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愛のちから①

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~小児科医局~



神崎「ねぇ、五条先生?」


五条「はい」


神崎「今日も行かないの?」


五条「どこにですか?」


神崎「ひなちゃんのところ以外どこがあるの」


五条「……行きません。先生方にあんな口利いて、頭冷やせばいいんです」


神崎「そんなこと言うけどさぁ……本当は五条先生が冷静になりたいだけなんでしょ?ひなちゃんと同じくらい、自分の言ったこと後悔してるくせに。ひなちゃんもずっと反省してるって、りさ先生言ってたじゃん」


五条「反省なんかしてないですよ。こんなこと、今回が初めてじゃないんですから。とにかく、もう放って置けばいいんです」


神崎「そう言いながら、本当は心配で心配で仕方ないって、ほっぺたに書いてあるけど」


五条「別に……対応は院長達に任せてますし、俺には関係ありません」


神崎「もう、あのねぇ……」









***



~ひなのの病室~



豪「りさ、薬持って来て」


りさ「はいっ」


豪「ひなちゃん頑張るぞ。苦しいけどしっかりするんだよ」


ひな「…………ッ、……ハァ……っ"……ぅ"……」





夜、モニタアラームが鳴り、当直の豪とりさが駆けつけると、ひなのは胸を押さえ発作を起こしていた。





豪「ひなちゃん息出来るかー?」





聴診しながら問いかけるも、ひなのは額に汗を滲ませ息を詰めるばかり。





ひな「…………ッ……、っ"……」


豪「大丈夫だからな。すぐ治まるから、ゆっくり深呼吸しよう」





言いながら、豪はひなのの口元に酸素マスクを当て、





りさ「豪先生、代わります」


豪「頼む。ここ押さえといて」


りさ「はい」


豪「ひなちゃんごめんね、ちょっとチクッとするよー」


ひな「ビクッ、っ"……」





ひなのの腕に注射を打つと、少しして、ひなのの発作は治まった。










豪「りさ、あいつらいつまでひなちゃん放り出してる気だ?」





ひなのが眠ったことを確認すると、豪はひなのの頭を撫でながらりさに言う。



あれからもう1週間。

ひなのの容体は何ひとつ良くならないまま、胸の発作を起こす頻度だけが増えている。





りさ「うーん……ひなちゃんの状況は毎日伝えてあるんだけど、五条くんがね……」


豪「天元の息子はともかく、他のやつは何してんだ?」


りさ「五条くんが放って置けって聞かないのよ。まあ、彼等は彼等で、今ひなちゃんに寄り添うべきは五条先生だからって。ひなちゃんがこうなった時は、五条くんじゃないと何してもダメって引っ込んでるんだけど」


