211 / 238
すれ違い②
しおりを挟む*五条side
~小児科医局~
神崎「ねぇねぇ、五条先生?」
五条「はい?」
神崎「そろそろ話してくれてもいいんじゃない?ひなちゃんと何もないことないよね?毎日毎日、すんごい辛気臭いんだけど」
昼休憩を終えて医局でデスクワークをしていると、隣から神崎先生が。
五条「すみません……。でも、何もないので大丈夫です……」
神崎「もう、絶対大丈夫じゃないじゃん!ひなちゃんと大喧嘩でもしたの?」
五条「いえ、本当に何もないですから……って、そもそもなんでひなと何かあったって決めつけるんですか……」
神崎「だってそれ以外ないでしょ。じゃあ、ひなちゃんのこと以外で何かあったってわけ?」
五条「いや、だから本当に何も……」
と話していると、
コンコンコン——
藤堂「お疲れ様。五条先生ここに……あ、いたいた」
藤堂先生が来た。
神崎「藤堂先生!噂をすれば!」
藤堂「何、俺噂されてたの?(笑)」
神崎「はい!まぁ噂というか、話の中で藤堂先生の名前が出たところでして」
藤堂「ほう。それまたどんな話?」
神崎「それがですね、藤堂先生。もう聞いてください!五条先生が~……」
と、神崎先生が俺のことをあーだのこーだの弾丸トーク。
すると、
藤堂「ここに来たのはその話。ねぇ、悠仁。ちょっと今いい?」
藤堂先生に言われ、神崎先生も3人で、ソファーに移動し腰を掛けた。
***
藤堂「——ということだって。ひなちゃん、話してくれたよ」
コーヒーを飲みながら、藤堂先生の話を聞くこと数分。
五条「はぁ……」
マグカップを両手で包みながら、俺は深くため息をついた。
神崎「そういうことだったのか……」
藤堂「ひなちゃんには、ちゃんと悠仁に話してごらんって言ってあるから。今夜は2人できちんと話すんだよ?ひなちゃん、彼女失格だなんて言って悩んでるんだから」
五条「俺がひなにしたことは強姦未遂です……。失格なのは俺の方で……俺が、彼氏失格です……」
藤堂「もう、そう言うと思った。って通り言わないの。悠仁もひなちゃんも不器用が過ぎて本当……。お互いに自分を責めてすれ違ってるだけで、今の2人は何も問題ない。だから、ちゃんとひなちゃんと話しなさい。早いこと、今夜、帰ったらだよ」
五条「はい……」
と、藤堂先生に言われ……
***
その夜。
五条「ひな」
ひな「はい」
仕事を終えて家に帰り、ひなと夕食を食べ、それぞれで風呂に入り、ソファーでテレビを見ているひなに、
五条「アイス食うか?」
ひな「え?アイス……?」
五条「うん、アイス。ひなの好きなやつ」
と、声をかけてみる。
ひな「えっ、あっ、でも、もう歯磨いちゃったので……」
五条「そうか。……じゃあ、お茶飲むか?カモミールティー、はちみつ無しなら平気だろ」
ひな「はい、それなら……」
ということで、ひなと俺も、2人分のお茶を淹れてひなの横に座った。
五条「……美味いか?」
ひな「はい」
五条「甘くないから飲みづらいだろ?」
ひな「いえ、大丈夫です。美味しいです」
五条「ストレートも美味しく飲めるか。大人になったな」
ひな「はい……」
五条「……うん」
ひな「……」
五条「……」
いきなり話すのもあれなんで、お茶でも飲みながらと会話を試みるものの、互いにぎこちなく続かない。
藤堂先生から聞いたひなの気持ち。
突然あんな風にされて、怖くなるのは至極当然。
それでも、ひなは俺と先に進みたいと。
俺とひとつになりたいんだって、ずっと思ってくれている。
それなのに、俺はこの数日間、自業自得にただ落ち込んでただけ。
ひなのフォローをしないどころか、ひなを悩ませ気すら遣わせていて……
ひな「……」
今だってそう。
ひなは俯きがちで、なんとなく気まずそうに静かにお茶を啜ってる。
はぁ……このままじゃ……。
何してんだ俺は……。
そう思い、
五条「ひな、あのさ」
ひな「あのっ……!」
***
*ひなのside
あっ……。
五条「ん?」
ひな「あっ……す、すみません……」
五条「どうした?」
ひな「いえ、別に……五条先生なんですか?」
五条「ひなから言えよ」
ひな「いえ、五条先生から」
五条「俺のは大事な話だから。ひなから話して」
えっ……?
だ、大事な話……?
