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わたしの心臓①
しおりを挟む*ひなのside
ピッ……ピッ……ピッ……ピッ…………
真っ白な天井
淡いグリーンのカーテン
一定のリズムを刻む機械音
よかった……
わたし、生きてた……
手術から目が覚めた。
見慣れた病室の景色とはいかなかったけど、知ってるICUの景色にホッとした。
手術を受けるのはこれが2回目。
だけど、全身麻酔で行う手術は今回が初めて。
そんな手術がまさかの心臓の手術で、麻酔にかかる前、立ち会ってくれてた五条先生の顔を見ながら、
この景色が……こうして五条先生と目が合うのは……これが最後になるかも。
もう2度と、わたしは目を開けられない。
五条先生にもう会えない…………のかな……。
そう、覚悟と不安が入り混じる中で眠りに落ちた。
だけど、今わたしの目は開いてる。
まだぼーっとするけど、この景色、この音、この匂いは、夢なんかじゃない。
そう思い、落ちてくる瞼を一生懸命上げて、目の焦点を合わそうとしてると、
五条「ひなー?」
五条先生の声が聞こえてきた。
五条先生……
……五条先生の声だ。五条先生がいる。
五条先生どこ……?
声を出そうにも、ICU恒例酸素マスク……じゃなくて、これはあれだ、人工呼吸器に繋がれてるんだ。
管があって全く声を出せない。
五条「ひなわかるか?わかったら手握ってごらん」
あ、そっか。
手を握るんだ。
手……手……えっと手は…………
まだうまく働かない頭と神経を奮い立たせて、手をほんの少し動かしてみる。
すると、
五条「ひな、よく頑張った……」
という、五条先生の安心したような、安心しすぎて力の抜けたような声がして、頭にふわっと優しい感触が。
そして、目の前にはわたしを覗く五条先生の顔。
五条「手術、無事に終わったぞ」
そっか。無事に終わったんだ。
よかった。
それじゃあ、これは本当に夢じゃないね。
また、五条先生と一緒にいられるんだね。
と思ってると、
工藤「ひなちゃん、呼吸器外すな」
工藤先生の声が聞こえて、周りがバタバタし始める。
工藤「ひなちゃーん、口大きく開けてー」
できてるかわからないけど、とりあえず言われるがまま口を開けてみると、喉から何か抜ける感覚が。
五条「まだ眠いな。麻酔覚めるまで寝てたらいいから、ゆっくり休むんだぞ」
あぁ、そうか。まだ麻酔が残ってるんだ。
全身麻酔ってすごい……
と、わたしはまたすぐに目を閉じた。
次に目が覚めると、さっきの夢心地な目覚めとは一転。
胸が痛くて痛くて仕方ない。
麻酔からも覚めてるようで頭はクリア。
だけど、鮮明になった意識の中でも、痛みで視界はぼやけるのみ。
ひな「ハァハァ……ハァハァ……」
工藤「ひなちゃん痛い?」
ひな「コクッ……」
工藤「よしよし、わかった。お薬入れるな。すぐ効くから大丈夫だぞ」
と言われるものの、薬が効くまでの時間が地獄みたい。
今、自分の胸にある傷がどうなってるかわからないけど、それなりにメスが入ったことがわかるくらい、とにかくすっごい痛む……。
それに加え、胸を動かすのが怖くて呼吸も浅くしかできない。
ひな「ハァハァ……っ……ハァハァ……ッハァ……」
工藤「ひなちゃん痛いな。もうちょっとで痛み引くからな。深呼吸しなくていいから、落ち着いて酸素吸ってごらん」
工藤先生が手を握ってくれると、少し気が緩んで目尻から涙がスーっと。
すると、その涙をそっと拭う誰かの指が触れた。
五条「ひな。大丈夫……大丈夫だぞ」
ぽん、ぽん……
五条先生……。
そばにいてくれたんだ。
目を開けた時、そばに五条先生がいるのがどれだけうれしいか。どれだけ安心するか。
今度は気が緩み切って、わたしは再び眠りについた。
ICUを出たのは手術から2日後の夜。
思ったより早く病室に来れたけど、まだ身体にいろんな管が繋がれてて、胸は痛いし、なぜか痰の吸引まで毎日何回もされるしすごくつらい。
それに……
工藤「ひなちゃん、痛くない程度でいいからしっかり呼吸してみてな」
ビクッ……!!!
ひな「嫌……!!」
聴診が怖くて受けられなくなった。
手術が終わってすぐは、無事に目が覚めた、ただそれだけで安心した。
でも時間が経つにつれ、心臓にメスが入ったことが徐々に怖くなってきて、胸を見られるも触られるのもなんだかすごく怖い。
胸を見られるたび、触れられるたびに、
"守らなきゃ"
って、とにかくこの心臓は誰にも触れて欲しくなくて、たかが聴診が、されど恐怖の聴診に。
ひな「ハァハァ……お願ぃ、やめて……おねがぃ……ハァハァ」
工藤「うん、わかった。そしたら聴診はやめとこう。もうしないから大丈夫だぞ」
藤堂「ひなちゃん、胸痛くなっちゃうから落ち着こうか。もう怖くないからね」
ひな「ハァハァ……ハァハァ……グスン」
工藤「泣かなくて大丈夫だぞ。大丈夫大丈夫。ごめんな、怖かったな」
そんなわたしの気持ちを、先生たちもわかってくれてるようで無理にはしてこない。
工藤先生も藤堂先生も、わたしの胸にはそれ以上触れないようにして、頭や肩を優しくトントンしてくれた。
***
*工藤side
工藤「お疲れ様です」
内科の医局に黒柱が集合。
最近は毎日こうして集まって、ひなちゃんの経過をみんなと共有してる。
工藤「本日、術後4日目です。昨日ペースメーカーを外しましたが、血圧、脈、心拍ともに問題ありません。ドレーンを抜いた箇所の出血も止まりました。リード線を今日この後抜く予定です。微熱がまだ下がらないので引き続き注意していきますが、術後の経過は概ね良好です」
宇髄「ん。……で、どうだ。ひなちゃんまだ触らせてくれないか?」
いつものように報告を終えると、話はさっそくその話題に。
工藤「はい。触るどころか見られるのもダメみたいです。傷の確認や聴診はひなちゃんが寝てる隙になんとかという状況です」
宇髄「そうか……」
藤堂「心電図は繋いだままなので問題ないですが、心エコーとレントゲンができないのをどうしようかと悩んでいるところでして……検査とリハビリのスケジュールがまだ組めません」
手術の翌日、胸の傷口を確認しようとすると、まだしんどそうにぼーっとして、酸素マスクもつけていたのに、ひなちゃんは『やめて……!』と泣き始めた。
それから次の日もその次の日も、そして今日も。
心臓の辺りを決して触らせようとしない。
五条「どうしても怖いようなんです。穴があいて一度メスが入った心臓に、これ以上何か起こるのが怖いみたいで……。欠損症のこと話した時から、ひな……ずっと心臓のこと庇ってます」
神崎「検査や診察ができないのはもちろん、精神面は心配ですね。ひなちゃんは精神的にやられると特に崩れていくから、聞いてる様子じゃ回復も遅れるかも」
宇髄「夏休み中に退院させてやりたいと思ってるんだがなぁ……」
藤堂「えぇ。ですがまだ食事も取れてないんですよね……」
宇髄「う~ん……なかなか厳しいな」
工藤「術後はある程度ナーバスになるだろうと想定してましたけど……」
宇髄「思った以上だな」
藤堂「ですね……」
と、みんなで頭を抱えながら、黒柱会議は今日も1時間ほど行われた。
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