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王子か鬼か①
しおりを挟む五条「ひな~」
ひな「……」
五条「はぁ……ひ~な~?」
ひな「はい!もうちょっと!」
五条「こら!もうちょっとじゃない!いつまで勉強してるんだ。もう23時過ぎてるんだぞ。早く風呂入らんか!!」
今はもう7月。
わたしは大学に入って初めてのテストを前に、毎日必死で勉強してる。
さっきから、キリのいいところまでと言い続けて3時間以上。
いい加減、五条先生に怒られてしまい、
ひな「す、すみません……!」
急いでお風呂に入った。
ポチャーン……
はぁ……、疲れた。
医大では、単位を1つでも落とせばその時点で留年が決定してしまう。
だから決して赤点なんて取れない。
再試も数回あるにはあるけど、それに頼るわけにはいかないので、一発勝負の気持ちで勉強してる。
あと2週間もないけど、覚えること多くて間に合うかな……
テストが終わったら長い夏休みが待ってるのに、それどころじゃないよ……
はぁ……
と、湯船に浸かりながら1人ため息をついてると、
ひな「ケホッ……」
ぇ……?
ひな「…………ケホッ……ケホッ」
なんだか喉がムズムズすると思ったら、
ひな「ケホケホケホ……」
やばい、喘息出てきちゃったのかも……。
***
——数日後
昼、
ひな「ケホケホッ……」
七海「ひなの、大丈夫?」
ひな「大丈夫」
夏樹「どんどん咳酷くなってない?」
ひな「ううん、なってない」
夜、
五条「ひな、大丈夫か?」
ひな「大丈夫です!」
五条「身体怠いんじゃないか?重力に逆らえませんって感じだぞ」
ひな「なにそれ(笑)!全然だるくないですよ!!」
五条「お前がそのびっくりマーク付けたような言い方する時は大抵無理してる時だ。酷くなる前に今日はもう寝ろ」
ギクッ……
ひな「ほ、本当に元気ですよ!薬もちゃんと飲んでるし、なんともないです!もう少し頑張ってから寝ます!」
そして、深夜。
あれから毎日咳が出るようになり、身体も重くて怠くて、日に日に体調が悪くなるのを騙し騙しやり過ごしてきたわたしは、
ひな「ケホケホッ……ケホケホケホッ……!」
ついに発作が起きてしまった。
ひな「ケホッ、ケホケホケホッ……ハァハァ……ケホケホケホッ!!」
五条「ひな口開けて。いくぞ?」
五条先生が吸入してくれるけど、やり方を忘れたのか上手く吸えない。
ひな「ハァハァ、ハァハァ……ケホケホケホッ!!」
五条「落ち着け。変にタイミング合わせて吸おうとしなくていいから、しっかり深呼吸しなさい」
と言われ、頑張って深呼吸すると、
プシュッ……
上手くタイミングを合わせて吸入してくれた。
ひな「ハァハァ……ハァハァ……ケホッ…………ッハァ……ハァ……」
五条「大丈夫だ。そのままゆっくり呼吸して」
ひな「ハァハァ……ハァハァ、……ケホッ……ハァハァ……ハァハァ」
背中をさすってくれる五条先生に完全にもたれかかって、わたしは荒い呼吸を繰り返す。
ひな「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
五条「そろそろ横になるか?」
ひな「コクッ……」
発作が落ち着きベッドに横になると、五条先生は聴診しながら、
五条「ひな、朝になったら一緒に病院行くぞ」
って。
ひな「やだ、行かない……もうすぐテストだから。勉強しないと……」
五条「ダメだ。熱もあるのに勉強してる場合じゃない」
え、熱?
