ひなとDoctors 〜柱と呼ばれる医師たち〜

はな

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デート②

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"コホッ……コホッ……コホコホッ……"





これといって夢を見ていたわけではないが、現実で起きていることが夢の中に侵入してきて目が覚める……あの感覚と同じ。

微かに聞こえてきた咳の音で目を覚ますと、スヤスヤ眠っていたはずのひなが、布団に潜って声を押し殺すように咳き込んでいた。





五条「ひな!?」





慌てて布団を剥ぎ、苦しそうに咳き込むひなの背中をさすりながら、サイドテーブルに置いてあった聴診器に手を伸ばす。





五条「苦しいな。ごめんな、すぐ気づかなくて。ちょっともしもしするぞ」





そう言って、ひなの胸に手を滑り込ませると、ひなの身体が昼間より熱い。

チェストピースが冷たいのか、ひなも身体をビクッとさせた。





五条「冷たいか?ごめんな、少しだけ聴かせて……」





と聴診すると、喘鳴が聴こえるようになっていて、明らかに悪化してる。





寝る前までは大丈夫だった。

熱だって下がってたのに……





五条「ひな、ちょっと苦しいな。お熱も測らせてな……」





熱を測れば38度を超えていて、咳もどんどん酷くなり、吸入させても落ち着く気配がない。





ひな「コホコホコホッ!……ゴホッ……ゴホゴホッ!……ハァハァ」


五条「しんどいな、ごめんな。ひな、すぐ病院行……」





こうかと……、家で看るにはひなの身体が持たないから、もう病院へ連れて行こうと、そう思った瞬間、



"病院行くの……?"



