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トラウマの火種③
しおりを挟む*ひなのside
藤堂「ひなちゃん、大丈夫?」
ひな「……え?」
夜、吸入を終えて部屋に戻るなり、藤堂先生がわたしの顔を覗き込む。
藤堂「どうしたの、ぼーっとして。さっきの吸入で全然咳き込まなかったけど、平気だったの?」
ひな「……大丈夫だったみたいです」
藤堂「それならいいんだけど……。祥子ちゃんもびっくりしてたんだよ?夕食の後、ひなちゃんが久しぶりにご飯残したかと思えば、薬を突然ゼリー無しで飲んだって」
吸入前、夕食後に祥子さんが薬を持ってきてくれたんだけど、テーブルに置いてもらった薬をわたしは何も考えず口へ運び、そのままお水でゴクンと。
『え……?ひなちゃん今お薬飲んだわよね!?ゼリーは??』
と、ゼリーを手にする祥子さんを見て、わたしはそのことに気づいた。
ひな「あ……はい。なんかゼリーのこと忘れてて、お水だけで飲んじゃって。ゼリー無しで飲めるようになったみたいです」
藤堂「薬飲むのにゼリーのこと忘れてた?どうして急に……」
確かに、どうしてだろう。
というか、薬を飲んだという記憶も正直なくて、なんならご飯を食べた記憶すらもない。
気づいたら目の前にご飯があって、気づいたら少し減ってて、気づいたら祥子さんが来て、気づいたら薬を飲んでたの……。
ひな「どうしてかな……ごめんなさい、ぼーっとしてたみたいで……」
と言うと、
藤堂「何悩んでるの」
ひな「え?」
藤堂「その顔、ひなちゃん何か考え事してる。傑たちと何かあったんでしょ。今日はこれで仕事終わりだから、少し話そっか。昼間、2人と話してて何があった?」
と、藤堂先生はベッドに腰掛けた。
……もう(笑)
ほんとに藤堂先生は……。
ひな「……ふふっ」
藤堂「うん?何、どうして急に笑うの(笑)」
ひな「いえ、すみません。なんか、やっぱり藤堂先生はわたしのことよくわかるなと思って」
藤堂「もちろん。大切な担当患者だからね。でも、ひなちゃんのことなら他の先生達もお見通しだよ。悠仁だって、いつもすぐ気づいてくれるでしょ?」
……っ!
***
*藤堂side
ひなちゃんがまた何か考え込んでる。
悠仁からも祥子ちゃんからも、ひなちゃんの様子が変だと連絡をもらっていたけど、これは相当おかしい。
昼間はそんなことなかったから、恐らくは傑と夏樹と何かあったんだろう。
ただ、ここまでぼーっとするようなことになるって、何があった?
と、あれこれ考えていたが、悠仁の名前を出した瞬間、明らかにひなちゃんの瞳が揺らいだ。
……なるほど。
これは、悠仁のことで間違いないな。
悠仁に1人になりたいって言ったのも、悠仁のことで何かあったからなら合点がいく。
となると、あいつらひなちゃんと何話したんだ……?
藤堂「それで、2人とはどんな話したの?何か嫌なことでも言われた?」
ひな「フリフリ……」
伏目がちに小さく首を振るひなちゃん。
さっき少し笑ってくれたのに、またぼーっとして黙り込んでしまった。
藤堂「ひなちゃん、1人で考え込むと良くないよ。ひなちゃんの場合、悩み事が続くと体調も崩しちゃうしね。誰にも言わないから、僕に話してごらん」
と言うと、少し間があってから、ひなちゃんは涙ぐむような声で、
ひな「……藤堂先生」
藤堂「うん?」
ひな「わたし……五条先生とキスできないです……」
***
~内科医局~
『傑と夏樹が、キスもしたことないのかって。五条先生に触れたいと思わないのかって聞かれたけど、思ったことなかったんです……』
『殻破って飛び込んでみたら?って言われて、思い切って五条先生にキスしてみようと思ったんですけど、全然できませんでした。五条先生は手を握ってくれるのに、わたしはハグすらできないんです。五条先生の目を見つめるだけで身体が1ミリも動かなくて、結局飛び込めなくて……グスン』
『過去から抜け出せてないなんて、そんなことない、それはもう大丈夫!と思ったけど、やっぱりダメなのかも。わたしにはまだ帳が下りてて、解けないみたいです……』
『五条先生はずっと待ってるのに、もっと恋人らしいことしたいって思ってるのに…わたし、もうどうしていいかわかりません……。五条先生のこと好きなのに、大好きなのに……五条先生に触れられない……グスン』
藤堂「——ということです」
五条「あいつら……」
神崎「まさか、あの時そんな話してたとは……」
深夜0時、緊急黒柱会議。
悠仁とキスできないなんて、未だにひなちゃんの口から聞いたことかと疑うけれど、ひなちゃんは確かにそう言った。
そしてこれは、夏樹と傑の仕業。
