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カテーテル検査③
しおりを挟む祥子「ひなちゃん、お疲れ様」
検査室の看護師さんから祥子さんに引き継いでもらい、祥子さんの声を聞いてようやく、
終わった……
という気持ちになった。
祥子「ひなちゃん、今気持ち悪いとか痛いとかない?」
ひな「はい」
祥子「うん、よく頑張ったわね。そしたら、これから6、7時間安静になるから、少しつらいけどしばらくこのままね」
そうだった……
検査が終わっても6、7時間は絶対安静にしないといけないらしく、この仰向けの状態から動けない。
説明してもらってた時は、そんなの寝てるだけだし余裕じゃんって思ってたけど、足に巻かれてるベルトが地味に痛いし、今はまだ朝の10時過ぎ。
夕方までこのまま動けないって、そんなのできるかな……?と今になって思ったけど、
祥子「30分後に一度様子見に来るから、それまでゆっくりしててね。ここにナースコール置いておくから、何かあったらすぐ呼んで」
と、手元にナースコールのボタンを置いてもらって、祥子さんが出て行くと、
ひな「スー……スー……」
わたしは速攻で眠りについてた。
***
*五条side
~内科医局~
ひなの検査が終わったと連絡をもらって、藤堂先生のとこにみんなが集合した。
五条「お疲れ様です。工藤先生、藤堂先生、ありがとうございました」
宇髄「2人ともお疲れさん。ひなちゃんの血管難しかっただろ」
工藤「はい。最初、カテーテル入れる時かなり痛がってて、なんでかな?と思ったんですが、緊張で血管が収縮してしまいさらに細くなってたようです。それで痛かったのかなと」
藤堂「正直、血管の細さも心臓の小ささも、カテーテルできるギリギリのサイズでした」
工藤「血圧も一時急激に下がったので、身体への負担がひなちゃんにはかなり大きいようです」
宇髄「そうか。今後心カテする必要が出てきた時は考えないとな……。で、結果の方はどうだった?」
今回のカテーテル検査。
1番心配だったのは、肺高血圧症を合併してないかどうか。
手術の適応については、息切れや不整脈の症状が出ていることや欠損の大きさなどから、必要であることは判断できていた。
欠損箇所の位置やさっき話してたひなの心臓の大きさから、治療はカテーテルでなく開胸手術とすることが決まっている。
ただ、血液検査の結果から肺高血圧の可能性が拭いきれず、心カテ検査は行った。
もし、肺高血圧症になってた時は……
ひなの寿命が短いことを、覚悟しないといけなくなる。
工藤「心配だった肺高血圧は大丈夫でした。肺動脈圧は平均値で問題なかったです」
五条「はぁ、よかった……」
これまでひなにいろんな検査をしてきたが、結果を見聞きするのがこんなに怖いのは正直初めてだった。
どんなに悪い結果でも治せる自信があったけど、肺高血圧になれば移植しても長く生きられる望みは薄い。
だから、もしもそうだったら……と考えただけで、俺の心臓に穴があいてしまいそうだったので、工藤先生の言葉を聞いて心底ホッとした。
藤堂「悠仁、一安心だね」
五条「はい、ありがとうございました。まだ手術がありますが、ひとまずよかったです……」
それからしばらくして、時間ができたのでひなの様子を見に病室へ来た。
ちょうど祥子さんが血圧を測ってるところで、ひなはぐっすり眠ってる様子。
祥子さんに聞くと、帰室してから3時間ずっと眠ってるらしい。
ひなの手を軽く握りそっとおでこを撫でてみても、検査の疲れかピクリともせず、本当にぐっすり。
バイタルも安定していて、落ち着いてるとこのことだったので、安心して仕事に戻った。
でも、それから2時間後……
医局でカルテの整理中、パッと時計を見ると15時半。
お腹も空いてくるだろし、そろそろひな起きるかもな……
なんとなくそう思って、
五条「神崎先生。すみません、ちょっとひなのところ行ってきます」
神崎「うん、了解。何かあったら呼ぶからゆっくりしてきていいよ」
五条「ありがとうございます」
と、ひなの部屋へ来てみると、ベッドの上でひなが泣きじゃくってた。
五条「ひな!?」
ひな「うぅっ……五条っ、せんせっ……ヒック、ヒック……」
ナースコールは床の上。
祥子さんが手元に置いてくれてたから、恐らく押そうとして落としたんだろう。
