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オープンキャンパス①

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夏樹「……ひなの、大丈夫か?」





あれから3時間くらい経って、今、夏樹くんとノワール医大の食堂にいる。



藤堂先生の大事なお話はやっぱり良くないことだった。

わたしは生まれつき心臓に穴があって、それがどんどん広がってしまってる。

だから、その穴を閉じる手術をしなくちゃいけないって。

昨日のことは覚えてないけど、自分で心臓がバクバクするって言って不整脈が出てたらしく、最近すぐ息切れするのも心臓のせいらしい。

明日は定期健診の後そのまま入院して、明後日詳しい検査をする。そして、夏休みの間に手術して退院までできるようにしようって。



そんな話を先生たちは昨日の夜にしてたのに、当のわたしが身体を休めるどころか意気揚々とオープンキャンパスに行こうとしてた。

しかも、そのことを先生たちは誰も知らなかったから、どういうことだってなったみたい。



でも、オープンキャンパスに行くことは夏休みの宿題でもあるし、自分が行く大学をどうしても見ておきたいってお願いしたら、藤堂先生と工藤先生にも聴診されて、いくつか注意事項を伝えられて、最終的には行ってきてもいいよって。

それで夏樹くんと2人で来て、一通りキャンパスを見て回って、遅めのランチをしてるところ。





ひな「うん、全然大丈夫だよ」


夏樹「全然大丈夫に見えねーんだけど」





と、3分の1も減ってないノワール医大名物ふわとろオムライスに視線を落とす。

夏樹くんはもう食べ終わりそう。





夏樹「ひなのが好きなオムライスも食べれないってことはしんどいんだろ?」


ひな「しんどくないよ。ゆっくり歩いたから本当に平気」


夏樹「そうじゃなくて。今は心がしんどいんじゃねーの?身体でも心臓でもなくて、心が」





えっ?

夏樹くん、いつからそんな……





ひな「やめてよ、そんな先生たちみたいな、わたしのことなんでもお見通しみたいなこと言うの。心も身体もどっちもしんどくないよ」


夏樹「嘘つけ。朝はずっと泣きそうなの我慢してて、五条先生と言い合って、藤堂先生の話聞いて。オーキャン来て少し元気になったかと思ったら、なんか悩んだ顔してる」


ひな「……っ、そんなことないから。確かに心臓のことはちょっとびっくりしたけど……でも不整脈があるとか前に言われてたし。心臓悪いのは元々知ってたから平気だって!」





と、大きめのひと口をスプーンに乗せて、口のいっぱいに詰め込んだ。

すると、





夏樹「あのさ、ひなの。今ここで本当はどうなんだ?なんて言うのはやめとくけどさ……俺、いつでも話聞くからな。今日みたいに、みんなに責められたり怒られたり……いや、まぁそれもひなののためなんだけど、やっぱり逃げ場がなくなるとつらいだろ?そういう時は、俺がいつでも話聞くし、泣きたきゃ肩だって貸すから」





夏樹くん……





夏樹「一緒にこの大学入って、これから先も俺たちの付き合いは続くだろ?だから、いつでもひなのの味方になるから、それだけ忘れんなよって言いたかった」


ひな「……や、やめてよ。夏樹くんにそんなこと言われると調子狂っちゃうじゃん」





ありがとうって言えばいいのに、素直にそうは言えなかった。



悔しさか、焦りか、寂しさか。



あんなにバカだった夏樹くんなのに、いつでもわたしの味方だなんて、いつの間にそんなこと言うようになったんだろう。

わたしは自分のことで精一杯なのに、夏樹くんは人のことを考える余裕があって、夏樹くんですらちゃんと大人になってる。



わたしはひとつも成長してないのに……



そんな気持ちを隠すように、残ったオムライスを次から次へと、止まることなく口に放り込んでると、





夏樹「ちょ、無理して食わなくていいって!食えない分俺が食べるから」


ひな「大丈夫っ。全部食べれるからちょっと待ってて!」


夏樹「わかった、わかった。それじゃあ落ち着いてゆっくり食えって。俺いくらでも待つから、な?ひなのの好きなもの、ひなのがいらないって言わない限り、取って食べたりしないから」





と、子どもみたいなわたしを前に、夏樹くんはここでも余裕を見せた。










***



*五条side





藤堂「悠仁、ひなちゃんそろそろ帰ってくるかな?」





14時半。

少し前にひなから帰るとLIMEがあって、そろそろ家に着く頃だ。





五条「そうですね、もう着くと思います」


藤堂「じゃあ、メロンパン出しとくね。ひなちゃん帰って来たら温めよう」





と話してると、





ピロリン♪


"今、ひなのとマンションの下で別れた"





