」
ひな「はい、読みました」
神崎「お、さすが!質問は時間ができた時にまとめて聞くからね。それじゃあ……はい、これ。次の論文!」
ひな「……っ!?」
神崎「あれ?ひなちゃんどうかした?? 顔がこわばったようだけど?」
ひな「い、いえ!そんなことありません。ありがとうございます……っ!」
クリクラが始まって、はや1ヶ月。
ポリクリの何倍も大変な毎日だけど、ポリクリの何倍も充実した日々を送っている。
神崎「よし、そしたら回診行こっか」
ひな「はい、お願いします」
そして、充実した日々を過ごせているのは、何を隠そう、指導医、神崎先生のおかげ。
これまで神崎先生は、いつも明るくとにかく元気で、ちょっとお調子者……?というイメージだった。
そして、指導医の神崎先生はというと、これまでのイメージ通り、いつも明るく元気な先生。
ただ、ひとつ違ったのは、決して調子者ではないということ。
ノリの軽さゆえにそう見えることもあるだけで、実はすごく真面目で熱心で、smartでありclever。
技術力は言うまでもなく、
神崎「今日はこの後オペがあるから、ちょっと早足で回るね。こういう時はひとりひとりに割ける時間が短くなるけど、それを子ども達には伝わらないように、丁寧さと正確さは忘れずに」
ひな「はい」
神崎「今からの回診はいつもとどう違うのか、俺の動きを見ておいて。もし時間に余裕を残せたら、最後の数人はまたひなちゃんに診察してもらうね」
神崎「わかりました」
指導力も抜群。
あぁ、神崎先生も黒柱なんだ……。
と、最初の数日で御見逸れいたした。
そんな神崎先生に付いていて、一番驚いたのはある日の外来でのこと。
その日診察にやって来たのは、もうすぐ2歳になる男の子。
数件のクリニックにかかったものの、どのクリニックでも"風邪だろう""様子見よう"と言われるだけで、発熱が2週間も続くというのでうちに来た。
その診察で——
神崎「発熱の原因はアレルギーです」
母親「え?アレルギー……?」
神崎「はい。検査の結果、たろうくんは牛乳のアレルギーであることがわかりました。たろうくん、卒乳はまだですよね?完全母乳で育てられていて、最近卒乳に向けて牛乳を飲ませ始めたのではないでしょうか」
母親「は、はい……! その通りです」
神崎「アレルギーは皮膚や呼吸器に拒絶反応を示すことがほとんどなので、クリニックの先生方も判断が難しかったのでしょう」
と、原因を特定したことはもちろん。
血液検査ひとつしなかったクリニックの医師たちを責めることもせず、さすがだなと思ったら。
神崎「子どものアレルギーは成長過程で克服することも多いので、今すぐ深刻に受け止めなくて大丈夫ですよ。お熱が下がって体調が良くなったら、アレルギーの治療を考えていきましょう。今日は点滴だけしておきますね」
母親「はい、わかりました。ありがとうございます」
神崎「……大丈夫ですか?」
母親「あ、はい。この子注射は強いみたいで、点滴とか泣かないんです。アレルギーとわかってひと安心しました。この熱を早く楽にしてあげたいので、点滴お願いします」
と言ったお母さんに、
神崎「そうじゃなくて、お母さんがです」
母親「えっ?」
神崎「お疲れでないですか?この数週間、原因がわからないままずっとたろうくんを心配されて、心身ともに大変だったでしょう。点滴の間、たろうくんは責任を持ってみておくので、お母さんもベッドで休まれてください」
母親「え?いえ、そんな……っ!私は……」
神崎「お母さんが倒れてしまったら、困るのはたろうくんですよ。たろうくんのお母さんは、お母さんだけですから。たろうくんの健康と同じように、お母さんの心と身体も大事です。気休めでも良いので、休まれてください」
って。
その後、たろうくんのお母さんは涙を流しながらお礼を言って、たろうくんの点滴の間30分ほど休み、来た時より顔色がよくなって帰って行った。
ただでさえ大変な子育てで、子どもが体調を崩し、不安や疲労でいっぱいの中、神崎先生からの言葉はどれだけ嬉しかっただろう。
ひな「……神崎先生」
神崎「ん?」
ひな「わたし、神崎先生みたいになりたいです」
神崎「なに、ひなちゃん。どうしたの急に(笑)」
ひな「さっきの、たろうくんのお母さん。神崎先生にすごく救われたと思います。お母さんことまでよく見ていて、あんな声掛けや対応をって、なかなかできることじゃないと思って……」
神崎「小児科はさ、患者本人から症状を聞き出すのは難しいでしょ。おしゃべりすらまだの子どもだって来るわけで。そんな子どもたち相手に、知識や経験がいくらあろうと、この限られた時間ではわからないことだらけなんだよ。でもね、親は子どものことがよくわかってるから。特に母親はそう。母親が子どもに感じた違和感とかってすごく重要で、そういうのをいかに聞き出せるかなんだ。患者はもちろん、親御さんに向き合うことも小児では大事になるって、覚えておくといつかきっと役立つよ」
この日から神崎先生のことが、心から尊敬する、目標となるお医者さんになった。
そして、アメリカにいる五条先生とも毎日欠かさず連絡を取っていて、
"お疲れ" 12:00
"お疲れ様です" 12:34
"昼飯食ったか?" 12:34
"今から神崎先生と食堂に行きます" 12:35
"午後オペ入るんだろ?"
"しっかり食えよ" 12:35
"今日はオムライスにしようと思います!" 12:36
"よく噛んで食えよ"
"そしたらまた朝連絡するな" 12:37
"はい、おやすみなさい"
"ゆっくり休んでくださいね" 12:38
"ありがとう" 12:38
13時間の時差がある中、わたしに合わせてお昼の時間と、
"お疲れ" 19:30
"おはようございます!" 19:31
"今家か?" 19:32
"はい" 19:32
~着信~
ひな「もしもし」
五条「お疲れ、ひな」
ひな「おはようございます、五条先生」
五条「晩飯食ったか?」
ひな「はい」
五条「ん。今日はどうだった?」
ひな「また宿題をいただきました……」
五条「ははっ。ひなすっかり気に入られてるな」
ひな「"ひなちゃん読んだ?"って、次から次と論文渡されるんです……。神崎先生がこんなだと思いませんでした……」
五条「そうか?神崎先生は俺なんかより医学に熱心だし、厳しいぞ?」
ひな「五条先生より厳しいようには見えませんが……。というか、そんな人はいないというか……」
五条「んぁ?」
ひな「あっ、いえ、なんでもないです……っ!」
五条「でもまぁ、神崎先生は見込みのあるやつにしか本気で指導しないから。そうやって課題を与えてくれるってことは、ひなはよくできるって期待してくれてるんだ」
ひな「うーん、そうなのかな……」
五条「神崎先生も暇じゃないんだ。仕事とはいえ、伸び代のないやつに時間は割かないぞ。だから自信持って、神崎先生についていったらいい」
ひな「はい。ありがとうございます」
五条「ん。……そしたら、俺そろそろ出勤するな」
ひな「あ、はい。いってらっしゃい……! 気をつけて」
五条「ありがとう。ひなも風呂入ってしっかり休むんだぞ」
夜は五条先生が起きて家を出るまでの時間に連絡をくれて、電話で少し話せたりも。
19
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