豪「はぁ?そんな理由だったら主治医と工藤は診察入らせろ。じゃないとひなちゃんが可哀想だ。慣れないおじさんにずっと診られて」


りさ「え?豪先生は、蒼とにぃにもだけど、年齢不詳だしそこは大丈夫だと思うよ?」
 

豪「いや、そういうことじゃないだろ。りさが1番にボケてくれるな……。とにかく、工藤にはちょっと話する。藤堂先生は内科だったか?」


りさ「えぇ。なら、藤堂先生には私から診察来るように話しておくわ」


豪「うん、お願いな。五条Jr.は蒼になんとかしてもらおう」










そして——










***



*ひなのside





——翌朝





藤堂「祥子ちゃん、熱いくつだった?」


祥子「38度3分です」


豪「心音は落ち着いてるが呼吸が荒いな。工藤、心電図は?」


工藤「深夜からこの時間にかけては、特に異常見られません」


豪「血圧も問題ないな。熱がどうにも下がらんか……」


藤堂「そうですね……」





藤堂先生の優しい手がそっとおでこに乗る。



あれから、どのくらい経ったんだろう。

いつの間にか、藤堂先生と工藤先生が来てくれるようになったけど……



五条先生は来ない。





ひな「ハァ、ハァ、ごめ……なさぃ……」


藤堂「うん?ひなちゃん、先生たち怒ってないよ。ごめんなさい言わなくていいんだよ」





ううん、違う。そんなことない。





ひな「ハァハァ、ごめ……なさ……」


藤堂「身体、熱くてしんどいね。おめめ瞑って休もうか」





あんな酷いこと言ったんだから、ちゃんと謝らないといけない。

ごめんなさいって、わたし、ちゃんと言いたい。



なのに……



五条先生は、どうして来てくれないんだろう。

五条先生、今何してるのかな。

小さい子に泣かれたりしてるんだろうか。

いや、わたしじゃないんだから、きっと五条先生は優しい人気者で、「ごじょおせんせぇー!」って、慕われてるんだろうな。

それとも、今日はお休みで家に居たりするのかも。



わたし、もう何ヶ月家に帰ってないっけ。

パッキング途中のキャリーケースは広げたままで、あれこれ詰めようとしていた物もベッドやソファーに散らかしたまま。

留学準備真っ最中だったわたしの部屋は、荒れ果てているに違いない。





ひな「ハァハァ……」





部屋、早く片付けなくちゃ。

でも、わたし家に帰れるかな。

五条先生とわたしn……五条先生の家に、わたしはもう入れてもらえないかもしれない。



だって、本当はわかってる。

五条先生が来ない理由もそう。



五条先生は……もう、わたしのこと……





ひな「……っ"」


豪「ん?」


藤堂「ひなちゃん?」





胸が、痛い……っ。





ピピピピピッ、ピピピピピッ……





ひな「うっ"……」





アラーム音が部屋に鳴り響く。

胸が痛むと鳴るこの音。

先生たちは皆、音がするより早く、わたしの異変に気がついた。





豪「工藤」


工藤「はい」


豪「ひなちゃん胸診るよ」


工藤「祥子ちゃん、エコー用意して」


祥子「はい」


藤堂「お口マスク付けるね」





なんとなく気づいてたけど、わたし、五条先生のことを考えると胸が痛くなる。

前は数秒で治まってたのに、数十秒、分単位で痛みが続く。

そして、これは心臓の発作なんだって、ここ数日でやっとわかった。





ひな「……っ"……ッ…………」


豪「藤堂先生、サチュレーションは?」


藤堂「95です」


豪「そっちの管理任せた」


藤堂「はい」


豪「工藤、エコーいけるか?」


工藤「いつでも大丈夫です」


豪「ひなちゃーん?痛いの落ち着いたら先生の手握って教えてくれるかな?」


ひな「ハァッ、ハァ…………っ、ハァ……ッ…………ハァ……」















ギュッ……










***



——10分後





藤堂「頭ごめんね、少し上げるよ」





工藤先生と豪先生のエコーが終わって、藤堂先生と祥子さんが氷枕を替えてくれる。





藤堂「冷たいの気持ちいい?さっきは苦しかったね。頑張ったね」





祥子さんが汗を拭いてくれる逆サイドから、藤堂先生が手を握ってくれる。

ぐったりなわたしは、訳もなく目尻から涙が落ちた。





藤堂「良くなるまで、もう少しだけ頑張ろうね。早くお家帰りたいね」





……っ。





ひな「……がん、ばれなぃ……」


「「え?」」





思いが声に出てしまった。

久しぶりに声を聞いたら頑張れないって、先生たちの動きが一瞬止まってる。

一方のわたしは、口が勝手に動いてしまう。





ひな「もう、がんばらなくていい……」


藤堂「ひなちゃん……どうしたの……」





藤堂先生の手が手から離れる。





だって……だってもう……





ひな「五条先生、わたしのこと……嫌い……」





藤堂先生の手が頭に乗った。 



そして、



ポタ、ポタッ……



わたしの目から涙の粒が落ちた。


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