ひなとDoctors 〜柱と呼ばれる医師たち〜

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神崎先生

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神崎「ひなちゃん、よろしくねっ!」





五条先生がアメリカに渡った数日後。

今日からクリクラがスタート。

こうなるだろうと予想はしていたけれど、わたしの指導医は神崎先生になった。










***



~小児科医局~



神崎「ひなちゃん」


ひな「はい」


神崎「一昨日渡した論文はもう読んだ?」


ひな「はい、読みました」


神崎「お、さすが!質問は時間ができた時にまとめて聞くからね。それじゃあ……はい、これ。次の論文!」


ひな「……っ!?」


神崎「あれ?ひなちゃんどうかした?? 顔がこわばったようだけど?」


ひな「い、いえ!そんなことありません。ありがとうございます……っ!」





クリクラが始まって、はや1ヶ月。

ポリクリの何倍も大変な毎日だけど、ポリクリの何倍も充実した日々を送っている。





神崎「よし、そしたら回診行こっか」


ひな「はい、お願いします」





そして、充実した日々を過ごせているのは、何を隠そう、指導医、神崎先生のおかげ。

これまで神崎先生は、いつも明るくとにかく元気で、ちょっとお調子者……?というイメージだった。

そして、指導医の神崎先生はというと、これまでのイメージ通り、いつも明るく元気な先生。

ただ、ひとつ違ったのは、決して調子者ではないということ。

ノリの軽さゆえにそう見えることもあるだけで、実はすごく真面目で熱心で、smartでありclever。

技術力は言うまでもなく、





神崎「今日はこの後オペがあるから、ちょっと早足で回るね。こういう時はひとりひとりに割ける時間が短くなるけど、それを子ども達には伝わらないように、丁寧さと正確さは忘れずに」 


ひな「はい」


神崎「今からの回診はいつもとどう違うのか、俺の動きを見ておいて。もし時間に余裕を残せたら、最後の数人はまたひなちゃんに診察してもらうね」


神崎「わかりました」





指導力も抜群。





あぁ、神崎先生も黒柱なんだ……。





と、最初の数日で御見逸れいたした。










そんな神崎先生に付いていて、一番驚いたのはある日の外来でのこと。

その日診察にやって来たのは、もうすぐ2歳になる男の子。

数件のクリニックにかかったものの、どのクリニックでも"風邪だろう""様子見よう"と言われるだけで、発熱が2週間も続くというのでうちに来た。



その診察で——





神崎「発熱の原因はアレルギーです」

 
母親「え?アレルギー……?」


神崎「はい。検査の結果、たろうくんは牛乳のアレルギーであることがわかりました。たろうくん、卒乳はまだですよね?完全母乳で育てられていて、最近卒乳に向けて牛乳を飲ませ始めたのではないでしょうか」


母親「は、はい……! その通りです」


神崎「アレルギーは皮膚や呼吸器に拒絶反応を示すことがほとんどなので、クリニックの先生方も判断が難しかったのでしょう」





と、原因を特定したことはもちろん。

血液検査ひとつしなかったクリニックの医師たちを責めることもせず、さすがだなと思ったら。





神崎「子どものアレルギーは成長過程で克服することも多いので、今すぐ深刻に受け止めなくて大丈夫ですよ。お熱が下がって体調が良くなったら、アレルギーの治療を考えていきましょう。今日は点滴だけしておきますね」


母親「はい、わかりました。ありがとうございます」


神崎「……大丈夫ですか?」


母親「あ、はい。この子注射は強いみたいで、点滴とか泣かないんです。アレルギーとわかってひと安心しました。この熱を早く楽にしてあげたいので、点滴お願いします」





と言ったお母さんに、





神崎「そうじゃなくて、お母さんがです」


母親「えっ?」


神崎「お疲れでないですか?この数週間、原因がわからないままずっとたろうくんを心配されて、心身ともに大変だったでしょう。点滴の間、たろうくんは責任を持ってみておくので、お母さんもベッドで休まれてください」


