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愛のちから②
しおりを挟む*五条side
コンコンコン——
院長「お疲れ様」
昼過ぎ。
今日はオペも無く、患者も皆安定していてるので、医局でゆっくりカルテを整理していたら、院長が来た。
五条「院長、お疲れ様です。りさ先生、今席外されています」
院長「りさじゃなくて、五条先生に用事」
五条「俺にですか?」
院長「そう。今、大丈夫?少し良い?」
院長が医局に来る時は、りさ先生に用がある時。
俺に話があるとすれば、コールかLIMEが入って院長室に呼ばれるはず。
わざわざ何を話しにって……
……はぁ。
五条「はい」
ひなのこと以外あるわけないかと、返事をしてソファーに座る。
院長「ひなちゃん、良くならないんだ。りさから聞いてるよね?」
五条「はい。一応……」
院長「じゃあ、わかってて会いに行かないわけだ。どうして?」
五条「それは……」
単刀直入に問う院長。
口調は優しいが向けられる目は厳しい。
院長「あの子には五条先生が必要だよ。五条先生もわかってるはずだけど?」
ひなには、俺が必要……
五条「……そうでしょうか」
院長が眉をピクリと上げる。
俺は俯いて話を続けた。
五条「ひなに俺が必要なんじゃなくて、俺にひなが必要なんです。夏の事故でひなを失いかけて、そのことを身に染みて感じました。それはひなにも言ったんです。でも、そうしてひなを必要とするのは俺のエゴかなと。ひなの目に、俺はひなを傷つける存在として映っていました。実際、ついカッとなることも多くて、ひなを傷つけています。もう、ひなの隣にいるべきじゃないかと思うんです」
俺と院長の間に沈黙が流れる。
そして、院長は肺に吸い込んだ空気を口を一文字に鼻から吐いた。
院長「じゃあ、どうしてずっとそばにいたの?」
五条「え?」
院長「一緒に暮らしたのはたった半年。10年弱も居場所がわからなかった他人の子を、忘れることなく想い続けて、奇跡的に再会したら、自ら世話して引き取って、成人してもそばに居続けてきた。それはどうして?」
五条「えっ……t」
院長「ひなちゃんとは今どういう関係なの?」
五条「……」
院長「ただの医者と患者?赤の他人同士?」
五条「……」
何も答えることができない俺。
そんな俺に、院長がまた鼻から長いため息をつく。
院長「パートナーでしょ。五条先生とひなちゃんは、生涯を添い遂げるパートナー。……違う?」
パートナー……
以前、宇髄先生や藤堂先生にも同じことを言われた。
もう、患者でも子どもでもない。
ひなは俺のパートナーだって。
院長「大なり小なりあるにせよ、今回みたいなことは幾度となくあったよね。どれだけ手に負えないと思っても、ひなちゃんに背を向けることはなかったはずだよ。それは、大切なパートナーだからじゃないの?五条先生にとってひなちゃんが大切なパートナーなら、ひなちゃんにとっても五条先生は大切なパートナーのはず。そのパートナーに見捨てられた今、彼女の生きる気力がどんな状態にあるのか、言わなくても想像できるよね」
……っ。
院長「今、ひなちゃんに足りない物。ひなちゃんに必要なものって言ってもいいかな。何だと思う?
愛だよ、五条先生。五条先生の愛。
……さて。一緒に行こうか、ひなちゃんのところ」
そう言って、院長がソファーを立つ。
五条「はい」
返事をして、院長に付いて廊下を出たところで、
五条「ありがとうございました。申し訳ありませんでした……」
院長の背中に頭を下げた。
振り返った院長は、
院長「わかるからね、五条先生の気持ち。大切に想い、幸せを願うほど、どうすべきかわからなくなる。五条先生くらいの時、俺もそうだったよ。りさを泣かせてしまってね」
五条「院長……」
院長「……って、今からひなちゃんのところ行くのにそんな顔しない。ほら、行くよ」
五条「はい」
ということで、院長とひなの病室へ。
すると……
豪「ひなちゃんしっかりするぞー」
藤堂「呼吸するよ。落ち着いて、ちゃんと息するよ」
ひな……?