この不測の緊急事態にみんなを呼んで、ひなちゃんが話してくれたことを伝えた。
宇髄「それで、ひなちゃんは?大丈夫なのか?」
藤堂「好きな人ほど、ドキドキして触れられないこともあるよと。ひなちゃんが五条先生のこと大好きな証拠だよって言うと、ひとまず落ち着いてくれました」
神崎「それにしてもキスしてみようだなんて。そんな言葉聞くだけで恥ずかしがるのに、自分の言動もわからなくなるほど夢中で考え込んだんだ……」
藤堂「何かゾーンに入っちゃったよね。だから涙が上がる頃、『1ミリも動けなかったのは、そもそもキスしたことないからじゃない?ひなちゃん、キスってどうするか知らないでしょ』って言ったら、ハッと我に返った顔して、恥ずかしそうに首振りながら布団に隠れたの。それでそのまま寝たんだけど」
五条「ひな、そんなに俺のこと気にしてるんですね……恋人なのに何も出来ないって、そんなこと気にして……」
藤堂「うん、それは相当ね。夏樹や傑が言ったことは気にするなって何度も言ったけど、眠ってからも"五条先生……"って呟いてたから」
五条「はぁ……。ひなの調子がせっかく良くなってきてる時に……」
宇髄「夏樹はまたいらんこと話してくれたな……ったく……工藤、ちょっと夏樹呼び出せ」
工藤「はい、もちろん。締め上げます」
藤堂「それなら傑も。そもそも、ひなちゃんにこんな話始めたのは傑だと思うので……あいつもしばかないと……」
と言うわけで……
***
*夏樹side
——翌日
"朝10時。病院来い。"
今朝起きたら、夜中に兄貴からLIMEが来てた。
どうやら傑も藤堂先生に呼び出されたようで、
すげぇ嫌な予感……
と思いつつ病院に来たら、案の定、黒柱を前に傑と2人で小さくなる羽目に……。
藤堂「さて、おふたりさん。どうして呼び出されたのかわかってるよね?」
宇髄「……何、2人して黙って。わからんのか?」
工藤「お前ら何考えてんだ、どういうつもりだ……?」
神崎「ひなちゃんにあんな話するなんて。大学生になって調子乗ったの?」
宇髄「ひなちゃんが話聞いてどうなるか、想像出来なかったのか……?」
藤堂「揃いも揃って……何しに見舞い来た……?」
ひなのに何してくれたんだと、先生たちは完全に目を据えブチギレ状態。
兄貴と宇髄先生と神崎先生に至っては、傑に初めて会うにもかかわらず、そんなことはお構い無しの容赦無し。
藤堂「お前、俺の患者に何してくれてんだ……?キスの経験聞いてどうなる、どうするつもりで聞いたんだ。調子こいて色気出してんなよ……?」
傑はバカみたいに怖い藤堂先生に叩かれ、俺はいつも通り兄貴に打たれ、30分ほど黒柱総出で説教されたのち……
五条「お前らひなに余計なこと言うな……。次こんな事あってみろ、……殺すぞ?」
最後は五条先生にキッチリと締(絞)められて、
「「すみませんでした……」」
と、2人で土下座。
夏樹「だけど……ひなのだってもう大学生だぞ?ひなのはひなのって言えば、まぁひなのだけど……普通はそんな話もする年頃だろ。それに、五条先生だって……」
五条「俺がなんだ」
夏樹「五条先生だって、待ってるのは本当じゃねーのかよ。ずっと同棲までしてて、そろそろひなのと……」
五条「あぁ、したい。あれやこれやしたいと思ってる。したいに決まってんだろが……。でもひなを焦らせたくない。手を握ったり抱きしめたり、どこまでなら平気なのか。どこまでがドキドキで、どこからがビクビクなのか。いつも様子見ながらなんだ」
夏樹「少しずつ進まないといけないのは俺だってわかるよ。けどあんまり様子伺ってても、ひなのはなかなか変わんねーじゃん。だから、俺はちょっと背中を押してみようと思っただけで……」
五条「背中押した結果どうなった?お前らが少し話しただけでこうなってんだろ。ひなの心の傷は深いんだ。過去のトラウマの火種がひなの中でまだくすぶってる。それはお前もわかるだろ、わかってるから抜け出せてないって言ったんだろ。そんな状態なのに、俺にまで恐怖心抱いたらひなはどうなる?そういうこと考えろ……」
夏樹「それはそうだけど……だからこそだろ。ひなのだって自分で殻破らなきゃ。ひなの自身が帳解かなきゃ変わんねーじゃん!」
五条「あのなぁ……。帳はひなが自分で張ったんじゃない。これまでひなを取り巻いてきた環境が、ひなに帳を下させたんだ。だから、帳なら俺が破る。んなもんこっちから破りゃいい話だろ。ひなのこと思ってくれてるんだろうが、お前らはまだ考えが浅い。余計なことせず、もう黙って俺のこと見とけ……」
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