『悠仁にちゃんと伝えてごらん?何が大丈夫で何が怖いのか。こうしたい、ああしたい、だけどこれは不安なんだって』
『SEXって、そうやってコミュニケーション取ってするものだから』
藤堂先生に言われた言葉。
ちゃんと、わたしの気持ちを伝えなきゃ。
そう思って心の準備はしてたのに、いざとなると言い出せず。
そろそろ寝る時間になっちゃったなと思っていたら、五条先生がなぜかアイスだなんて言い出して、お茶を淹れてくれて……
話すなら、今、だよね……?
……よし、話そう。
としたら、五条先生とハモってしまった。
ひな「その……」
カップを置き、姿勢を正して五条先生を見る。
五条先生の大事な話は気になるけど、わたしのこれも大事な話。
五条先生がそう言うなら……
わたしは静かに鼻から息を吸い込み、もう一度意を決して、
ひな「五条先生とちゃんとお話ししたいです。
その……
そういう……
エッチのことについて……」
***
ひな「わたし、五条先生とエッチするの好きです。ドキドキして変な感じになるし恥ずかしいけど、気持ちよくて嬉しくて幸せで……五条先生と肌を合わせる時間がすごく好きです。本当に好きなんです。けど……」
五条「ひな……」
五条先生がわたしの手をそっと握る。
ひな「ご、ごめんなさい。こんな話して……」
五条「いや、こんな話なんかじゃない。大事な話だ」
ひな「大事な話と思いましたけど……五条先生の方が大事な話ですよね。わたしの話はもう大丈夫です」
せっかく話し出せたけど、やっぱり今日は無理だ。
また、今度ちゃんと話すことにしよう……。
そう思ったら、
五条「俺も、ひなとそのことを話そうと思ってたんだ。エッチのこと、ひなとちゃんと、今夜話したいと思ってた」
えっ……?
五条先生の言葉に俯いた顔を上げる。
すると五条先生は、
"話、続けて?"
そう言うように、少し眉を持ち上げる。
"五条先生の話って……?"
五条先生の目を見つめたまま。
今度はわたしがそんな目をすると、
"ん?"
話して……?と言わんばかりの、優しい瞳を向けられた。
ひな「…………したい、です。エッチなこと、五条先生とたくさんしたいって思ってるんです、けど……」
言いかけて、再び言葉が途切れ俯くわたし。
すると五条先生は、
五条「けど?大丈夫だから。ひなが思ってること、全部聞かせて」
座り直すようにしてわたしにくっつき、今度はわたしの手をぎゅっと握った。
ひな「その……怖くって……。ちゃんと最後までエッチするのが、少しだけ怖いんです……」
唇が微かに震えてしまう。
ひな「心の準備はできてるつもりでした。でも、全然足りていませんでした。だから、このままじゃまた拒んでしまうかもしれない。五条先生を傷つけることになるかもしれない。嫌われるかもしれない。そう思ったら……」
声まで震えてしまわないように。
そう思って話していたつもりだったけど、
五条「ひな」
ぎゅっ……
ひな「……グスッ……うぅ、グスン……」
そんなことは簡単に見破られ、五条先生の胸の中にぎゅっと強く抱きしめられた。
五条「話してくれてありがとう。それとごめんな。いろいろ、全部ごめん」
ひな「グスン、グスン……フリフリフリ……」
何がごめんと言わないのは、きっとわたしが否定しないようにだと思う。
だけど、わたしは首を横に振りながら、五条先生の背中に手をまわした。
五条先生が謝ることなんてひとつもないと思ってるから。
ごめんの全部にそんなことないって返したかったから。
五条「ひな?ひとつひとつ、整理してもいい?」
それから少しの間、2人静かに抱き合って、わたしが鼻を啜るのをやめたころ、そう優しい声で五条先生は言うと、
五条「俺はひなのことが好きだけど、ひなも俺のことが好き?」
ひな「好き……」
五条「俺はひなとエッチがしたいけど、ひなも俺とエッチしたい?」
ひな「したい……」
五条「けど、怖いか……?」
ひな「……コクッ」
五条「その怖いなんだけどな、ひなはエッチすることの何が怖い?例えば、痛いのが怖いとか……ひなの恐怖心は何から来てる?」
"怖い"
わたしの中にある恐怖心。
これがいつまでもグズついて、邪魔をしているのはわかってる。
ひな「痛いのが怖いのはあります……。エコーとか膣鏡でも痛いから、五条先生のは……大きいものが入るのは痛いかもしれないなって……」
五条「全く痛みがないようにするとは、安易に約束してあげられないけど、ひなが辛くないように最善を尽くすことは約束する。治療は嫌でもやめてあげられないが、エッチはすぐにやめられる。そもそも、これは治療じゃなくて、恋人同士が愛を深めるためにすることだから。我慢や苦痛はなくていいことだから。な?」