ひな「熱はないです……」
五条「いいや、ある。おでこも首も熱い。7度7分くらい出てるぞ、測ってみるか?」
と言われたけど、五条先生の手のひらセンサーで十分なので首を横に振った。
五条「どうせ明日は注射だし、とにかく一緒に行くからな。ほら、朝また起こすからもう1回寝なさい。身体休めるのが1番だぞ」
と、しばらく肩をトントンしてもらい、五条先生のベッドで朝を迎えた。
そして、五条先生の出勤と一緒に病院へ来ると、さっそく病室に入れられて診察を受ける。
藤堂「ひなちゃん、大きく深呼吸してー」
こんなにじっくり聴診されるの久しぶり。
真剣に耳を傾ける藤堂先生の顔を見てると、少しずつ少しずつ、眉間にシワが寄っていく……。
藤堂「うーん……ひなちゃん、今結構苦しいでしょ?点滴して今日はもう入院ね。1日安静にするよ。鉄剤も点滴から入れるからね」
ステートを首にかけて、わたしのボタンを留めながらそう言う藤堂先生。
ひな「大丈夫です、そこまでしんどくないです……早く勉強したいので、夜には帰らせてください」
藤堂「それはダメ。喘鳴が聞こえてるし熱もあるの。今日無理したらテスト受けさせないよ。1日じっとしてれば落ち着くはずだから、今日だけしっかり休もう」
と言われてしまい、鉄剤ともう1つ輸液に繋がれて、今日はベッドの上で過ごすことが確定。
とはいえ、このわたしがじっと大人しくしてるわけがなくて、藤堂先生が部屋を出た後、こっそり持って来ていたノートで勉強した。
***
——翌日
ひな「ケホケホッ……」
今日は起きた時からしんどい。
明らかに熱が上がってそうなしんどさ。
昨日は安静にと言われたけど、結局、先生たちが部屋に来ない間はずっと勉強してたし、なんなら消灯後も日付が変わるくらいまで勉強してたから、そのせいかもしれない。
やばい、これは今日絶対退院できない。
退院できないどころか、大人しく寝てなかったことがバレたら怒られる。
どうしよう……どうやってバレないようにしよう……
って、さっきからそればっかり考えてる。
コンコンコン——
祥子「ひなちゃんおはよう~」
ひな「祥子さん、おはようございます」
9時頃になって、祥子さんがラウンドに来た。
祥子「ひなちゃん食欲なかったのね。しんどい?」
あっ……
今朝はご飯を半分くらい残したんだった。
看護助手の人が下げてくれたから油断してたけど、食事量確認されてるに決まってる。
藤堂先生にバレないようにって考えてたけど、その前にまずは祥子さんだ……
ひな「あ、あの……もうすぐ大学入って初めてのテストなので、なんかすごく緊張しちゃって喉通らなくてっ……」
祥子「あら、そんなに緊張してるの?試験はいつからだっけ?」
ひな「3日後です」
祥子「本当にすぐね、それなら早く治さないと。お昼はしっかり食べてね」
と、ここは怪しまれることなくクリア。
祥子「そしたら、お熱測ってくれる?」
ギクッ!
そうだ、ここで検温があるんだった。
やばい……
まだ藤堂先生が来てないというのに、もはやこれが最大の難関かもしれないと、渡された体温計を祥子さんにバレないようゆる~く挟む。
ピピッ……
すぐに脇から取って確認すると、36.9℃の表示。
んー……ちょっと怪しいけど、まぁセーフかな?
と、祥子さんに渡すと、
祥子「36度9分ね。ありがとう。そしたら血圧測るわね」
と、第二関門もなんとかクリア。
だけど、
祥子「うん……?ひなちゃん腕すごい熱いわね」
ひな「え?」
あ、やばい。
バレる……?
えっと、えっと……
ひな「あ、祥子さん来るまでずっと布団にくるまってて、冷房で少し寒いな~なんて、腕を背中の下に挟んでたんです!そ、それでかな?」
と、とんでもなく意味不明な説明をするも、
シュッ……シュッ……シュッ……シュッ……
祥子さんは何も言わず真剣に血圧を測ってて、
祥子「うん。血圧は問題ないわよ。大丈夫みたいね」
って。
はぁ……よかった、危なかった……。
と、第三関門も無事突破したところで、
コンコンコン——
藤堂「ひなちゃん、おはよう」
ラスボス、藤堂先生のご登場。
さぁ、既に一山越えた感じではあるけれど、本当の勝負はここから。
藤堂先生の目をうまく掻い潜ることができるか……
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