ひな「ハァ、ハァッ……ゔっ……ゲホゴホッ!!」
騒がしく取り囲まれたベッドの上で、ひなが発作を起こしていた。
豪「りさ、工藤先生呼んで」
りさ「はい」
院長「どういう状況?」
りさ「蒼……!さっき喘息の発作を起こして、そしたら心臓も」
院長がりさ先生に状況を尋ねる。
そして、その横で俺は、
五条「ひな」
ひなの手を握りしめた。
***
*ひなのside
藤堂「ひなちゃん息するんだよ。わかる?おめめ開けてごらん」
ひな「ゲホゲホゴホッ……っ」
痛い、苦しい。
わたし、このまま死んじゃうのかな……。
正直、熱が出てるうちは手術しなくていいんだとか、そんな風に思ってた。
そして、五条先生に見捨てられた人生なんて、もうどうなってもいいやとも。
だけど……
ひな「五条先生、わたしのこと……嫌い……」
って言ったら、
藤堂「それは違うよ。ひなちゃん、それは勘違いしてる。五条先生は誰よりもひなちゃんを愛してるの。本当だよ」
と、藤堂先生は言い。
そんなの嘘だと言うと、
工藤「嘘じゃないぞ。五条先生は本当にひなちゃんのことばっかり考えてる。俺、いつもアイス持って来てただろ?あれだって、五条先生がひなちゃんにって、毎日買って来てくれてたんだぞ。ひなちゃんご飯食べられなくてしんどいと思うから、熱があるといつもこのアイス食べるからって。ゼリーやプリンも俺じゃない。全部五条先生からだったんだ」
と、工藤先生が。
ひな「……でも……五条先生……ずっと来ない……」
藤堂「来ないんじゃなくて、来られないんだよ。今は……どうしても忙しくてね。でも大丈夫。もうすぐ来るよ、大好きなひなちゃんに会いに」
って……。
ひな「ゴホゴホゴホッ!!……っ、ぅっ」
五条先生……
せめて、熱だけでも早く下がってほしい。
しんどい、苦しい、五条先生に会いたい、謝りたい。
ひな「ハァッ、……っ……ゴメ、ゲホゲホッ……サ……ッ、ハッ……ごめ、なさ……っ、ゲホゲホゲホッ! ごめ……、ゴジョゥ……ゴホゴホッ!!」
朦朧とする意識の中、ごめんなさいを繰り返す。
すると……
五条「ひな。ごめんなさいなんて思わなくていいから」
五条先生の声が。
幻聴でも聞こえてるのかな……。
五条先生を思うあまりか、それとも、もう死期が迫っているのかも。
そう思い目を開けると、
五条「ごめんなさいはもう終わりだぞ。それより、早く治すこと考えよう」
五条、先生……
優しくて大きな手。
大好きな五条先生の手が、わたしの頭を撫でる。
ひな「ゴジョウ、せんせ……?ハァハァ、五条先……ハァハァ、ヒック……五条先生っ、ゲホゲホゲホッ!!」
五条「うん。ひな、よく頑張ったな。しんどいのにひとりでよく頑張ってたな。もう大丈夫だぞ。遅くなったな。えらかったえらかった」
ひな「五条先、ヒック……ごじょうせ、ヒクッ、ハァハァ、うっ……ごじょ、ゲホゲホゴホッ……五条先生……ハッ、ハッ……」
五条「泣かないぞ、ひな。落ち着いて呼吸するよ。集中してごらん。痛くて苦しいな。もうちょっと頑張ろうな。マスクの煙吸ってごらん。そう、上手上手。ひな上手だぞ」
五条先生が目の前にいる。
いろんな感情が涙とともに溢れ返って、過呼吸になってしまう。
さっきより余計に苦しい。
でも、心は苦しくなくなった。
五条先生、会いたかったよ……
大好きだよ……
ひな「ハァ、ハァッ……五条先生……ゲホッ、ヒック、ヒッ……五条……ハァハァ、先……」
五条先生に会えた安心感で力尽き、わたしはそのまま眠りに落ちた。
***
——翌朝
不思議なことに、目が覚めると熱はすっかり下がっていた。
豪先生、蒼先生、りさ先生、蓮先生。
工藤先生、藤堂先生、宇髄先生、神崎先生、祥子さん。
そして、五条先生。
わたしを囲む全員が、安堵の表情を浮かべている。
蓮「こんなケース初めてだなぁ」
神崎「俺もです」
蓮「あれだけ続いた熱が一瞬で下がっちゃうんだから。愛の力ってすごいもんだね」
神崎「うんうん。すごいです!」
院長「蓮」
宇髄「神崎」
五条「っ……/////」
なんだか、蓮先生と神崎先生が怒られているみたいだけど、わたしの耳には何も届いていない。
だって、それどころじゃないんだもの。
わたしは今、工藤先生に心エコーされているのだから。
錚々たるメンバーと大好きな五条先生の前におっぱいを曝け出しているこの状況。
まったく……何の拷問なのよー!!
ひな「ビクッ、んっ……」
そして、プローブが乳首を掠めた拍子に、ビクッとなって変な声が漏れてしまう。
恥ずかしすぎて恥ずかしすぎて、手を繋いでくれてる五条先生の手を握りしめる。
工藤「ごめんな。ひなちゃんもうちょっとで終わるからな。豪先生、ここなのですが……」
五条「ひなじっとして。痛いことしてないだろ」
ううっ……。
嫌なことは、痛いことだけと限らないのに……。
もう熱下がったし早く帰りたい。
やっぱり、病院なんて大嫌いだ。
***
そして、次の日。
わたしにとってはさっそく、先生たちにとってはようやく、わたしは心臓の手術を受けることに。
ひな「五条先生……」
あぁ、やっぱりずっと熱ある方がよかった……。
またそんなことを思ってしまうほど、怖くて怖くて仕方がない。
五条「大丈夫だぞ。ひなは眠ってるだけで良いからな。次に目が覚めたら、もう全部終わってるから。大丈夫、何も怖くない」
オペ室の中までついて来てくれた五条先生が、そう言ってギュッと手を握り、頭を撫でてくれる。
すると、
医師「栗花落さん、そしたらマスク当てますね。煙が出るのでゆっくり口で呼吸しますよ」
麻酔科の先生にマスクを当てられ、五条先生の顔を見ながら、口から大きく深呼吸。
麻酔はすぐに効き始め、眠たい……とまぶたを閉じる直前、
五条「おやすみ、ひな」
五条先生の優しい声を聞いて、わたしの意識はプツンと切れた。
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