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偉大な母①
しおりを挟む——10日後
夏樹「ひなの、どんな感じ……?」
工藤「身体は回復に向かってるんだけどな……」
息を吹き返したひなは、それから3日後に目を覚ました。
心配だった脳の異常もなく、その後、外科の特別室へ移してからの経過も安定してる。
七海「ひなのに会うのって、難しい……?」
藤堂「うん。今はまだちょっと……」
七海「だよね……」
夏樹と傑は明日アメリカへ立つ。
だから、今日は俺らに挨拶しに来てくれた。
五条「ごめんな。せっかく来てくれて、ずっと心配してくれてたのに。お前ら身体の傷はもう平気か?夏樹、手は?」
俺が2人に会うのは事故の日以来。
あの日は2人とも手足を擦りむいて、夏樹は手首も捻挫して、自分たちも怖かっただろうにひなを全力で守ろうとしてくれた。
夏樹が手を伸ばしてなかったら、今頃ひなの顔はあんな傷で済んでない。
鼻は折れて額は割れて、ぐちゃぐちゃになってただろう。
夏樹「俺は全然大丈夫。もう痛くもなんともないし。それよりひなのなんだよ。1番楽しみにしてたんだ」
七海「ひなのは留学行けなくなったこと、もう知ってますよね……?」
神崎「ひなちゃんに直接そう言ったわけではないんだけどね」
宇髄「返事はしないが、事故に遭ったことやこっちの話してることはわかってるはずだ。留学には行けないこともわかってるだろう」
夏樹「そうか……いいのかな、俺らだけ行って」
五条「夏樹。そんな風に思うのはやめろ。お前ら2人はひなの分もしっかり勉強して来い。行くからには思う存分楽しんできたらいい」
夏樹「また連絡してくれよ?俺らも連絡するし」
五条「あぁ。元気になったらひなからも連絡させる」
夏樹「んじゃ」
七海「行ってきます」
「「いってらっしゃい」」
と、2人は無事にアメリカへ旅立っていった。
***
コンコンコン——
五条「ひな」
それから1週間後。
朝、当直を終えてひなのところに来た。
五条「起きてたか。傷は痛んでないか?」
ひな「コクッ……」
五条「ん、ならよかった」
事故からもう3週間。
ひな以外のうちで預かっていた負傷者は全員退院したが、ひなは点滴と尿カテ以外の管やらなんやらが昨日やっと外れたところ。
目が覚めてからの診察検査は全て拒否。
前に心臓を手術した時と同じような感じだが、事故のせいで精神面の不安定さに拍車がかかってしまい、俺たちも慎重にならざるを得えなくて、ここまでの回復にもかなり時間を要してしまった。
何を聞いても言っても黙り込むか過呼吸起こすかだったから、こうして頷いてくれるようになっただけでも良くなったのだと、今は思うしかない。
五条「昨日の夜は眠れたか?」
ひな「コクッ……」
五条「ん、そうか」
言いながら、ベッドの横に腰掛けると、
コンコンコン——
「「ひなちゃーん、おはよう!」」
工藤先生と藤堂先生が来た。
藤堂「あ、悠仁来てたんだ。おはよう」
五条「おはようございます」
工藤「ひなちゃんよかったな。五条先生朝から来てくれたな」
工藤先生が元気いっぱいひなに話しかけるが、ひなは無視。
藤堂「ひなちゃん、おはよう。お粥持って来たけどどうする?」
ひな「……」
藤堂「今朝もやめとく?」
ひな「コクッ……」
でも、これには速攻で頷く。
今のひなには食事の介助が必要だが、外科に入ってるので馴染みの看護師がいない。
まこちゃんや祥子さん以外の看護師を付けても仕方ないだろうということで、先生たちが直接食事の世話までしてくれている。
とはいえ、まだ一度も口にできていないが。
藤堂「うん、そしたらやめとこう。無理しなくて大丈夫だからね。お腹が空いたら教えてね」
ひな「コクッ……」
優しい王子様に食べなくてもいいと言われ、少しホッとした表情を見せたひなは、
藤堂「そしたらひなちゃん、少しだけ胸の音聴いてみてもいいかな?」
そう言われた瞬間、一気に顔と身体を強張らせた。
ひな「ハァ、ハァ……フリフリフリ!!」
またどこから湧いてんだという力で、藤堂先生と工藤先生の手から逃れようとして、
藤堂「ひなちゃんごめんねー。痛いことしないから少しだけ頑張ろうね」
工藤「すぐ終わるからな。深呼吸2回だけ頑張れるか?」
ひな「ハァ、ハァ、ハァハァ……ハァハァ……っ……」
ひなは過呼吸に陥る。
こうなれば聴診も何もできたもんじゃない。
藤堂先生と工藤先生は顔を見合わせて、ひなを押さえる手を緩めた。
工藤「よし、ひなちゃん今日もやめとこうか。なっ!手首で脈だけ測らせてな」
藤堂「ひなちゃん怖かったね。もうしないから、ゆっくり深呼吸して落ち着くよ」
ひな「ハァハァ……っ、ハァハァッ……ハァハァ……」
五条「焦らなくていいんだぞ。大丈夫だ、呼吸に集中してごらん」
ベッドで横向きになるひなに顔の高さを揃えてしゃがみ、藤堂先生と工藤先生と俺も一緒になってひなを落ち着かせた。
***
~外科医局~
五父「うーん……どうしたものかなぁ……」
午後になって、親父付きの黒柱会議。
本当なら、今頃は俺とひなとアメリカに帰っていたはずの親父だが、今月いっぱいは日本に残ることになった。
工藤「今朝も食事診察ともにダメでした。そろそろ食事だけでも取れるようになるといいのですが、現状まだまだ厳しいです」
ひなの様子は今朝の通りで、毎日点滴から栄養入れて、診察は寝てる隙に。
しっかり診察や検査をしないといけない時は、鎮静剤や軽い麻酔を使ったりもしてる。
いつまでもこんなことはできないので、早くなんとかしたいのだが、打開策が見つからない。
黒柱に親父まで……これだけの腕利きが集まっても、みんなひなには頭を抱えてしまう。
五条「頷くようにはなったんですけどね。YesかNoで返せることに限りますけど」
五父「悠仁でも、今のひなちゃんは難しいか」
五条「心も頭もぐちゃぐちゃだから。事故のショック、留学に行けないこと、手術したこと…ひなを苦しめてる要因がひしめき合ってて、どこから取り除いてあげればいいのかわからない。見えないんだ、糸口が……」
五父「このままだと、良くなるものも良くならない。せっかく救った命はきちんと生かしてあげたいのにな」
と、答えの出ぬまま皆がひなのカルテを見つめていると、
あっ……。
ひとつ、あることを思いついた。
五条「なぁ、親父」
五父「ん、なんだ?」
五条「明日、母さんに来てもらえないか?」
五父「母さんに?」
五条「別に根拠はないんだが、母さんなら上手くひなの手を引いてくれる気がして」
神崎「なるほど。五条先生のそのなんとなくは案外当たるかもしれませんね。母親の力は計り知れないものがありますから」
五父「そうだな。医者がこんだけ集まってダメなんだ。わかった、母さんに頼んでおくよ。嫌とは言わん。明日、朝から来てもらおう」
ということで。
***
*ひなのside
工藤「……なちゃん。……ひなちゃん」
んんっ……
工藤「おはよう、ひなちゃん!」
今朝は工藤先生に起こされて目が覚めた。
ニカッと見せる白い歯が太陽のように眩しくて、そっとしておいて欲しいわたしに向けるには相応しくない笑顔。
病院から帰ったはずのわたしは病院にいる。
事故に遭ったことはわかってるから、目が覚めて病院だったことにそれほど驚きはしなかった。
でも、随分眠った気がするのに身体はひとつも休んでないみたいで、それが心臓の手術をしたからだとわかった時は、
そっか……。
って、何も言葉が浮かばないほどショックだった。
藤堂「ひなちゃん、おはよう。今朝はご飯どうしようか?」
この質問はもう5回以上された。
今日は何月何日だろう。
事故に遭ってから2週間経つのは確実で、意識が戻った時の五条先生のあの感じ……わたしは相当眠っていただろうから、3週間かそれ以上経ってるかもしれない。
ひな「フリフリ……」
藤堂先生に小さく首を振って、もう少し微睡みたく目を閉じると、
五条「ひな」
五条先生の声がして、
五父「ひなちゃん、まだ眠いかな」
お父さん??
の声もして、重たい目をパチパチしながら開いたら、
五母「ひなちゃん」
工藤先生、藤堂先生……
五条先生にお父さんに……
お母さん……
五条「おはよう、ひな。今朝は眠そうだな、昨日寝れなかったか?今日はお母さん来てくれたぞ」
言われてお母さんを見ると、
五母「寝ても寝ても眠い日だってあるわよね。朝も早いもの、ご飯よりまだ寝ていたいわよね」
そう言って、お母さんは包帯を避けながらわたしの頭を優しく撫でる。
藤堂「ひなちゃん。そしたら、先生たちまた後で来るね」
工藤「診察も今はしないからゆっくり休もうか」
突然、今日はどうしたんだろう……?
と思ったものの、診察されないのならありがたい。
五母「ひなちゃん、もう一眠りしていいわよ。私はここにいるから、ゆっくりおやすみなさい」
お母さん……
コクッと頷き、わたしは静かに目を閉じて、もう一度夢の中へ。
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