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地域実習

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*ひなのside





五条「ひな」


ひな「五条先生!」


五条「おかえり」


ひな「ただいま!」





ポリクリも終わりが見え始めてきた時分。

わたしは2週間ノワールを離れ、地方の病院へ地域実習に行ってきた。

ターミナル駅の改札口を出たところで、迎えに来てくれた五条先生がすぐにわたしを見つけてくれる。





五条「疲れただろ。大丈夫か?」


ひな「全然大丈夫です!」


五条「本当か~?まぁ、思ったより元気そうだ」


ひな「思ったよりって……むむぅ……」


五条「ごめんごめん(笑)そんな頬っぺたふくらますな。可愛いな」





そう言って、わたしの頬をツンとつつく五条先生。





ひな「……っ///」


五条「ほら、行くぞ」





わたしの手からキャリーケースを取ると、わたしの肩を抱いてそそくさと車へ。










***



*五条side





五条「どうだった?向こうでの実習は」


ひな「すごく勉強になりました。ノワールとは全然違って、地方の良いところや、地方だからこそ抱える課題を知ることができて、貴重な経験になりました」





帰りの車中、ひなに地域実習の話を聞く。

現場で学んできたことを、相槌を打つ間もないくらいに、ひなは嬉しそうに楽しそうに話してくれた。

が、





ひな「……ただ、ひとつだけ気になることというか……わからないままにしてきてしまったこともあって……」





テンポ良く話していたのに、何やら声のトーンを落とすので、





五条「どうした?」





聞くと、ひなは実習先で出会ったある女の子の話をし始めた。





ひな「婦人科の診察に入らせてもらった時、小さな女の子が来たんです。最初はお母さんの診察について来たのかと思ったんですけど、カルテを覗くとその子が患者で。そしたら、わたしは席を外すように言われて、その診察だけ見学させてもらえなかったんです」


五条「ん?なんか事情があったのか?」


ひな「気になったので、もちろん後で先生に聞きました。そしたら、『デリケートな……病院を怖がる子だったからごめんね』って言われたんですけど……」


五条「けど?」


ひな「……五条先生は、"特発性発情症候群"って聞いたことありますか……?」


五条「発情症……?」


ひな「はい。カルテを覗いた時にその言葉も見えたんです。で、もちろんそれも先生に聞きました。そしたら先生は、"とても珍しい病気"とだけ。まだ病気が確定したわけじゃないからって、それ以上は教えてもらえなくて。突っ込んで聞ける雰囲気でもなくて……」


五条「なるほどな……」


ひな「自分でも少し調べてみたんですけど、ネットには情報がほとんどなかったんです。昔にあった病気だとか、遺伝子変異による特異体質だとか、オメガとかヒートとか……全然わからなくて。五条先生は知ってますか……?」










"特発性発情症候群"



ひなの口から出た病名に、正直かなり驚いた。

ひなが言った通り、それは過去の病とされているから。

特発性発情症候群はその昔、明治から大正時代にあった病気で、現代にはないと言われている。



その名のとおり、原因不明の発情が起こる病気で、本人の意思に関係なく定期的に発情期が訪れる。

発情期が続くのは約1週間。

ひながちらっと言ったヒートというのは、この発情期のことだ。



また、ひながもうひとつ言っていたオメガ。

ここからは少々難しい話になるが、発情症があった時代、人は男女とは別に第二の性を持っていたという。

それが、アルファ、ベータ、オメガの3つ。

ひなにはちんぷんかんぷんだろうが、ピンときた人もいるように、BLの設定としてよく使われるのがまさにこれ。

実は発情症が元になっている。



ただ、男も妊娠できるというのは物理的に不可能なので、そこは後から足された設定だろう。

それに、オメガはフェロモンを発するとか、アルファはその匂いを嗅ぎ分けるとか、そんなのも話を盛り上げるために付け足された設定にすぎない。



でも、所謂アルファやオメガが存在していたことは事実で、発情症である女がオメガ。

アルファというのは、社会的地位が高いだけの単に盛った男のこと。

昔は医学が発達していなかったから、謎の病である女をオメガなんて呼び、オメガと呼ばれた人々は、アルファと呼ばれる金と権力で物言うだけの盛った男の標的にされた。

そしてそれがために、世間から虐げられ、病を隠し隠され生活しなければならなかったんだ。



俺の憶測だが、そうした複雑な背景から、オメガは特発性発情症候群であると解明されても、公にして生きる者はいなかったし、文献もほとんど残されてこなかった。

だから、いつしか過去の病と言われるようになった。



だが、ひなの話を聞く限り、今も世間の知らぬところでその病に苦しむ人は存在していた。

いや、存在しているんだ……。










五条「……ああ、知ってる。ただ、症例が症例だけに文献は僅かしかなくて、俺も詳しく知らないし、直接その患者を診たことがない」


ひな「五条先生でも詳しくないんですね……」


五条「残念ながら、ノワールにその知見を持つ人はいないと思う。そもそも俺は専門外だが、宇髄先生や蓮先生ですら対応できないと思うぞ」





俺にある知識ならひなに全部教えてやりたいが、いま口頭だけで説明しても理解が難しいだろう。

それに、俺の憶測も混じっていることだ。

そんな状態で俺がものを言うよりも……





ひな「ノワールですら診れない病気だなんて、この先そんな患者さんに出会ったらどうすればいいんだろう……」


五条「それを学べたじゃないか」


ひな「え?」


五条「ふじさわ病院。そこに詳しい先生がいたんだろ?俺も知らなかったことだ」


ひな「でも、診察は外に出されたんです。学べず帰ってきたから今こうして……」


五条「そんなことない。知見を持った先生がその病院にいると知ったこと。しかも、その先生と繋がりを持てたこと。それだけで今回ひなが研修に行った価値は、今後の医者人生において計り知れないものだぞ」





せっかく素晴らしい先生に出会ったんだ。

だから、





五条「もし、そういう患者に出会って困った時はその先生に聞くといい。必ず力になってくれるはずだ」


ひな「はい」


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