って、不安そうに聞くひなの顔が脳裏に浮かんだ。





そうだよな……。

こんな夜中にまた病院なんて、ひな嫌だよな……。





すぐに病院へ連れて行くべきなのに、これ以上ひなに嫌な思いをさせるのかと思ったら、ひなをベッドの上で抱えるだけで立ち上がれない。





ひな「ゴホゴホッ……ゴホゴホッ……ゴホッ、ゴホッ!」


五条「ひな……ごめんな、苦しいな。大丈夫だからな。大丈夫、大丈夫……」





ひなを安心させるための"大丈夫"も、今はまるで、自分に言い聞かせてるみたいに感じる。



病院に行くのは、ひなにとってつらいこと。

でも、このまま家に居たってずっとつらい。

早く治してあげたいのに、俺はどうすれば……。



と、苦しむひなを腕の中に判断出来ないでいると、





ひな「ごじょぅせんせ……」


五条「ん?」


ひな「病院、行こぅ……」





って、ひなが。





……っ。

ひな……ごめん……。





ひなが自分から病院に行こうだなんて、よっぽどしんどいんだろう。

なのに、さっきから俺は何を迷って……





五条「うん、行こう。今から病院行こうな。すぐ楽になるから、もう心配しなくて大丈夫だぞ」





ひなの言葉でようやくハッとした俺は、今度はしっかりとひなを抱いて立ち上がり、すぐに病院へ向かった。










***



宇髄「胸の音から聴いてみるよ。咳出てもいいからゆっくり呼吸してみよう」





病院に着くと、当直の宇髄先生がひなを診てくれた。

俺はベッドに腰掛けるひなを背後から抱くように支えてる。





ひな「ハァ……ハァ……ッコホ、ゴホゴホッ……」


宇髄「ん~……変な咳してるな。風邪から喘息が誘発されてるか。五条、ひなちゃんの頭押さえて」





聴診器を首に掛けながら言う宇髄先生が、舌圧子を手に取ろうとしたので、



これ、ひな嘔吐くな……。



可哀想だけど仕方ないと思いつつ、ひなの頭を押さえると、





宇髄「ひなちゃ~ん、お口あーんしよう」


ひな「あー……ッ、オエッ……ゴホゴホゴホッ!!」





案の定という感じ。





宇髄「ひなちゃんごめんな~。苦しいけど、ちょっとだけ頑張ってお口開けられるかな?あーって言ってごらん」





でも、いつもなら全力で首を振って拒否するところ、涙目になりながらも口を開けたのは予想外。





宇髄「ん、良い子だなー。もうちょっとだ」


ひな「……ォエッ……ゴホゴホッ、ゴホッ……ォエッ……」


宇髄「よ~し、お利口さん。えらかった。次、ベッドごろんしよう」





咳き込みながら嘔吐きながら頑張ったひなは、また一段とぐったりして、倒れ込むように横になった。

と同時に、ドアをノックする音が鳴って、





藤堂「お疲れ様です」





藤堂先生が来た。





五条「藤堂先生……!」





藤堂先生は今日当直じゃない。

それをわかってたから、LIMEに連絡だけ入れておいたつもりが、わざわざ病院まで来てくれた。





五条「すみません、LIME起こしましたか?こんな夜中にお休みだったんじゃ……」


藤堂「ううん。ちょうど論文書いてて、ずっと起きてたの。ひなちゃんのことも昨日から気になってたしね。主治医なんだから、俺にそんな気遣わないの」


五条「お疲れのところすみません……」





と、藤堂先生と話す後ろで、





ひな「うずぃせんせ……?ゴホゴホッ」


宇髄「ん?どうした?苦しいか?」


ひな「フリフリ……あの……ゴホゴホッ、わたし…………」





俺に聞こえないようにして、ひなが宇髄先生に何かを伝えていたとは知らず、





宇髄「五条、ひなちゃん落ち着くまで入院させていいか?」


五条「はい。そうなるかもなって、入院セットは車に積んで来ました」


宇髄「そしたらそれ取りに行って、ついでに手続きも先済ませて来い。その間、俺と藤堂でひなちゃん病棟連れて行くから。藤堂、内科は空きあったよな。手伝ってくれるか?」


藤堂「えぇ、もちろん」


五条「すみません。そしたら、俺ちょっと行って来ます。ひな、ごめんな。俺もすぐ行くから、宇髄先生と藤堂先生と一緒に病室入っててくれるか?」


ひな「ゴホゴホッ……コクコクッ……」


五条「ん。ごめんな……」





と、先生たちにひなを任せて俺は処置室を出た。










そして、車からひなの荷物を降ろして、夜間窓口で入院手続きを済ませたら、急いでひなの病室へ。

ひなは点滴を入れてもらい、咳止めの注射も打ってもらったようで、既に眠りについている。





宇髄「ひなちゃん、熱はもう上がりきってるから、数日安静にしてれば問題ないぞ。喘息も風邪が治れば大丈夫だ」


五条「ありがとうございます。夜中に突然すみませんでした」





そう言って、ひなの頭を撫でながら、





五条「……ひな、俺のせいで熱出したんです。家に帰ったら、ソファーで泣きながら寝落ちしてました……だから、なるべく病院には連れて来てあげたくなくて。でも、もっと早く連れて来るべきでした。ひなが言ったんです、病院行こうって。よっぽどしんどかったんだと思います。俺、ひなにつらい思いさせてばっかりで……ごめんな、ひな……」





と言うと、





宇髄「それだな。その言葉とその顔」





って、宇髄先生が。





五条「え?」





突然そう言われても、何のことだかで聞き返すと、





宇髄「ひなちゃんが病院行こうって言ったのは、しんどかったからじゃない。しんどいだけなら、ひなちゃんはいつも通り我慢してた。でも、素直に病院行こうって言ったのは、五条、お前を心配させたくなかったからだ。入院するって言ったのもひなちゃんから。お前が藤堂と話してる隙に、ひなちゃん、俺に入院したいって、お前が気付かないようにこっそり言ってきた」





って。

病院に行くって言ったのも、入院するって言ったのもひなからで、しかも、俺を心配させたくないからって、





五条「なんで……どういうことですか……?」





もう一度聞くと、





藤堂「ひなちゃんね、悠仁に"ごめんね"って言わせちゃうのがつらかったって。五条先生は何も悪くないのに、昨日からずっとごめんねって謝るのって言ってたよ。デートに行けなくなったことは何とも思ってないのに、熱が出たせいで責任感じてるから、少しでも早く元気になりたいってさ。悠仁のその心配そうな、悲しそうな、苦しそうな顔を見たくなかったんだよ、ひなちゃんは」





と。


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