好きだった幼馴染に出会ったらイケメンドクターだった!?
すず。
恋愛
体調を崩してしまった私
社会人 26歳 佐藤鈴音(すずね)
診察室にいた医師は2つ年上の
幼馴染だった!?
診察室に居た医師(鈴音と幼馴染)
内科医 28歳 桐生慶太(けいた)
※お話に出てくるものは全て空想です
現実世界とは何も関係ないです
※治療法、病気知識ほぼなく書かせて頂きます

大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪


だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
春
ma.chaaaa
恋愛
病弱な女の子美雪の日常のお話です。
ーーーーー
生まれつき病弱体質であり、病院が苦手な主人公 月城美雪(ツキシロ ミユキ) 中学2年生の13歳。喘息と心臓病を患ってい、病院にはかなりお世話になっているが病院はとても苦手。
美雪の双子の兄 月城葵 (ツキシロアオイ)
月城家の長男。クールでいつでも冷静沈着。とてもしっかりしてい、ダメなことはダメと厳しくよく美雪とバトっている。優秀な小児外科医兼小児救急医であるためとても多忙であり、家にいることが少ない。
双子の弟 月城宏(ツキシロヒロ)
月城家の次男。葵同様に医師免許は持っているが、医師は辞めて教員になった。美雪が通う中高一貫の数学の教師である。とても優しく、フレンドリーであり、美雪にとても甘いためお願いは体調に関すること以外はなんでも聞く。お母さんのような。
双子は2人とも勉強面でもとても優秀、スポーツ万能、イケメンのスタイル抜群なので狙っている人もとても多い。
父は医療機器メーカー月城グループの代表兼社長であり、海外を飛び回っている。母は、ドイツの元モデルでありとても美人で美雪の憧れの人である。
四宮 遥斗(シノミヤ ハルト)
美雪の担当医。とても優しく子ども達に限らず、保護者、看護師からとても人気。美雪の兄達と同級生であり、小児外科医をしている。美雪にはとても手をやかされている…
橘 咲(タチバナ サキ)
美雪と同級生の女の子。美雪の親友。とても可愛く、スタイルが良いためとてもモテるが、少し気の強い女の子。双子の姉。
橘 透(タチバナ トオル)
美雪と同級生の男の子。咲の弟。美雪とは幼なじみ。美雪に対して密かに恋心を抱いている。サッカーがとても好きな不器用男子。こちらもかなりモテる
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる