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留学前の惨事②
しおりを挟む*五条side
宇髄「それでは、我々もこの辺で。五条先生はまた後ほど」
五父「私も他の先生方に挨拶行かないと。蒼先生、ありがとうございました。豪もありがとな」
豪「またな、いつでも連絡くれよ」
ひなたちが院長室を出て10分ほど。
俺たちもそろそろ仕事に戻ろうかとしていたところ、
プルルルッ……
誰かのスマホが鳴った。
工藤「あ、ちょっとすみません」
着信があったのは工藤先生のスマホ。
工藤先生はすぐにポケットからスマホを出して、電話に出る。
工藤「はい」
夏樹「兄ちゃん!!!ひなのが……っ!!ひなのっ、傑が心マしてて……っ、俺どうしたら……」
工藤「心マ?お前何言ってんだ……?」
電話の声は聞こえないけど、"お前"ってことは相手は夏樹だろう。
夏樹から何を聞いたのか、工藤先生の声と表情が一瞬にしてピリついて、
宇髄「工藤?どうした?」
みんなもそれに反応して工藤先生を見ると、
コンコンコンッ!!
ガチャッ!!
看護師「院長!!病院の目の前で事故が……っ!!車が人を跳ねて負傷者が複数います!!!」
看護師がものすごい勢いで院長室に。
そして、
プルルップルルッ……
今度は全員のスマホから一斉に呼び出し音が鳴り響き、コンマ何秒、時が止まったように顔を見合わせた俺たちは、
院長「行って」
院長が言うと同時に、院長室を飛び出した。
『心マ?お前何言ってんだ……?』
『病院の目の前で事故が……っ!!車が人を跳ねて負傷者が複数います!!!』
事故……
車が跳ねて……
心マ……
ひなが事故に巻き込まれた。
とんでもないことが起きたのだと言う脳みそに、俺はひとまず待ったをかける。
誰かが誰かに心臓マッサージをしてるとすれば、ひなが傑にしてるのかもしれない。
もしくは、あいつら3人は怪我なんてしてなくて、ただ誰かの救助をしてるのかも。
だけど、電話に出た工藤先生は真っ先に俺に目をやった。
傑なら藤堂先生、知らないやつならあんな素振りはそもそもしない。
あぁ、ひななんだ……。
信じたくない、違って欲しい。
そう思いたかったのに、ひなじゃないと言える要素がどこにもない。
ひな、逝くなよ……。
夏樹、傑……頼むからひなの命繋いどけ……。
救命セットを取って、階段を駆け降りて、正面玄関を出て、猛ダッシュ。
ロータリーを抜けて道へ出ると、辺りは騒然としていた。
歩道に乗り上げて、街路樹に衝突した車。
その後ろに2台の車が追突してる。
血を流して泣き叫ぶ女の子、倒れた自転車と男性、座り込む者が数名に、前方2台の運転手は意識があやしい。
すでに何人かの医師や看護師が対応しているが、ざっと見渡して負傷者は10名以上。
そしてその中に、
ひな……っ。
3台玉突いた車の脇で、傑から心臓マッサージを受けるひなの姿が。
五条「ひな……っ!!」
宇髄「工藤、藤堂、五条と行け」
「「はいっ!」」
宇髄「神崎は俺と残りの負傷者トリアージ。軽症者は既にいるやつに任せていい。俺らは赤タグなんとかするぞ」
神崎「はいっ!」
俺は一目散にひなへと駆け寄り、宇髄先生は冷静に現場の状況を判断して指示を飛ばす。
それでも、トリアージ最優先がひなだというのは明確で、工藤先生と藤堂先生も回してくれた。
五条「ひなー?ひなー!」
呼びかけに応じない、脈も触れない、呼吸も無い。
全身を強く打った様子で頭部からも出血がある。
夏樹「兄ちゃん!!」
七海「ハァ、ハァ、……っ、ハァ……」
藤堂「傑代われ」
息を切らす傑と藤堂先生が心臓マッサージを代わり、
工藤「夏樹、何がどうしてこうなったか説明しろ」
夏樹「えっ、あ、あ、く、くく、くるまが……」
工藤「何言ってんだしっかりしろ!!いいか?お前の情報が頼りになるんだ。絶対に助けるから落ち着いて一から話せ。ひなちゃん心停止して何分経ってる」
言いながら、工藤先生は凄まじい手際の良さでモニターをつけてラインを取っていく。
五条「血圧51/22です」
工藤「どこから出血してるんだ……」
夏樹「……そ、それで、ひなの車の上に乗っかって、胸から落ちてっ」
工藤「……胸から落ちた?」
夏樹「胸から。1回宙に浮いて、手も付かずまともに胸から」
藤堂「心タンポナーデ起こしてるかも」
工藤「心嚢穿刺します」
五条「エコー出します」
ここへ来て3分。
次第にサイレンが響き始め、警察、消防、救急……空には報道のヘリまで飛んできてる。
夏樹の話によると、車は3台玉突いた状態で歩道に突っ込んできたらしい。
車が突っ込んでくるとわかった時、ひなたちは十分車を避けられる場所にいたそう。
ただ、車を避けようとした自転車が急にスピードを上げてハンドルを切り、目の前で小さな女の子を轢きそうになったらしく、ひなはその子を守ろうとして自転車の前に飛び出したって。
ひなは女の子を突き飛ばした。
その代わりにひなが自転車とぶつかった。
ひなと自転車に乗っていた男はすぐに立ち上がったらしいが、そこへ車が突っ込んできた。
男はフロント部分、体重が軽いひなは車の上に身体が乗り上がる。
車はすぐに止まらずそのまま歩道の上を進み、男は途中でフロントから地面に落ちた。
車が街路樹に衝突してようやく止まる。
そして、その衝撃でひなの身体は車体の上を一度舞い、地面に打ちつけるようにして落ちたんだと。
工藤「100吸引しました」
藤堂「……ダメ、戻らない」
工藤「……110です」
藤堂「……」
工藤「……120」
藤堂「……きた、心拍再開」
五条「血圧上がってきました」
工藤「よし、すぐ運ぼう」
現場に来て5分。
ひなの心拍がようやく再開し、ひなを急いで病院の中へ。
***
ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……
工藤「破裂箇所の縫合は全部できた。バイタルもひとまず安定してくれてる」
五条「ありがとうございました……」
事故が起きてから2時間。
心破裂を起こしていたひなは工藤先生の緊急オペで一命を取り留めた。
ただ、
五父「まだ油断は出来んぞ。工藤くんの処置は見事だった。縫合、止血までの時間は最短かつ完璧だ。だが、この3日は山場になる。回復出来るかどうかはあくまでひなちゃん次第。脳だって起きてみないとわからん。俺たちに今出来ることはここまでだ」
と、工藤先生のオペに立ち会った親父が言う。
五条「あぁ、わかってる……あとは、ひなを信じて待つ」
五父「ん。……そしたら、俺は一旦帰るな。母さんはもう帰ってるよな?」
五条「あぁ、帰ったよ。まだ母さんに連絡できてないから、帰ったらひなのこと伝えて。俺は今日はもう帰らないから」
五父「わかった。悠仁、お前も少しは休むんだぞ。そしたら、私はここで」
工藤「お疲れ様でした」
と、親父は俺とひなのいない家に帰って行った。
***
——翌日
"続いてのニュースです。昨日、ノワール国際病院前で車3台が歩道に乗り上げる事故が起きました。警察の情報によりますと、この事故による負傷者は13名。うち、軽傷者8名、重傷者5名とのことです。また、重傷者のうち、先頭の車を運転していた男性と車に跳ねられた女子大生の2人が、現在も意識不明の重体です"
昨日はあれからテレビなんて見る間もなかった。
ひなをオペ室に運んで、工藤先生と親父に託した後は他にいた負傷者の対応に当たり、ひなのオペが終わってからはずっとひなのそばにいた。
藤堂「おはよう、悠仁」
五条「おはようございます……」
宇髄「8時前だぞ。お前、そろそろ小児戻らないと仕事始まるだろ。ひなちゃんは交代で見とくから大丈夫だ。神崎がコーヒー淹れて待ってる、一杯飲んで仕事出ろ」
五条「すみません、よろしくお願いします……」
と、医局に来て、
神崎「おはよう、五条先生!」
五条「おはようございます……」
神崎「はい、コーヒー。今日はねー、家からいい豆持ってきて淹れたんだ!」
五条「そうですか、ありがとうございます……」
神崎「……ねぇ、五条先生。どんなに辛くても、俺たちは医者なんだ。気持ちはわかるけど、今は小児科医。そんな顔して子どもたちの前に行くつもり?」
五条「すみません……」
神崎「ひなちゃんのこと信じて待つんでしょ?信じてるなら、顔は上がるはずだよね。ほら、前向いて!」
ぽんぽんっ!
神崎先生に背中を叩かれながらソファーに座る。
そして、コーヒーを口に気持ちを切り替えていると、事故のニュースが流れてきた。
"調べによりますと、事故の原因は飲酒運転とのことで、車を運転していた男を危険運転過失……"
神崎「事故の原因は1番後ろの車だったって。酒飲んで運転して、前方車に猛スピードでぶつかって、その前の車まで玉突いた。ひなちゃんを跳ねた車はさ、ブレーキ踏んでハンドルを何度も切った痕があったらしい。他の車も人も、ちゃんと避けようとしてたんだ」
いつも明るい神崎先生がさっき俺に喝を入れたのより厳しい声に。
五条「その運転手とひなは重体で、事故を起こした男は軽傷ですか」
神崎「憎いよね。いつだって被害に遭うのは罪無き人だよ。ひなちゃんともう1人の男性さ、俺は2人とも負けないと思ってるんだ。必ず戻ってきてくれる」
そう言った神崎先生は俺よりずっとひなを信じていて、胸がチクリと痛む。
ひなを信じるって言ったくせに、俺はひなを信じてなかった。
ひなを失うのが怖くて、昨日は一晩中、ひなの目が覚めるように祈ってた。
祈ってどうすんだバカ……。
ひなを信じろ。
五条「ひなは戻ってきます。幾度となく危険な状態を乗り越えてきたんです。必ず目を覚まします、必ず」
神崎「うん、そうだね。よし、そしたら仕事しますか。さぁ、今日は何人の子に泣かれちゃうかな~?」
そして、いつもと変わらぬ朝のように、神崎先生と回診へ。
***
それから、数時間後。
運転手の男性が意識を取り戻したという連絡があった。
ただ、それと同時に、ひなは高熱が出始めて容体が悪化したという連絡も……。
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