すぐにそれを拾い上げてボタンを押し、藤堂先生を呼んでもらった。
藤堂「ひなちゃん、どこか痛い?」
ひな「足っ……ヒック、ヒック……痛い……っ、グスン」
どうやらひなは、止血してる足が痛むらしい。
しかも、足に巻いてる固定バンドを無理やり外そうとしたのか、点滴の方がズレてしまい腕まで腫れてる。
工藤先生にも来てもらって、とりあえずひなを落ち着かせようとするも、ひなは完全にパニック状態。
藤堂「ひなちゃーん、落ち着いて。大丈夫大丈夫」
ひな「うぅっ、ヒック……ヒック、痛い……っグスン、グスン……」
五条「ひなー?少しだけじっとしてごらん。工藤先生に痛み止め打ってもらおう、な。そしたら痛いのすぐ治るから」
藤堂先生が点滴の漏れた左腕をなんとかしてくれてる間に、俺は工藤先生が鎮痛剤を打てるよう、ひなの右腕を押さえる。
でも、なぜかひなが嫌がって仕方ない。
ひな「ヒック、ヒック……痛いのもぅやだ……っ」
五条「痛いの治すためにするんだぞ?工藤先生すぐ終わらせてくれるから、そんなに痛くないから。なにがそんなに嫌なんだ……」
一旦右手を持つ力を緩めてやって、ひなの肩の辺りをさすってやると、
ひな「みんな嘘つき……ヒック、工藤先生、注射上手じゃない。すっごく痛かった。今までで1番痛かった!!グスン、グスン」
なんて言い出した。
五条「は?」
藤堂「ひなちゃん、突然どうしたの……」
工藤「俺のせいか……」
いや、そんなこともそんなわけもない。
何かおかしい……
五条「ひな、なんで突然そんなこと言うんだ。工藤先生に注射される夢でも見たか?」
ひな「違うぅ……痛かったの、ヒック……麻酔痛かった……うぅ……グスン」
工藤「麻酔?ひなちゃん、麻酔って今日検査の時にした麻酔の注射?」
ひな「グスン……グスン……、コクン」
藤堂「あっ……そういうことか……」
俺は今日の検査に立ち会ってなくて、その時のことがわからない。
ただ、藤堂先生が何かに気づいたことは、俺がピンときたことと恐らく同じはず。
で、その解を答えたのは工藤先生本人。
工藤「ひなちゃん、麻酔の注射が痛かったから怖くなっちゃったんだな。でもな、あの麻酔の注射をしてくれたのは、麻酔科の先生だったんだ。俺は、麻酔してないんだ(笑)」
やっぱりそういうことだったか。
どんな注射でも、工藤先生の手にかかればそこまで痛いはずはない。
きっと、ひなは麻酔されるところが見えてなかったから、工藤先生が全部してると勘違いしたんだろう。
そんなひなは、涙を引っ込めて"えっ……?"という顔をしてる。
藤堂「ひなちゃん、工藤先生が麻酔してると思ってたんだね。工藤先生が今からするよーって声かけてくれてたから、勘違いしちゃったね」
ひな「工藤先生じゃなぃの……?グスン」
工藤「あぁ、俺じゃないよ。今日、検査の時いっぱい先生いただろ?あの中に麻酔科の先生もいたんだ。ごめんな、言ってなかったからわかんなかったな」
藤堂先生も工藤先生もさすが優しい。
俺ならひなのこと怒ってしまいそうだし、なんなら今も本当は怒りたいところだが……
ひな「ごめんなさぃ……グスン」
本気で反省してるから今日はよし。
工藤「気にしないでいいぞ~!その代わり、右腕に少しチクっとさせてくれる?」
と、工藤先生がひなの頭をわしゃわしゃ撫でると、ひなはコクッと頷いた。
五条「ん。ひな頑張るぞ」
また右腕を掴むと、大人しくじっとしてくれて、少しピクッとしただけ。
工藤「ひなちゃん痛かった?」
ひな「フリフリフリ……」
工藤「よかった!これで足が痛いのも治まるからな」
と言ってる間に、藤堂先生も右腕に回って点滴を入れ直してくれて、ひなもすっかり落ち着きを取り戻した。
そしてこの後は、
痛みが引いたと思ったら、今度はお腹が空いたと言ってきたので、まだ身体を起こせないひなの口に、ひと口ずつご飯を運んでやった。
その後、検査から7時間経過のタイミングでは、ひなが途中ああなったんで止血が十分でなく、絶対安静期間が延長。
翌朝、よくやくバンドと尿道カテーテルを取って、カテーテル検査一連の処置を終えた。
そして、その1週間後……
ひなは心臓の手術を受け、無事に成功した。
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