夏樹からLIMEが。





"ひな送ってくれてありがとう"





と返すと、





"体調は大丈夫だと思うけど"

"たぶん心が大丈夫じゃないと思う"

"今日はもう怒ったらダメだぞ"





って。





五条「ははっ」


藤堂「うん?なに笑ってんの?」


五条「いや、夏樹がひなを送ってくれたみたいでLIMEきたんですけど、そしたらほら」


藤堂「あら、夏樹がこんなこと言うようになったの(笑)」





LIMEを見せると、藤堂先生もクスッと。





"お前に言われなくてもわかってる"





と、返事を送ったところで、





ガチャッ——





ひなが帰ってきた。





五条「おかえり」


ひな「ただいま」





玄関で靴を脱ぐひなに声をかけると、返事はしてくれたが明らかに元気がない。





五条「リビングで待ってるから。手洗って着替えたらおいで」





と言うと、コクッと頷いた。










***



*ひなのside





藤堂「ひなちゃん、おかえり。こっちおいで」





着替えてリビングに行くと、ソファーに座る藤堂先生に手招きされる。

藤堂先生の前まで行くと、





藤堂「座って」





ソファーをぽんぽんってされたので、隣に腰を下ろした。





ひな「藤堂先生……他の先生たちは?」


藤堂「みんなもう帰ったよ。ごめんね、僕だけ居座ってて(笑)」





と言いながら、藤堂先生はもうわたしの手首を掴んで脈を測ってる。





藤堂「外暑かったでしょ。しんどくなってない?」


ひな「はい、大丈夫です」


藤堂「うん、ならよかった。そしたら聴診はなしにしとこう」


ひな「え?」





手にステートを持ってるから、絶対聴診もされると思ってたのに。





藤堂「脈は安定してるし、明日定期健診だしね。今日はもうひなちゃんの苦手なことしないでおくよ」





ぽんぽん……





と、藤堂先生のキラキラスマイル。





ひな「あ、ありがとうございます」


藤堂「うん。その代わり、オープンキャンパスどうだったか聞かせて?おやつでも食べながら」


ひな「おやつ……?」





正直言って、今はあまり話したい気分じゃない。

五条先生においでって言われて来ただけで、本当は自分の部屋で1人になりたい。

オムライスでもうお腹もいっぱいだし断ろうと、そう思ったけど、





藤堂「うん。お昼は悠仁と外へ食べに行ったんだけど、その帰りに買ってきたの。ひなちゃんの好きなメロンパン」





メロンパン……



おやつなんてどうせゼリーかアイスとかだろうって思ったら、まさかの大好きなメロンパン。

しかも、久しく食べてなかった。

昨日はプリンを食べたのにメロンパンを買って来てくれるなんて、何かあるのかなんだかで釣られてる気がするけど、それでも大好きなメロンパンを無視することはできず、





ひな「メロンパン……食べたいです」


藤堂「うん、そしたら向こうで悠仁と食べよう!」





と、ダイニングへ。



テーブルには軽くトーストされて焼きたての香りがするメロンパンと冷たい牛乳が用意されてる。

五条先生と藤堂先生にはコーヒーが淹れられてて、幸せなおやつタイムの香り。





五条「ん、ひな座って。疲れただろ?甘いもん食べて休憩するぞ」





五条先生が椅子を引いてくれて席に着いた。





ひな「いただきます」





久しぶりに食べるメロンパン。

気分が沈んでても、好物を目の前にするとどうも気持ちが逸ってしまう。



パクッ!



大口開けてかぶりつくと、曇った気分を晴らすように、幸せが口から全身へと広がった。





藤堂「ふふっ。ひなちゃんは本当幸せそうな顔して食べるね。見てるこっちも幸せになるよ」


五条「少食なのに食べることは好きだよな。その勢いでご飯もいっぱい食ってくれれば良いんだけど」





……っ、なんで藤堂先生がいいこと言ってくれてるのに、五条先生はそう余計なこと言うかな……。





ひな「最近はたくさん食べてますけど……。今日だって、大学でオムライス全部食べたんです」


五条「オムライスって食堂のか?」


ひな「はい。大学の名物らしくて、夏樹くんが1番人気だって」


藤堂「ひなちゃんあれ全部食べたの?すごいね。結構量あったでしょ。大学の食堂は学生向けだから全体的に量が多いんだよね。無理して食べたんじゃない?」


ひな「いえ……!無理なんてしてないです」


五条「あれ食ってメロンパン食べるのはなかなかだな。あとで吐くなよ」


ひな「……っ!吐かないです!!」





と、また一言多い五条先生をギロッとにらんで、メロンパンにかぶりついた。


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