ひな「それは、そうなんですけど……」
まだ語尾が濁るわたし。
すると、
五条「怖いのはそれだけか……?」
抱きしめる手を緩めた五条先生は、顔を覗き込むようにしてわたしの頬に手を添えた。
……っ。
落ち着いた優しい声をしてるのに、五条先生の瞳は何かを悟っているみたい。
……思い出してしまうかもしれない。
一度だけあった過去の記憶。
それを、五条先生と繋がる時、頭で忘れていても体が覚えているかもしれない。
この前ダメだったのは、たぶんそういうことなんじゃないかと思うから。
何が怖いって……、そうなるのが怖い。
大好きな五条先生に愛してもらって拒絶してしまうのが怖い。
そして、もう五条先生とエッチができなくなって、五条先生に触れることも、触れられることもなくなって……
嫌われて見捨てられるのが、すごく怖い……。
ひな「……」
それを声に出すことはできなかった。
でも、五条先生もこれ以上聞いてはこなかった。
五条先生のことだから、なんとなくわかってたんだと思う。
だから、"ひとひとつ整理してもいい?"って、モヤモヤと絡まる結び目を解こうとしてくれた。
五条先生のためじゃなく、わたしのために。
そして、わたしの口が開かなくなっても。
それでも、五条先生は……
***
*五条side
五条「なぁ、ひな?大事なこと忘れてない?」
ひな「え……?」
ひなが口を開かずとも、この素直な目を見れば全部わかる。
何をどう、どれだけ不安に思っているのか、そんなことが全部。
でも、
五条「ひなはどうしたいの?俺とエッチしたい?したくない?」
ひな「し……したぃ……けど……」
五条「ん。じゃあ、しよう」
ひな「えっ……??」
五条「したいと思うなら、とにかくやってみたらいいだろ?それで、どうしても痛かったり怖かったらやめればいい」
結局はそれだけのこと。
だから俺はそう言って、
ちゅっ……
ひな「んっ……」
二の足を踏むひなにキスをした。
20
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

好きだった幼馴染に出会ったらイケメンドクターだった!?
すず。
恋愛
体調を崩してしまった私
社会人 26歳 佐藤鈴音(すずね)
診察室にいた医師は2つ年上の
幼馴染だった!?
診察室に居た医師(鈴音と幼馴染)
内科医 28歳 桐生慶太(けいた)
※お話に出てくるものは全て空想です
現実世界とは何も関係ないです
※治療法、病気知識ほぼなく書かせて頂きます

だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。


お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
春
ma.chaaaa
恋愛
病弱な女の子美雪の日常のお話です。
ーーーーー
生まれつき病弱体質であり、病院が苦手な主人公 月城美雪(ツキシロ ミユキ) 中学2年生の13歳。喘息と心臓病を患ってい、病院にはかなりお世話になっているが病院はとても苦手。
美雪の双子の兄 月城葵 (ツキシロアオイ)
月城家の長男。クールでいつでも冷静沈着。とてもしっかりしてい、ダメなことはダメと厳しくよく美雪とバトっている。優秀な小児外科医兼小児救急医であるためとても多忙であり、家にいることが少ない。
双子の弟 月城宏(ツキシロヒロ)
月城家の次男。葵同様に医師免許は持っているが、医師は辞めて教員になった。美雪が通う中高一貫の数学の教師である。とても優しく、フレンドリーであり、美雪にとても甘いためお願いは体調に関すること以外はなんでも聞く。お母さんのような。
双子は2人とも勉強面でもとても優秀、スポーツ万能、イケメンのスタイル抜群なので狙っている人もとても多い。
父は医療機器メーカー月城グループの代表兼社長であり、海外を飛び回っている。母は、ドイツの元モデルでありとても美人で美雪の憧れの人である。
四宮 遥斗(シノミヤ ハルト)
美雪の担当医。とても優しく子ども達に限らず、保護者、看護師からとても人気。美雪の兄達と同級生であり、小児外科医をしている。美雪にはとても手をやかされている…
橘 咲(タチバナ サキ)
美雪と同級生の女の子。美雪の親友。とても可愛く、スタイルが良いためとてもモテるが、少し気の強い女の子。双子の姉。
橘 透(タチバナ トオル)
美雪と同級生の男の子。咲の弟。美雪とは幼なじみ。美雪に対して密かに恋心を抱いている。サッカーがとても好きな不器用男子。こちらもかなりモテる
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる