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鉄剤注射③

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五条「治療がつらいか?」


ひな「え……?」


五条「注射。しんどい?」





五条先生、きっと帰ってきた時からそう思ってたんだろうな。

それで、いつわたしに話すか考えてたんだろう。

だから、お風呂先入ってって言った時、いつもみたいに"ひな先入れ"って言わなかったんだ。

寝る前にこうして話すために。



ソファーに座ってもお姫様抱っこから降ろしてくれなくて、じーっと目を見つめられてる。

そんな五条先生の瞳に降参して、わたしは静かに頷いた。





ひな「あと4回あるの……3日に1回、黒くて大きい注射。腕もあざだらけになっちゃって、刺す場所無くなってきたのか何回も刺されるの。これがあと4回」


五条「そうだな。明日で7回目だな」


ひな「うん……だけどわたし、五条先生の言う通りちょっとしんどいかもしれない……。藤堂先生に頑張るって言ったけど、明日頑張れるかわかんなくて。憂鬱な気持ち仕舞い込んだはずなのに、全然仕舞い込めてなくて……」





なんだか今日は、不安な気持ちをすごく素直に打ち明けられた。





五条「ありがとう、ひなの心の声ちゃんと聞かせてくれて。うれしい」





トクン……





弱音吐いてるのに、うれしいありがとうって、五条先生がぎゅってしてくれる。

憂鬱な気分も晴れてしまうほどで、わたしもぎゅっと抱きついた。





五条「明日は注射休むか?藤堂先生、日を空けてもいいって言ってくれただろ?」





あ……。藤堂先生から話はちゃんと聞いてるんだな。

って、いつものことか。





ひな「でも、本当は今のペースで続ける方がいいって。それなら修学旅行もあるし、治療の終わりが先延ばしになるのも嫌だし、頑張りたいって思ったんですけど……」


五条「治療日が近づいてきたらやっぱり不安で嫌になるのか」


ひな「コクコクコク……」


五条「んー、そうだな……どうするか。緊張状態で明日頑張って行って、この前みたいに過呼吸起こすのもな……」





そうなんだよね。

藤堂先生に迷惑かけちゃったし、自分も苦しかった。





五条「なぁひな。ひなはどうして緊張しちゃうんだ?」


ひな「え?どうして……かな……?」


五条「注射が怖いだけか?そうだとしても、注射の何が怖いとか……どこからその緊張や不安は来る?」





うーん……えーっと……





ひな「注射は……とにかく痛いのが怖くて緊張します。あとは、入院してる時と違って看護師さんが毎回違ったりするから、それも緊張します。今日はどんな人かなとか、一発で針入れてもらえるかなとか」


五条「んー、なるほどな。そしたら……明日から祥子さんにしてもらうか」


ひな「え?祥子さんに?」


五条「あぁ。今のひなの話聞くと、慣れない看護師だから余計不安に感じるんだろ。痛いのは仕方ないけど、知ってる人なら少しは不安な気持ちもマシにならないか?」





……そうかも。

外来の看護師さんだからいつもより緊張するってのは確かにあった。

祥子さんなら安心できるし、注射も上手なんだもんね。



だけど、そんなのいいのかな?

通院で祥子さんにやってもらえるのかな?





ひな「祥子さんにしてもらえるなら、わたし祥子さんがいいです。でも、そしたら入院しないとダメですか?」


五条「いや、入院はしなくていいだろ。今まで通り通院で打ってもらえばいい。まずは藤堂先生に相談するけど、まぁ問題ないはずだ。俺から頼んどくから」


ひな「本当にいいんですか?ありがとうございます」


五条「あぁ。明日、学校終わるまでにLIMEしとくから、それ見て病院行くんだぞ?」


ひな「はい。わかりましたっ」


五条「……やっと、ちょっと元気になったな」


ひな「え?」


五条「ひなの声が明るくなった」





って、ぎゅっとしてた体を離されて、再び五条先生に見つめられる。

優しく微笑んでくれる五条先生に、五条先生のおかげですって心の中で言いながら、負けじと見つめ続けてみたけど……





ひな「ご、五条先生?そろそろ寝ましょう……か」





先に負けたのはわたし。

これ以上、五条先生の瞳を見てるのは気が持たなくて、目を逸らしてそう言った。

すると、





五条「じゃ、今日は一緒に寝るか」


ひな「えっ?ぁ、ちょっ……わぁぁっ!!」





って、お姫様抱っこで寝室に連れて行かれて、五条先生のベッドにイン。

恥ずかしくてドキドキが止まらなくて、でもうれしくって。

五条先生の体と腕に包まれながら、幸せな気持ちで眠りについた。










***



そして、翌日。



五条先生が藤堂先生に昨日のことを伝えてくれて、残りの注射は全部祥子さんがしてくれることに。

祥子さんに毎回外来へ来てもらうのは申し訳ないし、藤堂先生も外来に入らなくて良くなるということで、病棟の処置室で打ってもらうことになった。

というか、藤堂先生はいつもわたしの定期健診や治療に合わせて外来に入ってたみたい。

普段はそんなに入らないんだって、そんなの初めて聞いたしなんか申し訳ないよ……

ということで、学校終わりに病棟の処置室へ。





祥子「まぁ……ひなちゃん腕のあざひどいわね」





袖を捲って腕を見せると、祥子さんがポツリ。





藤堂「ひなちゃんはあざになりやすいんだけどね。それにしても、ちょっとひどいか」





藤堂先生も言うと、





祥子「ちょっとじゃないですよ。それにしても"結構"ひどいです。これ何回も失敗してるし、穿刺も下手だからですよ。痛いしあざになるし、もっと上手くやってあげないと……ねぇ?」


ひな「えっ?ぁ、は、はぃ……」





わ、わたしに『ねぇ?』って言われても……

それに思いっきり下手って、祥子さん結構厳しいこと言うんだな……





藤堂「ははっ。もっと早く頼めばよかった?」


祥子「そうですね。わたしならここまでのあざは作ってないかな?(笑)」





緊張するわたしの横で、相変わらず和やかに話す2人にわたしは苦笑い。





祥子「よし、そしたらひなちゃん消毒するね。親指中で手握っててね」





と言われ、握りしめた腕にアルコールのスースー感。





祥子「少しだけチクっとするよ~……」





うぅっ……怖い……





ビクッ……





……あ、あれ?

そんなに痛くない。

本当にチクッてしただけだった。





祥子「ひなちゃん、もう手のひら開いて力抜いて大丈夫よ~」





と、祥子さんはテキパキと駆血帯を外してくれた。





祥子「今痛くないかな?もし、痺れてきたらすぐ教えてね」





って、言われたけど、





ひな「はい、大丈夫です。針刺さる時も本当にチクッてしただけでした。いったー!! じゃなくて、イタッてくらい」


祥子「ほんと?よかった。針を刺すから多少痛みがあるのは当然だけど、あんまり痛かったり、刺してからもずっと痛い時は我慢せず言っていいのよ?」


ひな「そ、そんな……看護師さん頑張ってくれてるし、わたしの血管が出来損ないなだけなので……」


祥子「血管は人それぞれだから仕方ないわよ。どんな血管が来ても上手くやらなきゃ。それに、看護師って意外と難しい血管の方が燃えるよの(笑)」


ひな「え?ど、どうしてですか?」


祥子「なんでかしらね。でも、看護師あるあるなの(笑)」


藤堂「確かに、ナースの子はみんな採血で一喜一憂したりするよね」


祥子「そうなんです。いい血管だとそりゃテンション上がりますけど、細い血管だったり、一発で成功したことないとか言われると、"やってやるわ!"ってなるんです。だから、失敗すると結構へこむんです」


藤堂「祥子ちゃんが失敗してるの見たことないな~。工藤先生も上手いよね」


祥子「工藤先生の右に出る人はいないですよ!救急もされるからでしょうね。あの正確さとスピードは本当にすごいです」


藤堂「僕も見習わないとな」


祥子「藤堂先生もお上手ですよ。患者の気を逸らすスキルはピカイチです(笑)」


藤堂「あはは。そう?(笑)」





……ってなんか、2人ともすごく盛り上がってるけど、わたしよくわかんないよ。





ひな「あ、あの……」


「「うん?」」


ひな「えっと、藤堂先生も祥子さんも注射上手です」


藤堂「あぁ、ごめんごめん。2人で話しすぎたね。ひなちゃんも話に入れてあげなきゃ、未来のお医者さんだしね」


祥子「あら!そうなの?それは聞いてなかった!」





もう、藤堂先生そんなことは言わなくていいのに……





ひな「は、はい。なんか、いつの間にかそういうことになっちゃって……って、それはそうと……あとどのくらいで終わりますか?」


「「え?」」


ひな「え?」


藤堂「ひなちゃん、注射もう終わってるよ」





え!?





と、注射された腕を見ると、もうテープが貼られてた。





ひな「あ、あれ?また気づかなかった……なんで??」


藤堂「ふふっ。ひなちゃん、今日の感じだと残りの3回も頑張れるかな?」


ひな「はい。祥子さんの注射ならわたし頑張れそうです」


藤堂「うん。そしたら、あと少し頑張ろうね」


ひな「はい」


祥子「ひなちゃん、お疲れ様。またね」


ひな「ありがとうございました」





と、7回目の注射が無事終了。

そしてその後、8回目も祥子さんにしてもらってなんなく終わった。


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