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乙女の秘密
しおりを挟む——数日後
"あのな、ひな。ひなの気持ちはすごく嬉しい。でもな、俺はひなを本当に大切にしたいから、初めても大事にさせて欲しい"
"この先何度SEXしようと、初めてのエッチはきっとずっと記憶に残るんだ。だから、心も身体もとびきり丁寧に扱わせて?"
"初めてのエッチに、早くできたらえらいもない、すごいもない。最初から上手くいかなくて、それが普通。不安かもしれないけど、必ずちゃんとひとつなれるから……"
祥子「……なちゃん?」
……ん?
祥子「ひなちゃん、終わったわよ」
あっ……。
祥子さんに声をかけられ、我に返る。
今日は週に一度の鉄剤注射で病院に。
ベッドで横になって目を閉じて、半分寝ていたのかいなかったのか。
処置をしてもらっている間、頭の中は五条先生の言葉が流れていた。
祥子「気分、大丈夫?」
ひな「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
初めてのあの日は、結局最後までできなかった。
それから次の日もその次の日も最後まではできなくて、昨日は五条先生が当直だったから、そもそもエッチができていない。
ゆっくりと身体を起こし、捲し上げていた左腕の袖を戻していると、
祥子「悩み事?」
ひな「え?」
祥子「五条先生と何かあった?」
ひな「えっ?」
祥子「図星ね。どうしたの?」
と、祥子さん。
ひな「いえ、別に何も……」
祥子「そう?だけどその浮かない顔は、藤堂先生にもばれちゃうと思うな~。見逃してもくれないだろうし。先生から根掘り葉掘り聞かれる前に、よければ話してみない?」
……っ。
そう言われると、当然話す他なくて……。
五条先生と最後まで至っていないことを包み隠さず打ち明けた。
***
祥子「私もそうだったな~」
ひな「え?」
祥子「私も。初めてのsexは、一度や二度で最後まではできなかったわよ」
ひな「祥子さんも……??」
祥子「うん。優しく抱いてもらったし、痛みもそれほどなかったんだけど、どうしてもスムーズに入らなくて。最後まで繋がるのには、時間がかかったかな」
ベッドの上、わたしの横に並んで腰掛ける祥子さん。
わたしの話を聞き終えると、祥子さんの初めての時のことを話してくれた。
ひな「そうだったんですね……。わたしだけじゃないんだ……」
祥子「そう。だからね、何も焦ることはないし、負い目に感じることもないよ。あんなに大きなものが大事なところに入るんだもん。時間がかかるのは当然で、時間をかけるのも当然なの。五条先生に任せて、ゆっくり進めばいいんじゃないかな」
こんなに大人な女性の祥子さんでも、初めてはわたしと同じだったんだ。
そう思うと、心に少しゆとりができた気がする。
ひな「祥子さん、ありがとうございます。なんだか、気持ちが楽になりました」
祥子「本当?良かった」
にっこりと笑ってくれた祥子さんは、改めて間近に見ると本当に綺麗で美しくて……。
目を合わせていると思わず照れてしまいそうで、顔を正面に戻そうとすると、
祥子「あ、ちなみにね……」
と言って、祥子さんは良い香りとともにスッとわたしの耳元に近づき、
祥子「私の初めての相手は……
宇髄先生なのよ」
ひな「えぇ!?」
祥子「しーっ、ひなちゃんっ」
ハッ……!!
ひな「す、すみませんっ……」
祥子さんに耳打ちされて、思わず大きい声が出てしまった。
祥子「そんなに驚かなくても。意外だった?(笑)」
ひな「はい。いえっ、あ、えーっと……」
確かに、祥子さんは宇髄先生と結婚してるんだから、別に驚くことじゃない。けど……
人並みに恋愛してるだろうと勝手に思い込んでいた。
祥子「私もひなちゃんと同じでね、実は達弥しか男性経験ないの。よく経験豊富に思われるけれど、そんなことないのよ。そういうのは、真菰の方がよっぽど」
ひな「え?まこちゃん?」
祥子「そう。あの子が付き合った男の数は、両手で足るか足らないかだから」
ひな「えぇ!そうなんですか!?」
祥子「しかも、どれも遊びじゃなくて真剣によ?変な男に引っかかってないかと毎回チェックするんだけど、皆ちゃんといい男で。それがまたすごいのよね」
ひな「全然知りませんでした……祥子さんの話は聞いたことあったけど、そういう話は一度もなかったので」
祥子「それは、あまりにひなちゃんがピュ……というより、大人の話だから。小児のひなちゃんには話さなかったのよ。今なら聞けばいくらでも話してくれると思うわよ。よかったら、今度3人でお茶でもする?」
ひな「えっ!いいんですか?ぜひ!」
と、すっかり2人で盛り上がっていると、
コンコンコン——
処置室に藤堂先生が来た。
藤堂「あれ、もう終わってた?」
祥子「藤堂先生、ご連絡せずにすみません。処置は終わったのですが、ひなちゃんと少しお話していて」
藤堂「それで。時間経つのにおかしいなと思って来たら、何を楽しそうに話してたんだか」
……っ。
そう言って、ジロリとわたしを見る藤堂先生。
祥子「それは、"乙女"の秘密よね~?」
ひな「は、はい!」
祥子さんと何を話していたか、藤堂先生にはわからないはず。
なのに、どうもわかっていそうな顔をするから、わたしは声を裏返してしまう。
藤堂「秘密~?主治医のいないところで気になるけど。まぁ、来た時よりひなちゃんの顔色も良くなってるし、良しとしよう。そしたらひなちゃん、お疲れ様。今日はこれでおしまいね。来週も今日と同じ時間にまた来てね」
ひな「はい、ありがとうございました」
祥子「お大事に」
幸いにも藤堂先生からいろいろ聞かれることなく。
藤堂先生と祥子さんに頭を下げて、病院をあとにした。
***
そして、その夜。
わたしは再び五条先生と肌を合わせた。
最後まで至らなかったけど、焦る気持ちはもう無くて、
五条「ひな……」
ひな「五条先生……」
ちゅっ……
五条先生と愛し合う幸せを目一杯感じる。
それを大事に、少しずつ少しずつ前に進んだ。
そんな夜を続けること、さらに数日。
ついに……
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