母親「え?いえ、そんな……っ!私は……」


神崎「お母さんが倒れてしまったら、困るのはたろうくんですよ。たろうくんのお母さんは、お母さんだけですから。たろうくんの健康と同じように、お母さんの心と身体も大事です。気休めでも良いので、休まれてください」





って。



その後、たろうくんのお母さんは涙を流しながらお礼を言って、たろうくんの点滴の間30分ほど休み、来た時より顔色がよくなって帰って行った。

ただでさえ大変な子育てで、子どもが体調を崩し、不安や疲労でいっぱいの中、神崎先生からの言葉はどれだけ嬉しかっただろう。





ひな「……神崎先生」


神崎「ん?」


ひな「わたし、神崎先生みたいになりたいです」


神崎「なに、ひなちゃん。どうしたの急に(笑)」


ひな「さっきの、たろうくんのお母さん。神崎先生にすごく救われたと思います。お母さんことまでよく見ていて、あんな声掛けや対応をって、なかなかできることじゃないと思って……」


神崎「小児科はさ、患者本人から症状を聞き出すのは難しいでしょ。おしゃべりすらまだの子どもだって来るわけで。そんな子どもたち相手に、知識や経験がいくらあろうと、この限られた時間ではわからないことだらけなんだよ。でもね、親は子どものことがよくわかってるから。特に母親はそう。母親が子どもに感じた違和感とかってすごく重要で、そういうのをいかに聞き出せるかなんだ。患者はもちろん、親御さんに向き合うことも小児では大事になるって、覚えておくといつかきっと役立つよ」





この日から神崎先生のことが、心から尊敬する、目標となるお医者さんになった。










そして、アメリカにいる五条先生とも毎日欠かさず連絡を取っていて、





"お疲れ" 12:00


"お疲れ様です" 12:34


"昼飯食ったか?" 12:34


"今から神崎先生と食堂に行きます" 12:35


"午後オペ入るんだろ?"
"しっかり食えよ" 12:35


"今日はオムライスにしようと思います!" 12:36


"よく噛んで食えよ"
"そしたらまた朝連絡するな" 12:37


"はい、おやすみなさい"
"ゆっくり休んでくださいね" 12:38


"ありがとう" 12:38





13時間の時差がある中、わたしに合わせてお昼の時間と、





"お疲れ" 19:30


"おはようございます!" 19:31


"今家か?" 19:32


"はい" 19:32



~着信~



ひな「もしもし」


五条「お疲れ、ひな」


ひな「おはようございます、五条先生」


五条「晩飯食ったか?」


ひな「はい」


五条「ん。今日はどうだった?」


ひな「また宿題をいただきました……」


五条「ははっ。ひなすっかり気に入られてるな」


ひな「"ひなちゃん読んだ?"って、次から次と論文渡されるんです……。神崎先生がこんなだと思いませんでした……」


五条「そうか?神崎先生は俺なんかより医学に熱心だし、厳しいぞ?」


ひな「五条先生より厳しいようには見えませんが……。というか、そんな人はいないというか……」


五条「んぁ?」


ひな「あっ、いえ、なんでもないです……っ!」


五条「でもまぁ、神崎先生は見込みのあるやつにしか本気で指導しないから。そうやって課題を与えてくれるってことは、ひなはよくできるって期待してくれてるんだ」


ひな「うーん、そうなのかな……」


五条「神崎先生も暇じゃないんだ。仕事とはいえ、伸び代のないやつに時間は割かないぞ。だから自信持って、神崎先生についていったらいい」


ひな「はい。ありがとうございます」


五条「ん。……そしたら、俺そろそろ出勤するな」


ひな「あ、はい。いってらっしゃい……! 気をつけて」


五条「ありがとう。ひなも風呂入ってしっかり休むんだぞ」





夜は五条先生が起きて家を出るまでの時間に連絡をくれて、電話で少し話せたりも。


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